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熊本地震の被災者の方にお悔やみとお見舞いを申し上げます。

■ボランティア休暇の法的な位置づけ
先日、ある個人の方から「熊本の被災地に支援に行くため、勤務先の会社にボランティア休暇を求めることは可能なのか」という質問を受けた。

緊急時における助け合いは非常に大切なことなので、ボランティアを積極的に行おうとする行動力や信念は大変素晴らしいものだと私は思う。

だが、サラリーマンは会社と雇用契約を結んでいるので、原則としては雇用契約で定められた曜日や時間は会社に出勤をして労働を提供する義務がある。

被災地の支援に行きたいと思いつつも同じような疑問を持っている方も少なくないかもしれないので、本稿において「ボランティア休暇」について論じてみることとした。

まず、「ボランティア休暇」というものが法的に存在するのかということだが、残念ながら労働基準法などでボランティア休暇は定められていない。

したがって、法律を根拠に「ボランティア休暇」を取得することは不可能だ。

だが、会社によっては就業規則において法律を上回る休暇制度が定められている場合がある。

慶弔休暇などはその代表例だが、会社によっては「ボランティア休暇」も就業規則に定められていることがある。

就業規則に定められた休暇は従業員の権利となるので、就業規則上の権利に基づいてボランティア休暇を申請できるということだ。

ただし、「ボランティア休暇」が就業規則に定められているとしても、無条件に認められるものではなく、「会社が許可した場合」という許可制であったり、休暇を取得できる日数に上限があったりすることがほとんどなので、就業規則をよく読んだ上で申請するようにすべきである。

なお、「ボランティア休暇」が有給扱いになるか無休扱いになるかも就業規則の定め次第であるので、この点に関しても就業規則を注意して読んでほしい。

■有給休暇をボランティア目的で取得することは可能か
では、就業規則に「ボランティア休暇」の制度がなければ、会社を休んで熊本へボランティアに行くことは不可能なのだろうか。

この点、入社して半年経過していて、要勤務日の8割以上出勤をしていれば、有給休暇を使うことができる。

有給休暇を取得する目的は従業員の自由なので、「ボランティアのため」に有給休暇を利用することはもちろん可能である。

有給休暇の日数としては、正社員やフルタイムの契約社員の場合、取得できる有給休暇の日数は入社後半年後に付与される10日に始まり、1年毎に与えられる有給休暇日数は勤続年数に応じて徐々に増加していき、勤続が6年半以上になると20日取得できることになる。

会社によっては「うちの会社に有給休暇制度はない」と言われることもあるようだが、個人事業であれ、社員数名の小さな会社であれ、労働基準法上、有給休暇がないということがありえない。

さらに言えば、パート社員やアルバイト社員であっても、勤務日数に応じた有給休暇が付与され、取得できることになっている。

なお、有給休暇の時効は2年間なので、1年間は繰り越すことができ、勤続が7年半以上であれば、最大で40日間の有給休暇をストックすることができる。

そうすると、1か月の要出勤日数は20日前後なので、理論上は約2か月ボランティア活動を行うことができる。

■経営者は「時季変更権」でバランスをとる
ただし、逆に会社の経営者の立場に立つと、いかに社会貢献とはいえ、本来仕事をしてくれるはずの従業員が長期間不在となることは、正常な事業運営が難しくなる恐れがある。

そこで、労働基準法は労使のバランスをとるため、「時季変更権」という権利を行使することを会社に認めている。

時季変更権とは、有給休暇を取得すること自体は拒否できないが、有給休暇を取得させるタイミングを会社が変更できる権利である。

例えば、有給休暇を40日持っている従業員から、「40日の有給休暇を全部使って2か月熊本へボランティアに行ってきます。」という申し出を会社が受けた場合、従業員は素晴らしい社会貢献をしようとしているのであるから、不在中の代替要員が確保できるなど、業務上問題が無ければ、無意味に時季変更権は行使せず、「気を付けて頑張ってきてくださいね。」と快く送り出すべきである。

