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人気演芸番組『笑点』で50年にわたって出演を続けた桂歌丸師匠の出演ラスト回が5月22日に放送され、平均27.1%という高視聴率をたたき出しました。同時に、注目されていた新司会者は大喜利メンバーの中から春風亭昇太師匠が就任すると発表されました。これで4月の歌丸師匠の勇退表明以来、いろいろな名前が取り沙汰されてきた“国民的関心事”も一段落することになりました。

それにしても、大方の予想を裏切った昇太師匠の司会者就任には、私も驚きました。しかし、マーケターの視点で冷静に考えてみると、今回の人選はとてもよい判断であったと評価できます。以下、その理由を説明してまいります。

■ありえなかった「外部招聘」
近年のマーケティング活動は、顧客との関係性を重視するようになっています。その理由は、既存顧客の維持コストが、新規顧客の獲得コストよりも圧倒的に安いからです。一般には「5対1の法則」といって、既存顧客の維持にかかるコストは新規顧客を獲得するコストの5分の1で済む、といわれます。特に、日本のように人口が減り、なおかつ高齢化している状況では、既存顧客をつなぎ止めることの重要性はますます高まっています。

今回、新司会者を決める必要が生じた時点で『笑点』のスタッフが最優先で考えるべきは、「新司会者の人選ミスで今の視聴率を落とさない」、まさに「既存顧客をつなぎ止める」ことでした。つまり、番組の中心視聴者層と思われる70歳~80歳代の高齢者が違和感を持つ可能性のある人選はできない、ということです。

そう考えると、当初名前が挙がったタモリさんや高田文夫さんといった「外部招聘案」は、リスクの高い選択だと分かります。やはり、見慣れた現在の大喜利メンバーの中から選ぶのが妥当であると考えるでしょう。

■高齢視聴者の「顧客満足度」を上げるには
次に、では誰を選ぶかという問題になります。大喜利メンバーの噺家のみなさんは、それぞれキャリアも技術も十分お持ちの面々ですから、誰がなっても司会をこなすこと自体は何の問題もありません。そうなると、やはり顧客関係性、すなわち視聴者の中心である高齢者層がもっとも満足する人選を重視する必要があります。

私が思うに、テレビ番組の高齢視聴者の満足度を上げるもっとも効果的な方法は、「感情移入」させることです。この成功例としては、NHKの朝ドラとTBSの日曜劇場を挙げることができます。朝ドラは、かつてのメイン視聴者だった主婦層に合わせた「健気にがんばる女性の一代記」というコンセプトを転換し、夫婦や親子、孫との交流といった家族愛を前面に出すようになって、現在のメイン視聴者である高齢者の心をつかみました。一方、日曜劇場も、銀行や町工場、法律事務所のような高齢者がイメージしやすい職種(決して広告代理店やITベンチャーは登場しない)を題材に、キャラクターを際立たせ勧善懲悪調に仕上げることで物語の世界に入りやすくしています。

■昇太師匠は、「国民の息子」を目指せ!
今回、司会者に就任する春風亭昇太師匠は56歳ということですが、独身貴族ということもあってか、とても若く見えます。これは、おじいちゃん・おばあちゃん世代からしてみると、「いい歳して嫁も貰わない、ちょっと頼りない息子」という雰囲気を醸し出しています。ですから、今回の司会者就任は、「頼りないと思っていた息子が伝統ある『笑点株式会社』に就職できて、なおかつ『大喜利事業部長』に出世した!」という“疑似体験”を高齢視聴者に提供したことになります。

これが、新司会者の最有力候補と言われていた三遊亭圓楽師匠だと、こうは行きません。66歳という年齢、およびその気取ったキャラクターから、高齢世代はなかなか感情移入できなかったでしょう。

今後の『笑点』は、若き昇太事業部長を、木久扇師匠のような煮ても焼いても食えない古参社員や圓楽師匠のようなイヤミな先輩社員、たい平師匠のようなイキのいい後輩社員があの手この手で困らせる、という「バーチャル社内模様」が展開されるはずです。それはテレビを観ている高齢の視聴者からすれば、まるで自分の息子がイジメられているような感覚になって伝わるのではないでしょうか。

そうなればしめたもの。昇太師匠は、プロレスでいうところのベビーフェイス=善玉のような役どころとなり、“息子”の仕事ぶりを心配する高齢視聴者の関心を一気に集めるようになります。そして、感情移入という最高の顧客満足を視聴者にもたらします。

『笑点』のスタッフがここまで考えたかどうかは分かりませんが、結果として、今回の選択は番組の存続・発展に正しい方向性を与えていると思います。昇太師匠には、ぜひ「国民の息子」になる覚悟で、ますます番組を盛り上げていただきたいと思います。

【参考記事】
■自動車メーカーが不正を繰り返す理由 (多田稔 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/48638759-20160519.html
■「秀才」の舛添都知事はなぜ愚行に走ったのか (多田稔 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/48661263-20160523.html
■クールビズをCOOLに着こなすべき理由。 (後藤和也 産業カウンセラー/キャリアコンサルタント)
http://sharescafe.net/48575782-20160511.html
■日本代表FW岡崎慎司のレスター優勝で賭け屋が大損した、本当の理由。(本田康博 証券アナリスト)
http://sharescafe.net/48557339-20160509.html
■準ミス日本東大生の偏差値93.7はどれぐらいすごいのか?(村山聡 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/43113315-20150128.html

多田稔 中小企業診断士 多田稔中小企業診断士事務所


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