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プロ野球・北海道日本ハムファイターズが新しい本拠地球場の建設を検討している、という報道が流れたのは5月24日のことでした。野球ファンや地元にとっては降って湧いたような話ですが、報道内容をよく見ると、私なりにいくつか疑問点が出てきました。今日はこの話題を掘り下げて考えてみましょう。

■「マイホーム」なら費用はいらない?
報道によると、球団が移転を検討する理由のひとつに、現在の本拠地である札幌ドーム(日本ハム球団とは別経営)の使用料が高額であることが挙げられています。以下、各紙から引用します。

球団はドーム側に使用料などで年間約13億円を払っており、これが球団経営の負担になっていた。(「日本ハム、新球場建設を検討 札幌ドームからの移転前提」朝日新聞デジタル 2016/5/24付)

ドームの管理会社「札幌ドーム」に使用料などで支払う年13億円は当期純利益3億8千万円(2015年)の経営には重荷だという。(「場所や資金、難航も 日ハム新球場構想」北海道新聞電子版 2016/5/24付)

球団は札幌ドームを運営する第三セクターに支払う年間約15億円の使用料が重荷になっている。(「日本ハム新球場、23年に 16年度中に建設地決定」 日本経済新聞 2016/5/25付)


この書き方だと、「新球場に移転すれば使用料を払わなくて済むので、その分コストダウンになる」と言っているように見えます。本当にそうなのでしょうか?

確かに、自前の球場なら使用料は払わなくて済みます。しかし、500億円ともいわれる新球場の総工費は当然借り入れでまかなわれるでしょうから、その返済負担が新たに生じます。サラリーマンが一戸建てマイホームをローンで購入し賃貸マンションから引っ越せば、家賃負担はなくなりますが銀行への返済が新たに始まります。それと同じです。

さらに、企業が自前の固定資産を持てば、減価償却費という新たな費用がかかってきます。減価償却費とは、値の張る事業資産の取得価格を単年度で費用計上してしまうと、その年だけ極端に業績が悪く見えてしまうので、それを避けるために耐用年数に合わせて費用を按分計上するものです。今回、総工費を500億円、耐用年数を50年として単純計算すると、単年の減価償却費は10億円となり、前述の返済金と合わせれば、現在札幌ドームに支払っている使用料とほぼ相殺されてしまいます。

そのほかにも、これだけの大規模施設となれば固定資産税だってバカにならないでしょう。つまり、新球場に移転したとしても、コストダウンは難しく、むしろコストアップになる可能性すらあるということです。

■考えるべきは「費用対効果」
したがって、今回考えなければいけないのは、この投資でどれだけ売上が上がるか、という「費用対効果」です。札幌ドームの損益計算書(http://www.sapporo-dome.co.jp)を見ると、現在、ドーム側の収入になっている看板広告、物販売上などの合計は約20億円で、この金額は自前の球場を持った際の売上増加額のベースと考えることができます。逆に言えば、新球場を建てても年間20億円「しか」増収しないということです。

年間20億円の増収なら、500億円の投資の回収には25年もかかる計算になります。いくらなんでもこれはリスクが大きすぎます。私が日本ハム本社の財務担当者なら、この投資案には絶対賛成しません。

したがって、日本ハム球団が新球場を作りたいなら、「売上増加額は20億円なんてものじゃない。もっと大きい」ということを説明する必要があります。私の計算では、少なくとも3倍の60億円の売上増加を達成できる計画でなければ、この投資案は検討の俎上に載ってきません。

■狙いは別のところにある?
よって、今回の新球場建設構想の実現へのハードルは意外と高い、というのが私の見立てです。そこで素朴な疑問なのですが、どうして日本ハム球団は札幌ドームの運営会社の買収を考えないのでしょうか? 札幌ドームのホームページによれば、株式会社札幌ドームの純資産額は約25億円で、出資比率は札幌市が55%となっています(平成27年3月31日現在)。ということは、理屈上は現在の年間使用料と同じ13億円程度を札幌市に払えば持分をすべて取得でき、札幌ドームの運営権を手中に収めることができます。

多少色をつけたとしても、買収にかかる費用は新球場を建設する費用とは比べ物にならないくらい安いはずです。札幌市としたところで、最終利益が多くて2億円程度にしかならないドームの経営から手を引いても、財政上の影響はほとんどないでしょう(市職員の天下り先はひとつなくなるかもしれませんが)。

そう考えると、ネット上などで見られる、「新球場建設は札幌市に対するブラフで、本当の狙いは別のところにある」という憶測も、あながち無責任なウワサと軽視できないような気がします。

いずれにせよ、この問題はまだ紆余曲折がありそうです。どのような結果になるにせよ、地元の野球ファンのみなさんが納得する形に落ち着けばいいなあ、と、やはり一人の野球ファンとして切に願っています。

【参考記事】
■『笑点』の新司会者選びを関係性マーケティングの視点から検証する (多田稔 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/48677956-20160524.html
■自動車メーカーが不正を繰り返す理由 (多田稔 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/48638759-20160519.html
■世界一の債務国から学ぶべき日本の稼ぐ方法 (JB SAITO マサチューセッツ大学MBA講師)
http://sharescafe.net/48635480-20160519.html
■企業風土改革に失敗した三菱自動車の末路 (川崎隆夫  経営コンサルタント)
http://sharescafe.net/48502678-20160502.html
■三菱自動車の不正問題に見る、下請け企業の自己防衛と金融機関の支援 (玉木潤一郎 経営者)
http://sharescafe.net/48497051-20160501.html

多田稔 中小企業診断士 多田稔中小企業診断士事務所




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