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三菱自動車の燃費データ不正問題から、関連する下請け企業への影響が懸念されている。

自動車産業には、もともと多くの下請け企業が存在する。三菱自動車が、岡山県倉敷市の水島製作所での軽自動車の生産を停止したことで、その下請け企業約7800社への影響が懸念されており、報道によれば既に県内では操業停止に踏み切る取引先が出始めたようだ。

■倒産する下請け企業の経営者責任
金をはらって製品を買ったユーザーと、金をもらって仕事をしていた下請け企業とを同列に並べる愚は避けなければならない。しかし、大企業や金融機関の破綻時に公費が投入されることとの比較で考えると、下請け企業に対する国や金融機関の配慮は酷薄だ。

まして今回は、元請である三菱自動車の方はグループが支援を決めれば延命されることもあり得るが、その支援が下請け企業にまで行き渡ることは考えにくい。

さて、上場企業である三菱自動車がもし存続不能な状況になった場合、現在の三菱自動車の社長、またはこれまで歴代の社長が、法的にも、また株主からも、その経営責任を問われることは、これまでの不祥事からも明らかだ。

しかし同時に、上場企業の社長が会社の債務を個人的に肩代わりすることはない。株式会社の株主は出資の範囲にのみ責任が限定される間接有限責任であり、たとえ社長が筆頭株主であった場合でも、社長の私財に賠償責任は及ばない。まして自ら積極的に個人の資産をなげうって、消費者に金銭的な賠償をしようとすることも、もちろん無かろう。

だが、下請け企業の事情は違う。自動車産業の下請け企業の大半は、いうまでもなく中小零細企業である。経営者はオーナー社長である場合が多く、ほとんど例外なく会社の借入金を個人保証しているだろう。元請けが倒産すると連鎖倒産する下請け企業の場合、経営者個人の経済的リスクもそれに100%連動する。中小零細企業がいわゆる“カンパニーリミテッド”ではないのは、既成の事実である。

事業の状況にもよるが、借入金の担保に社長個人の自宅を入れるのは当然であるし、場合によっては成人した家族まで保証人に要求される。これは企業規模が零細であるほど条件が厳しくなるのが普通だ。金融機関の場合はそのようにして担保や保証人を取るが、とくに保証を約定しない一般債権者であっても同様に、会社との取引が焦げ付けば、社長個人の資産を債務返済に回すよう要求するのが普通だ。中小零細企業の倒産と社長家族の夜逃げとがセットになりがちなのは、社長が事実上の無限責任を負っているからである。

ただ、もちろん中小零細企業の社長には、リスクに応じたリターンがある。会社が儲かっている時にはそれなりの果実を得るわけで、反対に業績が悪くなっても責任を追及されないようでは、それもおかしい。国が大企業や金融機関に対して、公費を投入してまでその破綻を留めようとするのは、経済全体への影響が大きいからである。中小零細企業の倒産に対して同様の判断をすることは出来ない。

しかし日本の経済のうち、特に地方の経済を下支えしているのは、現在のところ中小零細企業である。大企業は会社総数の2%に過ぎず、しかもその本社は大都市に集中しており、地方では中小零細企業で働く人々がほとんどである。地方税収の安定、雇用確保、流通と消費など、地方経済のためにも中小零細企業には破綻しない体質改善が求められ、同時にそれを支援する取り組みも必要だ。

■逆境に強い中小零細企業になるためには
元請けが破綻しての連鎖倒産や、あるいは下請けしていた業務の受注大幅減による倒産などは、何より特定の取引先への依存率が高すぎる点が問題である。依存している元請けからの受注が無くなり、しかもその下請け企業がもともと新規顧客の開拓営業に関して疎いとなれば、取引銀行としても支援に踏み切れない。

