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去る6月1日は、経団連加盟企業による採用活動の解禁日であった。「解禁日当日に内定が続出した」「就職協定はザルとなっている」等、多くの報道がなされている。多くの企業では既に実質的な採用活動が行われていた、というのが実情のようだ。

■今年の就活状況は
選考活動開始直前となる5月末時点の内々定率は前年同月比+17.2ptの43.0%と、前年より早く進捗している(マイナビ採用サポネット 2016/6/4確認)。人によっては精神的にも余裕をもって就職活動を行えているのではなかろうか。

街中でも、就活中の学生さんの姿をよく見かけるようになった。30度近い気温ではあるが、男子学生は皆一様に濃紺や黒のリクルートスーツに身をつつみ、女子学生は「双子か!」とつっこみたくなるように同じ髪型やメイク姿である。彼らの集団を見て、一見誰が誰だかわからないという感想を持つのは、筆者が年を取ったからばかりではないだろう。

とはいえ、それをもって「若者の没個性化」等と安易な議論をするつもりはない。彼らの個性を奪っているのはほかならぬ我々大人であると考えるからだ。

皆一様に同じ格好で就活に臨むのも、「空気を読める」スキルが求められるからであろう。TPOに応じて皆と同じ格好ができることや、集団から飛び出さない程度の個性を持ち合わせることは、就活生には必須のスキルなのだ。「あなた(御社)色に染まります」という無言のメッセージであるとも言ってよいだろう。そしてまた、意図的に、又は無意識にそれを求めているのが、採用する企業側なのである。

就活に際し、就活生に求められるスキルは年々ハードルが上がっている。コミュニケーション能力(コミュ力)や協調性、ビジネスマナーなど、就活に関する書籍や記事を見れば、多くの文字が躍っている。まさに「即戦力募集!」と言わんばかりの状況だ。

■我々は彼らよりもスキルがあるのか
先日下記のような記事を目にした。就活生になぜクールビズが広まらないのか、について論じた内容だ。これもまた、就活生に空気を読ませている弊害といってよいだろう。


ビジネスマンの間でクールビズスタイルが定着する一方、就活生のクールビズはあまり浸透していない。HR総研が2015年8月に2016年卒の就活生を対象に行ったアンケートによると、「企業側はクールビズなのに、就活生に対しては服装に関する配慮がなかった」「就活生にもクールビズを許可してほしい」と、不満の声が聞かれる。

就活生からは「ジャケットを着なくてもかまいませんではなくて、ジャケット着用不可とかわかりやすく指示してほしい」「ジャケットが本当に必要ないのならば、しっかりとその旨を記載してほしい」(HR総研アンケート)との声が漏れてくる。さらに「クールビズでお越し下さい」と言われたのに、ジャケットなしで会社を訪れたら注意されたという就活生もいた。混乱は企業側でも発生しているのだ。

東洋経済オンライン「「クールビズ」が就活生に浸透しない根本要因」 2016/6/3 


もちろん、「空気を読む能力」というのは社会人としてあってしかるべきだ。皆が一様に空気を読まなければ、組織が成り立たなくなってしまう。ただし、キャリアコンサルタントとして言いたいことは、「彼ら(就活生)に求める能力を、果たして我々自身が持ち合わせているのだろうか」と我々大人は自省すべきではないか、ということだ。

厚生労働省による調査によれば、労働者が職場で強いストレスや不安を感じる原因の1位は「職場の人間関係」であるという。仮に我々がみな自己分析できており、自身の長所や短所を自覚しているとすれば、職場ストレスは激減し、結果は違ったものになるはずだ。職場のハラスメントやメンタルヘルス不調など、現在の職場における問題の多くは好転することだろう。また、我々一人一人が本当にコミュ力を保持しているとすれば、世間をにぎわしている組織ぐるみのデータ改ざんや粉飾決算なども起こりえないはずだ。

逆の言い方をすれば、我々大人がそうした能力に欠けているがゆえに、職場における様々な問題は解決されずに放置されているのである。そのような状況に目をそむけながら、これから入社してくる新人にばかり多くのスキルを求め続けるのは、大人の身勝手というべきではないか。

■就活のためだけのスキル?
筆者がもし仮に、一キャリアコンサルタントとして就活生から相談を受けたなら、やはり最低限のビジネスマナーや面接の模範的な受け答えなどをアドバイスするだろう。自己分析の在り方なども言及するはずだ。「入室の際のノックは3回、敬語は正しく使おうね」等と。

ただし、社会に出てみれば、ノックの回数などどうでもよい場合が殆どだ(ノックの回数について鬼の首をとったかのように叱責を受けるとすれば、相手の人間性や職場環境に問題がある可能性を疑わざるを得まい)。経験則上、敬語だって多少フランクなほうが円滑な人間関係が築けたりもする。完璧な敬語を使うと、何か丁寧すぎるため距離を感じてしまうのだ。特に地方勤務だと、方言でしゃべるほうが親しまれたりもする。

身なりだって、業種によってはジャージや作業着姿で終日過ごすこともあろう。社内ではサンダル履きOKということもある。

そう考えれば、就活の時に教わるマナーとはなんなのだろうか。もちろん社会人としての基本的な心構えという側面があり、すべて不要などと暴論を掲げるつもりはない。全く知らないよりは知っていたほうが良いには決まっている。ただし、最大瞬間風速的な「就活のためだけのスキル」という意味合いが強まるならば、なんだかなあぁというのが実感だ。

■若者を応援する気概とは
勿論、企業の採用活動はボランティアではなく、採用するからには自社に合った人材を選別する義務と権利があるだろう。しかしながら、我々大人は自問すべきではなかろうか。「自分が若いころは、コミュ力や志がそんなに高かっただろうか」と。仮に、「ゆとり世代」などと揶揄されている若手から「あなたは新入社員の頃、僕らよりもポテンシャルが高かったのですか」と問われれば、筆者は沈黙せざるを得ない気もするのである。

「心の定年」評論家で大手企業の人事経験もある楠木新氏は「企業の採用活動における基本的な視点は、自分たちの仲間としてやっていけるかどうか」であると指摘する。あくまで「自分たちの仲間さがし」であり、「使い勝手の良い駒」探しではないのだ。基本的なスキルがあるのに越したことはないが、できれば彼らの伸びしろを評価する軸もあってしかるべきなのではないか。

宝石ばかり集められれば理想的ではあるが、磨かれざる原石を輝かせるのも、我々大人の社会的な責任ではないだろうか。即戦力の名の下に、本来企業側が負担すべき人材育成面のコストを彼らに転嫁してはいまいか。反省と自戒を込めながら、人知れず筆者は就活生を応援しているのである。

【参考記
■「みんな同じで、みんな良い」社会の暑苦しさとは。 (後藤和也 産業カウンセラー/キャリアコンサルタント)
http://sharescafe.net/48677243-20160524.html
■クールビズを、COOLに着こなすべき理由。 (後藤和也 産業カウンセラー/キャリアコンサルタント)
http://sharescafe.net/48575782-20160511.html
■東日本大震災の被災経験から伝えたい「震災時のメンタルケア」。 (後藤和也 産業カウンセラー/キャリアコンサルタント)
http://sharescafe.net/48415928-20160421.html
■「育休でもボーナス満額」で男性の育休取得は促進されるのか。(後藤和也 産業カウンセラー/キャリアコンサルタント)
http://sharescafe.net/48294119-20160406.html
■ハローワークでサービス残業が起きた理由。(後藤和也 産業カウンセラー/キャリアコンサルタント)
http://sharescafe.net/48104775-20160316.html

後藤和也 産業カウンセラー キャリアコンサルタント


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