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先日、東京都府中市役所が「ゆとり世代を叩き直すため」という意図で若手職員を自衛隊に入隊させる研修を実施した、という記事を目にした。ネット上では「不名誉なレッテル貼って業務と関連の薄い研修にぶち込むって、普通にパワハラ」「マネジメントの問題を新人に転嫁するのは最悪」等の非難が殺到している。

■自衛隊での研修とは

東京都府中市が「ゆとり世代の若手職員を鍛え直す」という意図で、入庁3年目の職員を航空自衛隊で2泊3日の研修を行うことを決めたというのだ。

記事によると、研修の対象になるのは入庁3年目の事務職、技術職、保育士職のすべての職員50人。6月の平日3日間を使い、航空自衛隊府中基地で災害時の救助活動やあいさつ、行進などの基本動作の訓練を行うという。

入庁3年目は「一部の職員には自分が何をすべきかを見失ったり、積極性に欠けたりする傾向がある」のだそうで、市職員課は「規律に厳しい自衛隊の訓練を通じて、ゆとり世代があまり経験していない上下関係を学び、チームワークや積極性などの向上につなげたい」と説明したという。

キャリコネニュース「「ゆとり世代職員を自衛隊で鍛え直す」?――「ブラックすぎる」と大炎上中の府中市に真相を聞いてみた」 2016/05/27  


ただし、担当者によれば「ゆとり世代の職員に市が特段困っている、という訳ではないとしている。また、研修は『災害救助』を目的としており、大人数を泊まりで受け入られる場所として、府中市にある航空自衛隊が適切だと判断した」(前掲記事)とのことである。

しかしながら、自社の社員を自衛隊に体験入隊させる研修、というのは案外重宝されているようだ。ある企業では、まさに「ゆとり世代をびしっと」させるため、自衛隊を活用した研修を行っているという(京都新聞「「ゆとり世代びしっと」新入社員研修自衛隊の体験入隊活用増」2016/06/05)。自衛隊への研修委嘱については、精神論的で時代遅れという批判はありながらも、一定のニーズがあるとも言えるだろう。

■外部講師は一般的である
社内で研修を企画するに当たり、自衛隊とは言わないまでも、外部機関に研修実施を依頼することは今や一般的になっている。ネットで検索すれば企業からの依頼で研修講師を派遣するいわゆる研修会社が無数にヒットする。講師個人が登録しており、直接「これは!」という講師にアポイントを取ることができるサイトも数多く存在する。

社内研修を外注することについては賛否両論あるだろう。それぞれの会社の風土や理念は様々であり、研修会社に丸投げするのでは研修効果は高まらない、というのが代表的な批判だ。

しかしながら、現場では様々なスキルが求められ、研修ニーズも多岐にわたる。さらには、会社の規模によっては専任の研修担当部門がなく、特に中小企業においては、通常の総務や人事労務の業務を担当しながら、一方で研修の企画をしているのが実態だ。担当者としては手いっぱいであり、複数の研修をオーダーメイド的に組み立てる余裕もないだろう。専門家の手を借りながら研修を実施することは、多くの企業にとっては現実妥当な判断だと思われる。

■社内研修のそもそもの目的とは
では、そもそも社内研修の目的とはなんだろうか。何をもって研修の価値や効果を測定すべきだろうか。この根源的な問いに対し、これが正解、というものを示すのは難しいが、筆者の経験から一つの妥当解をお示ししたい。

筆者はかつて、国の役所に人事交流として在籍していたことがある。その際、産業カウンセラー等の有資格者ということもあり、「心の健康」「ハラスメント防止」等の研修の企画を数多く担当していた。「産業カウンセラーなんだから、頼りにしてるよ」という上司の言葉もあり、かつてないくらい仕事に燃えていたことを記憶している。「役人には負けまい」と、生意気ながら意気込んでいたものだ。

そんな時、筆者は管理職対象のメンタルヘルスの研修内容の企画を担当することとなった。行政屋が思いつかないようなクリエイティブな内容にしようと、流行の心理療法やコーチングの技法について織り交ぜながら、専門のカウンセラーを講師に研修案を提案した。

まさにクリエイティブ、と自負していたところ、上司から返ってきた言葉は「心理療法が大事なのは分かる。ただ、参加者が現場に戻って、この研修内容を、どう使うんだろうね」というものであった。物珍しい研修内容は最大瞬間風速的な盛り上がりを見せる。原案どおり実施したらアンケート結果も上々であったはずだ。

