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日本マクドナルドが、6月15日から7月上旬までの期間限定で、「マックの裏メニュー」キャンペーンを展開しています。

「裏メニュー」とは、ビッグマックやチーズバーガーなどの定番ハンバーガー15種類に、3種類のトッピングを顧客が自由に選んで注文できるというものです。これにより組み合わせ可能なアレンジは285通りとなり、自分だけのオリジナル・バーガーを楽しめることがウリになっています。

ご存知のように、鶏肉偽装問題や異物混入問題を契機に、マクドナルドは昨年度350億円近い最終赤字を計上しました。しかし、今年に入ってからは第1四半期に営業黒字復帰を果たすなど、回復の兆しが見えています。報道などを見ると、不採算店舗の整理や各種キャンペーンの実施、新商品投入がその原動力になっているようです。

そんな業績回復の途上で打ち出された今回のキャンペーン。私はマックが本格復活する上での“本丸”の施策であると睨んでいます。

■マックは「飲食業」ではない?
そう考える理由は、今回のキャンペーンに、自社の特徴を経営環境に生かそうというマックの明確な意思を感じるからです。

マックの特徴といっても色々なものが思い浮かぶでしょうが、「出来たてを、できるだけ早く提供する」という店舗従業員の意識・技術の高さは必ず挙げられるでしょう。

私の知り合いに、10年ほど前にマックでアルバイトをしていた女性がいます。彼女によれば、当時はどんな商品でも60秒以内に提供する「60秒チャレンジ」や、フライドポテトの廃棄量(揚げてから7分以内に提供できなければすべて廃棄するのだそうです)の少なさを競う社内コンテストが行われていました。

現在はここまでのことは行っていないかもしれません。が、マックが社員に対して、まるで工場の多能工のようにスピード感やマルチタスクへの対応力を求めていることは今でも変わらないでしょう。

また、マックの損益計算書を見ると、通常の飲食業では食材費のみがカウントされる売上原価に、人件費が含まれています。これは、工場従業員の給与を原価に含めて「製造原価」とする製造業に近い考え方です。

つまり、サービス業である飲食業界にありながら、社員の意識や技術、また経営の制度が極めて製造業的であることが、マックの特徴なのです。

■「延期戦略」という考え方
現代の製造業企業にとって、共通の経営課題は「多様化する価値観への対応」です。そのため、多品種少量生産をいかに効率的にオペレーションするかがビジネス上の重大テーマとなります。

そんな中、ひとつの成功例として挙げられるのが、ZARAやユニクロなどのファストファッションで取り入れられた「延期戦略」という考え方です。「延期戦略」とは、製品の仕様決定や在庫決定をできるだけ最終顧客に近い段階(経営学的には“サプライチェーンの下流”という言い方をします)まで引き付け、それによって顧客のニーズを製品に反映しやすくする、というものです。

ファッション業界でいえば、「今年はこの色とデザインが流行るに違いない!」と決め打ちして大量生産するのではなく、多種類の服を少しずつ作って店頭に置き、売れ行きの良いものだけ素早く追加生産する、という方式です。これにより、多様な顧客の要望にきめ細かく対応しながら、確実でリスクの小さい経営を実現することができます。

■マックは製造小売業ならぬ“製造飲食業”
マックを“製造業”だと考えれば、「裏メニュー」の取り組みはこの延期戦略の応用だと気がつきます。

具体的には、店舗従業員のオペレーション力をベースに、顧客が仕様決定する285種類ものハンバーガーを素早く提供することで、多様化するニーズに対応しています。また、このキャンペーン中に人気があった組み合わせはおそらく定番商品化され、下手なマーケットリサーチより高い確率で人気商品を開発できます。また地域によって人気の組み合わせが違えばご当地メニュー化して希少性を高め、他店と差別化することもできます。

マックは、飲食業でありながら製造業的な風土を持つ自社の特徴を、価値観の多様化という外部環境に上手く生かしていると感じます。ファッション業界の一部が延期戦略などのサプライチェーン・マネジメントを導入して製造小売業=SPAという新業態に生まれ変わったように、マックも今回のキャンペーンを契機に、“製造飲食業”として新たなステージに突入するのではないか。私は個人的に、「裏メニュー」にそんな可能性を見ています。

【参考記事】
■「日ハム新球場」構想は実現するのか? (多田稔 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/48692713-20160526.html
■『笑点』の新司会者選びを関係性マーケティングの視点から検証する (多田稔 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/48677956-20160524.html
■自動車メーカーが不正を繰り返す理由 (多田稔 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/48638759-20160519.html
■「秀才」の舛添都知事はなぜ愚行に走ったのか (多田稔 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/48661263-20160523.html
■フジテレビの月9ドラマ『ラヴソング』の福山雅治さんは、なぜ「ベタな二枚目」を演じたのか? (多田稔 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/48846775-20160614.html

多田稔 中小企業診断士 多田稔中小企業診断士事務所代表


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