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今年もクールビズの季節がやってきた。5月から9月までの5か月間、政府が旗振り役となり、職場での「ノーネクタイ、ノージャケット」勤務が推奨される。

■初めに
10年以上続いているクールビズであるが、定着率はかなりのものである。開始当初はノーネクタイ姿すら見かけることは稀であったように記憶しているが、近年ノージャケットはもちろんのこと、夏季にはポロシャツ姿(襟が高く一見してシャツのようなデザインの、いわゆるビズポロ)のビジネスマンも珍しくなくなっている。先日地元の地方銀行を訪れたが、そこでも皆ノーネクタイで業務を行っていた。ドレスコードに厳しいといわれる金融業界ですら、クールビズは浸透しつつあるのだ。

「皆が横並びで同じ格好をするというのは気味が悪い」「だらしない、社会人として相応しくない恰好だ」等の批判や、ネクタイ業界からは「売り上げの減少につながる」という声もあったというが、近年の猛暑や先の原発事故での電力不足対応という側面もあり、すっかり職場における夏の定番となった感がある。そもそも梅雨がある日本においてはスーツスタイルは不向きとも言われており、クールビズをすることによる業務能率向上効果は、筆者も日々実感しているところだ。

■ビジネスマンは「見た目」を侮るなかれ
一方で、当事者であるビジネスマンからは「クールビズスタイルをどう着こなしていいのかわからない」という声が上がっているのも事実だ。確かに、白の無地の半そでシャツに黒のスラックスという「高校生の夏服」のようなビジネスマンの姿もしばしば目にする。また「男は見た目でなく中身で勝負」という価値観も根強く残っている。

しかしながら、ビジネスにおいて「見た目」が仕事に好影響を与えることは多くある。心理学上も、人の見た目(服装の色づかい等を含む)による影響は侮れないものがあるのだ。

たとえばアメリカ大統領がここ一番の演説を行う際は「ネイビー(濃紺)のスーツ、白のシャツにエンジ(赤)のネクタイ」というコーディネートを選ぶことが多い。これは「パワースーツ」とも呼ばれ、聴衆に最も説得力を印象づけるコーディネートであるといわれている。ちなみに近年はエンジのネクタイではなく鮮やかなブルーのネクタイを組み合わせることも多いようだ。ブルーは知性を感じさせる色と言われ、相手に安心感や信頼を与える色である。一国の指導者も、演説の中身と同等に、自身の見た目を演出しているのだ。

わが国でもバブルに沸いていた時代は、「ダブルのスーツにこぶし大のノット(ネクタイの結び目)の黄色いネクタイ」を合わせたスタイルが流行した。このスタイルが自他にどのような好印象を与えたかは議論の余地はあろうが、少なくとも当事者たちは高級スーツを身にまとい、気分をアゲて仕事や遊びにいそしんでいたのであろう。また、ホストはブラックやネイビーなど色の濃いシャツを着ていることが多いが、これは濃い色が「危険」を示すからだ。一般にビジネスマンが着ないような危険な色のシャツを着こなすことによって、まさに「危険な夜」を演出しているのである。

このように、たかがシャツやネクタイの色でさえ、TPOに応じた工夫を凝らし着飾ることは、それ相応の意味を持つのだ。クールビズとて、「飲み会後のくたびれサラリーマン」のような格好となるのか、「女性部下も振り向くCOOLなスタイル」とするのかによって、社内外での自身の評価を左右するといっても過言ではないだろう。

■クールビズを成功させるために必要な3つの視点
それでは具体的に、クールビズを実践するに当たりどのような点に気を付ければよいのだろうか。現役ビジネスマンの立場で10余年以上クールビズを研究・実践してきた筆者が、最低限押さえておきたい3つのポイントをご紹介したいと思う。

最初に結論を言えば、何も高級なシャツや革靴を購入しなければクールビズが成功しないわけではない。むしろ、たとえば全身ユニクロの商品で固めていたとしても、驚くほどおしゃれにクールビズスタイルを完成させることが可能なのである。

