うつはうつる

先日(5/23)は大変暑い1日であった。全国の予想最高気温を見ても軒並み30度前後であり、北海道でさえ20度台後半の都市もあったようである。

■夏日にスーツで出勤の衝撃
当日は筆者も半そでシャツにノー上着で出勤した。経験上、気温が25度を超えると長袖では業務能率が著しく落ちるからだ。朝から日差しも厳しく、こんな日にウールのスーツなんて愚の骨頂だよな、と思いながら駅に着いて驚いた。その場にいたビジネスマンの殆どが、上下スーツ姿だったからだ。

さすがにネクタイ姿は稀であったが、汗をかきながらも律儀にジャケットを羽織り整列する姿は、さながら出動前の軍隊の如しであった。よっぽど服装規程の厳しい会社(業種)なのか、重要な顧客とのアポイントがあるのか、はたまた連日の激務のせいで天気予報を確認する余裕もないのか、筆者には知る由もなかった。

きっとこんな日オフィスは冷房が効いて快適な環境なのであろう。職場につくと「フー、今日は暑いネ」等と、いそいそとジャケットを脱いで仕事を始めるのかもしれない。

しかし、それではなんのためのクールビズだろうか。わざわざ暑苦しい恰好で一か所に集合して、「暑い」という理由で冷房をキンキンにかけ、結果CO2を排出してしまう。そういった愚を是正するための政策であるはずだ。また、全社を挙げて節電をすれば、それ相応の経済効果もあるはずだ。それにも拘わらず、なぜ一様に夏日にスーツで出勤するのだろうか。

■どうしてもスーツでなければいけなかったのか
もちろん、前述したように、どうしてもスーツを着用しなければならない日だってあるだろう。仕事をしていれば、気温に関係なくフォーマルな出で立ちが求められる時はある。また、極度の冷え症や体調不良など、体温調整がうまくいかない場合もあるだろう。

ただし、筆者が見かけた人達の中に、どうしてもスーツ姿でなければならない人たちは何%いたのだろうか。むしろ「上司がまだスーツで出勤してくるから」とか「会社で一人だけシャツ姿になるのには抵抗がある」等の事情のほうが多いのではないだろうか。だとすれば、お互いに頭の中でけん制し合って、結果として暑苦しい1日を送ることになったのであるから、暑いのに大変でしたね、としか言いようがない。

■災害の際に、無条件で出勤すべきか
話は変わるが、過去に台風で在来線が全線ストップした際、国道に無数の自動車が列をなしているのが目に入った。普段電車通勤の人たちが、遅刻をしてはならぬ、とばかりに自動車で会社を目指しているのだ。もちろん、社運を賭けた契約締結の日であるとか、自分が進行役を務めないと一切進行しない重要な会議など、その日の出勤がマストである人もいたのだろう。

しかしながら、この場合も多くの人は自身の「責任感」や「使命感」を拠り所に、ストイックに会社を目指しているのに過ぎないのではないだろうか。社風によっては、悪天候なのに出勤するという行為自体が、会社や上司に対し忠誠心を示すという意味合いを帯びる場合もあるだろう。非正規雇用の人たちは、今後の契約更新に備え急きょの欠勤という負い目を残したくない、という切迫した事情もあったのかもしれない。

しかし冷静に考えれば、その日の定時までに出勤しないと会社が立ち行かない、という人のパーセンテージはそこまで高くはないはずだ。むしろ「雨が降ったくらいで遅刻(欠勤)するなんて、社会人としていかがなものか」という良心の呵責があるのではなかろうか。

もちろん、そういった勤勉さが、我が国の経済成長の源であることを否定しない。むしろ後世に伝えるべき日本人の美徳とも言えよう。また、警察や消防など、業務の特性により不在が許されない仕事があることも承知している。

ただし、台風や地震などの災害時に一か所に人が集中するという状況は、2次被害3次被害を助長することにもなりかねない。個々人には、状況に応じて出勤をあきらめたり遅らせたりする判断力が求められるし、状況により会社もそのような指示を検討すべきだろう。

会社としては「台風情報などで事前に交通渋滞が予測できるのだから、いつもより早く出勤すればいいだけだ」と考えるのかもしれないが、従業員が通勤災害にあえば、会社としても人材面で大きな損失となるうえ、事後対応などで仕事が一つ増えてしまう。仮に災害時の出勤を勤勉さの指標とするならば、それは会社・社員双方にとって極めてリスキーな発想だといえるだろう。