しかし、確かに学んだ内容を現場でどう生かすのか。現場の監督者が部下に対し心理療法をどのように行えるのか。恥ずかしながら、研修後のイメージについてなんら考慮していなかったことに気付かされた。「研修によって社員の行動が良い方向に変化したか。」「それによって組織の生産性は高まったか(組織の生産性向上に寄与したか)」ということが、研修効果の一つの評価軸となる。当たり前といえばそれまでだが、見失いがちな真理である。

■研修実施に当たり大切なこと
つまるところ、研修の実施に当たって必要なことは「過去の分析、現状の把握、将来の予測」という視座であろう。職場が抱える問題について、何が要因であり、何が不足しており、どのようにして必要な資源を提供し改善を図るか。研修という形で仕掛けを考えることが肝要だ。そのようなち密な分析なくして、研修全体の青写真は描けまい。

そのためにも、研修のスピリットの部分は肝要である。それなりのポストの人間が参加者に直接語りかけることが一つのキーポイントとなる。例えば新たな人事評価制度実施についての研修を行うとすれば、「なぜ新しい評価制度を取り入れるべきなのか」「そのことにより組織にどのようなメリットがあり、どのように職場が変容するのか」といった核たる部分について、人事担当役員や人事部長が直接説明することで、現場の人間は納得し、たとえ一時的に負荷が増大しようとも、「やってやろう!」とモチベーションを保つことができる。

外部講師の活用についても、社内のキーパーソンが伝えるべき内容と、専門家に教示を乞うべき内容の仕分けを行い、一連のカリキュラムが有機的に連動する流れを構築するべきだ。上述の人事評価制度の例で言えば、制度導入の趣旨や根幹部分については社内の人間が直接伝え、一定のコンセンサスを得たうえで、「傾聴法」や「ハラスメントとならない指導法」など、専門家の視点で現場のニーズが高い内容を実施すれば、研修効果は相乗的に高まる。「○○先生にすべてお任せ」ではなく、全体の流れの中で「○○先生を上手に使う」位の気概が、研修担当者には求められている。

繰り返しとなるが、場当たり的なカリキュラムを組んでも、有名人講師や巷で流行しているビジネススキル等を華々しく扱えば、それ相応の満足感を得ることはできる。しかし、それは最大瞬間風速的なものであり、「ためになったけど、現場では使えないよね」というむなしい研修になりがちだ。だとすれば、わざわざ仕事の手を休め、人を集めた甲斐というものはあるまい。その時間分の生産性を下げるだけの結果となってしまう。

■魂を揺さぶられる研修企画のために
冒頭の話に戻るが、若手社員を自衛隊に入隊させること自体が悪なのではない。ただ、「若手がたるんでる(気がする)から、自衛隊にでも入れておけ」とか「自社研修で厳しく指導するとパワハラといわれるから、自衛隊に丸投げしてしまおう」などという意図が数%でもあるとすれば、その発想自体が悪なのである。

若手がたるんでる、とするならば、その要因は「ゆとり」なる入社前の教育歴にあるのか。それとも入社後にモチベーションを保てない何かがあるのか。そもそも、若手社員に求める能力はどのようなもので、何の軸でその能力開発を支援したいのか。どのような指標で評価するか。最低でもこれらの分析を経たうえで研修を実施するならば、批判があったとしても、堂々と抗弁できるだろう。

「とりあえずやりました」という研修となってしまうならば、まさに、仏を作って魂入れず。関係するすべての人間の時間と労力が無駄になってしまう。研修はムードで企画するものであってはならない。ち密な分析と熱いスピリットのもとで実施したいものだ。研修とは、「自社をこのような良い方向に変えていきたい」という、企業側の熱い思いを直接伝える仕掛けでもあるのだから。

【参考記事】
■我々が就活生を応援すべき理由。 (後藤和也 産業カウンセラー/キャリアコンサルタント)
http://sharescafe.net/48765717-20160604.html
■「みんな同じで、みんな良い」社会の暑苦しさとは。 (後藤和也 産業カウンセラー/キャリアコンサルタント)
http://sharescafe.net/48677243-20160524.html
■東日本大震災の被災経験から伝えたい「震災時のメンタルケア」。 (後藤和也 産業カウンセラー/キャリアコンサルタント)
http://sharescafe.net/48415928-20160421.html
■「育休でもボーナス満額」で男性の育休取得は促進されるのか。(後藤和也 産業カウンセラー/キャリアコンサルタント)
http://sharescafe.net/48294119-20160406.html
■ハローワークでサービス残業が起きた理由。(後藤和也 産業カウンセラー/キャリアコンサルタント)
http://sharescafe.net/48104775-20160316.html

後藤和也 産業カウンセラー キャリアコンサルタント


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