だが、人のやり繰りができないなど、正常な事業運営が困難となる場合は、「連続で40日有給休暇を取得すると会社が回らなくなってしまうので、申し訳ないが、10日ずつ4回に分けて有給休暇を取得して下さい。」というような指示ができるということである。

過去の判例においても、連続1か月の有給休暇の申請をした従業員に対し、会社が後半2週間の時季変更権を行使したことを最高裁判所は合法と認定している。

当該従業員は、会社の時季変更権の指示に従わなかったため懲戒解雇となったが、懲戒解雇についても最高裁判所は合法と認定した。

なお、経営者の立場の方に注意して頂きたいのは、上記判例は、有給休暇を取得したから懲戒解雇なのではなく、時季変更権の業務命令に違反したための懲戒解雇である、ということだ。

普通解雇であれ、懲戒解雇であれ、有給休暇を取得したこと自体を理由とする懲戒解雇は違法である。

であるから、今回のような災害に対するボランティアに有給休暇を取得して参加するという場面においては、経営者の方は従業員の社会貢献したい気持ちを最大限尊重して、可能な限り本人の希望に沿って有給休暇を与えるべきであろう。

逆に、従業員の方も、会社と雇用契約を結んでいる立場である以上、社内の人員のやり繰りなどに配慮して、正当な時季変更権の業務命令には従うべきである。

この点、法律上の根拠はないが、時季変更権によりボランティアに行くのが2往復、3往復になってしまうような場合には、交通費の一部を会社から補助するという配慮なども、「粋」な経営判断ではないだろうか。

時季変更権を申し渡す際、従業員との軋轢を緩和することもできるであろう。

■休暇の取得できる会社を目指すべき理由
さらに付言するならば、従業員が望んだならばボランティア休暇を取得できる職場環境があるのは、素晴らしい会社と言えるのではないだろうか。

金銭的な報酬だけで従業員を惹き付けたり、モチベーションを上げたりするのには限界があるので、従業員に多様性を認めたり、本業以外でも社会貢献をできる場を用意することは、優秀な人材に長く働いてもらうということにつながるに違いない。

「一事が万事」という格言があるよう、誰かがボランティア休暇を取っても、他の従業員がフォローできる職場体制が整っていれば、有給休暇の取得はもとより、育児休業や介護休業も取得しやすい職場になるはずである。

一見、会社経営にとって休暇制度を充実させることはコストが増えてマイナスにも見えるが、「どうすれば休暇を与えられるか」を考える中で、業務の整理や取捨選択がなされたり、情報共有が進んだりして、経営効率が上がることも考えられる。

そして、何よりも、働きやすい職場環境が整備されたことによる従業員のモチベーションの向上は、会社にとってかけがえのない財産になるであろう。

また、災害は日本中どこで発生するか分からないので、企業だから利益追求を第一に考えるのは当然であるが、それでも、「ボランティアに行っている暇があるなら契約を取ってこい」ではなく、「困ったときはお互いに助け合おう」というようなコンセンサスが草の根レベルで日本中の企業に醸成されることは、日本という国の真の強さにもつながっていくのではないだろうか。

《参考記事》
■社会保険の未加入企業は「逃げ切り」ができるのか? 榊 裕葵
http://aoi-hrc.com/shakaihoken-mikanyuu
■社員を1人でも雇ったら就業規則を作成すべき理由 榊 裕葵
http://aoi-hrc.com/blog/shuugyoukisoku-sakusei/
■独立するなら学びたい、AKB48のキャリアウーマン岩佐美咲の仕事術 榊 裕葵
http://sharescafe.net/47686063-20160201.html
■軽井沢スキーバス転落事故。国が本気にならなければ悲劇は繰り返される。榊 裕葵
http://sharescafe.net/47553437-20160118.html
■東名阪高速バス事故、11日連続勤務は合法という驚き 榊 裕葵
http://sharescafe.net/45556859-20150715.html

榊裕葵 あおいヒューマンリソースコンサルティング代表 特定社会保険労務士・CFP 


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