投資を考える際にポートフォリオ(リスク管理のために自らの資産を複数の金融商品として分散すること)を組むように、中小零細企業も売上げのシェアを集中させないことが重要であろう。その上で、新規顧客を獲得するための営業についても、経営者によるトップ営業が常態化していれば、なお良い。さらに言えば、業種の好不況を分散させたり、事業の成長期〜衰退期を分散させる意味での多角化をも検討すべきだ。

中小零細企業の経営資源は集中すべし、との考えが一般的には浸透しており、その意味で多角化経営はセオリーから外れると思われがちだ。「小さな会社の社長が副業に手を出して失敗、本業までが傾く」という事例は多い。

しかし論より証拠、実例として多角化することで地方経済を牽引する若い経営者達を分析した書籍(「ヤンキーの虎」藤野英人著)が話題になっている。消費者の好みが多様化し、商品のライフサイクルが短命化した現在では、企業戦略は時期によって変化すべきである。

筆者も地方で関連性のない複数の事業を経営しており、収益先をひとつの事業に絞り込まず、一方が衰退しても別の事業でカバーするという経営手法が、金融機関の融資にあたっての与信評価を補完していることを実感している。

■金融機関に求める支援体制
さて、そのように真摯に経営努力を続けてきた中小零細企業であっても、一度でも破綻すればリターンマッチの機会がほとんど無いのが日本の現状だ。先に述べたように、小さな会社の破綻は経営者個人の破産とほぼセットである。法的に新会社法以降は破産者であっても役員になれるが、金融機関からの資金調達となると話は別で、担保物件も保証人もない破産者に融資してくれる金融機関はない。

しかしこれでは、積極的に起業にチャレンジしようと考える若者がいなくなってしまう。現在の日本の金融機関には、事業計画の実現性や、経営者の能力を評価して融資決定できるだけのスキルがもっと求められていい。多くの企業を見てきた優秀な貸付け担当者なら、これはと思う若い起業家に対して個人保証を条件としないで融資する判断ができるはずだ。

また、これを金融機関のリスクに留めたのでは、融資が鈍化することは目に見えている。国は、2009年のモラトリアム法(中小企業資金円滑化法)のような先延ばし施策ではなく、地方における事業展開を積極的に推進する政策も採るべきだ。今年になって放たれた最大の金融施策であるマイナス金利は、少なくとも今のところ与信判断を広める効果はなく、残念ながら晴れた日に2本目の傘を貸し合う泥試合になっている。

■変わらなければならない経営者と金融機関
かつて日本が工業国として先進国の仲間入りをする高度成長期には、自動車と家電を中心にした“ものづくり産業”が国の成長を支えた。ジャパン・クオリティを築いてきたのは、今回の件で連鎖倒産が懸念されている町工場の技術者や職人たちである。

しかし企業にとって最も重要なのは“存続すること”である点を考えると、ひとつの技術を1社のみに提供する下請け企業の経営スタイルは、今後は変革を求められていく。

同時に、地方の経済を衰退させないために、地銀や信金の中小零細企業の融資に対する与信システムを変革すべきだ。特に連帯保証人制度は、有限責任であるはずの株式会社の本来の在り方と矛盾しているし、時には潰すべき不採算企業を潰すことも出来ず延命させ、経営者個人に執拗に責任追及し続ける異常な状況も生む。

【参考記事】
■日本企業は内部留保の1.6倍も設備投資を行っている。
http://sharescafe.net/46669066-20151023.html
■ 「安定した雇用」という幻想。~雇用のリスクは誰が負うべきか?~
http://sharescafe.net/42556186-20141224.html
■中小零細企業に必要な「仕事がうまい」人材
http://sharescafe.net/48242519-20160331.html
■地方の中小企業経営者が現場から見た「女性活躍」のリアル
http://sharescafe.net/48171281-20160323.html
■せっかくの学びが、地方のビジネス現場で役に立たない理由
http://sharescafe.net/48339489-20160411.html

玉木潤一郎 経営者 株式会社店舗応援団 代表取締役


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