■大切なのは、自分の頭で考えること
ここまで読んで、「暑い日にスーツを着ていたくらいで、なにをそんなにムキになっているのか」と思われる人もいるだろう。しかし、その行為の源泉である「みんなと同じである」ことや、「空気を読む」といったことがあたかもビジネススキルのように認知される状況が、時に自身の首を絞めることになると考えるため、看過できないのである。

例えば、政策的に逓減を目指している長時間労働(残業時間)や、促進が課題となっている男性の育児休業。これらの重要政策も、「みんなと同じ」居残りが求められ、それが昇任や評価の対象となっているような社風があれば、決して進まないだろう。「みんなと同じ」時間働くことが無条件に求められるならば、育休の取得を申し出ること自体、男性社員にとってハードルが高くなるはずだ。

以前寄稿した記事中にも触れたが、日経DUALの記事によると、日本労働組合総連合会の調査で、男性が育休をとれない理由の第1位は「仕事の代替要員がいない」ことだったという。その他の理由として「上司に理解がない」「元の職場に戻れるかどうかわからない」「昇進・昇給への悪影響がある」等、職場における周囲の理解不足や個人的な不安に基づく回答が目立つ(2014/2/20 男性が育休をとれない理由1位は「代替要員がいない」)。

また、ハナクロの記事によると、残業がなくならない理由についてアンケートを行った結果、「残業をする理由」について最も多かったのは「作業量が多すぎる」で48%だったが、「周りが帰らないので」という回答も一定数(17%)を占めたとのことである。記事では周りの目が気になって、なかなか席を立つタイミングがつかめないという人も一定数いることや、定時上がりに罪悪感を感じてしまうのは日本人の気質なのかもしれない、と述べている(2015/7/7  日本で残業が減らない一番の理由 「1人が抱える仕事量の多さ」)。

和を尊び、周囲とうまくやっていく、ということは旧来から我が国における美徳とされてきた。今風に言えば、「空気を読む」という表現にもなるかもしれない。「KY(空気が読めない)」な人は職場でも浮いた存在になりがちだし、そもそも就活中にKYと判断されれば職を得ることすらままならなくなるのが、職場における現状だろう。

ただし、従来の発想を変革する、という視点に立った時に必要なことは、今までの働き方や自身(社)の在り方が本当に合理的で正しいものであるのか、自分の頭で考え抜くことであるはずだ。判断の基準を他人に置いてしまえば楽かもしれないが、まさに思考停止状態に陥ってしまうだろう。筆者が言いたいことは、それで本当にいいのですか、ということだ。

早朝に外の空気に触れ、「今日は暑いな」という判断を下す。それと同様に「最近疲れているな」と思ったらその日は早めに帰る、「子供が生まれて1か月くらいはずっと一緒にいたいな」と考えるならば、諸々の調整を行ったうえで、育休を申し出る(もちろん社会人としての責任は果たし、業務引継ぎ等はしっかり行う等、最低限のマナーを守るのが前提である)。我々がやるべきことは、案外ちょっとしたことであるような気がするのだが、どうであろうか。

【参考記事】
■クールビズを、COOLに着こなすべき理由。 (後藤和也 産業カウンセラー/キャリアコンサルタント)
http://sharescafe.net/48575782-20160511.html
■東日本大震災の被災経験から伝えたい「震災時のメンタルケア」。 (後藤和也 産業カウンセラー/キャリアコンサルタント)
http://sharescafe.net/48415928-20160421.html
■「育休でもボーナス満額」で男性の育休取得は促進されるのか。(後藤和也 産業カウンセラー/キャリアコンサルタント)
http://sharescafe.net/48294119-20160406.html
■ハローワークでサービス残業が起きた理由。(後藤和也 産業カウンセラー/キャリアコンサルタント)
http://sharescafe.net/48104775-20160316.html
■「そうだ、相談に行こう!」と思ったら、まずどこへ向かうべきか。(後藤和也 産業カウンセラー/キャリアコンサルタント)
http://sharescafe.net/47919566-20160225.html

後藤和也 産業カウンセラー キャリアコンサルタント

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