ポイントその1は「清潔感」である。あなたのシャツの裏襟、袖裏は皮脂汚れで黒ずんではいないだろうか。また、シャツのボタンが取れかかっていたり、スラックスの縫い糸がほつれたりはしていまいか。革靴の底がすり減りすぎていたり、つま先が傷だらけであったりしないだろうか。基本中の基本であるが、どんなに華美な格好をしていたとしても、不潔な印象を与えてしまっては意味のないことだ。無精ひげや髪の伸び過ぎなど、自身のケアも含めて見直したいものである。

ポイントその2は「統一感」である。たとえばあなたが黒い革靴を履くとしたら、鞄やベルト、腕時計のバンドも黒のものを選びたい。時々茶色い革靴に緑の鞄、ベルトは黒といったビジネスマンの姿を見かけるが、どうしてもちぐはぐな印象を持たれてしまう。ちょっとしたひと手間ではあるが、小物の色調を統一するだけで、すっきりとした印象を与えることが可能だ。

なお、歩きやすいからといってカジュアルなスニーカー姿で出勤しているビジネスマンを見かけることがあるが、スニーカーはあくまで運動靴であり、クールビズにはなじまない。足元だけカジュアルとなりすぎるため、全体の統一感に欠けるのだ。近年は複数の革靴ブランドから通気性の良さを売りにした商品(実際に靴底に通気口がある革靴など)が売り出されているのでそちらを使用するか、革靴を模したデザインのスニーカーを履いてみてはいかがだろうか。

ポイントその3はサイズ感である。ポイント1,2と違い、見落としがちなところだ。ノーネクタイのシャツについてサイズが大きすぎると、「子供が大人の服を着ている」ような幼い印象になる。ネクタイを外し襟を開放することを考えれば、普段のシャツよりもワンサイズ下のものを着用するくらいでちょうどよいかもしれない。実際にサイズが大きめのシャツを着ると、ベルト周りの生地が余ってしまいだらしなく見えたり、肩と肩の縫い目がずれてしまい、学生のような見た目になってしまうのだ。

また、パンツについても体型にフィットしたサイズのものを選び、カジュアルなものと違って裾の長さに気を付けたい。ジーンズなどと違い、裾の長さはワンクッション(裾が靴の甲に少しあたる長さ)かノークッションにすることで、足長効果とエレガントな印象となる。シャツもパンツも、自身のサイジングに不安があれば、店員にアドバイスを求めるとよいだろう。

■結びに代えて
最後に、精神論的な話となるが、クールビズをぜひ楽しんでほしいということをお伝えしたい。「好きこそものの上手なれ」とはよく言ったもので、「このシャツを着たらどんな印象になるだろう」「こういう鞄がほしい」など、自分の身なりに関心を持つことは、アンチエイジングや心身の健康にもつながるだろう。「プレゼンの際に必ず身に着けるネクタイ」「ここぞというときに身に着ける時計」などが、仕事やメンタル面に良い効果をもたらすことは往々にしてあるのだ。

おしゃれというものは、一義的には自己満足なものだ。しかし、おしゃれを楽しみながら温暖化防止や捏電対策など環境面にも寄与できる政策がクールビズである。クールビズを楽しみながら職場で涼しげな恰好(そして実際に涼しい恰好)をし、周囲にさわやかな印象を与えることができるならば、今よりさらに良い仕事につなげることができるかもしれない。せっかくあなたの会社がクールビズを導入しているのであれば、積極的に挑戦してみてはいかがだろうか。

【参考記事】
■東日本大震災の被災経験から伝えたい「震災時のメンタルケア」。 (後藤和也 産業カウンセラー/キャリアコンサルタント)
http://sharescafe.net/48415928-20160421.html
■「育休でもボーナス満額」で男性の育休取得は促進されるのか。(後藤和也 産業カウンセラー/キャリアコンサルタント)
http://sharescafe.net/48294119-20160406.html
■ハローワークでサービス残業が起きた理由。(後藤和也 産業カウンセラー/キャリアコンサルタント)
http://sharescafe.net/48104775-20160316.html
■「そうだ、相談に行こう!」と思ったら、まずどこへ向かうべきか。(後藤和也 産業カウンセラー/キャリアコンサルタント)
http://sharescafe.net/47919566-20160225.html
■それでも、ベッキーさんへの過剰な批判が危険な理由。(後藤和也 産業カウンセラー/キャリアコンサルタント)
http://sharescafe.net/47661979-20160129.html

後藤和也 産業カウンセラー キャリアコンサルタント

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