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パソコン、スマホ、タブレットはあたりまえの時代になった。小学生でもスマホを持っている。小学校の授業にタブレットが導入されるのも時間の問題だ。小学校の授業への導入についてここでは議論するつもりはないが、それほど身近となってきている。しかし、そうなっていない業界がある。介護業界だ。

■介護業界にもパソコンは導入されている
介護事業所には「パソコン」は導入されている。その目的は、文書を作ったり、簡単な表計算をしたりとPC作業の域を出ていない。介護報酬の請求があるので、事務所はサーバーやパソコンがLANでつながっているが、それぐらいだ。

資料や備え付け文書など、作らなくてはいけない書類が山のようにある介護業界は、パソコンはワープロ機である。それらの資料は、あくまでも資料であり、印刷されるとその役目は終わり、二度と目に触れることはない。10年前はそれでよかったかもしれないが、すでに時代は変わっている。

■収集したデータは、検索や再利用、統合することで生きる
企業は顧客データを集め、マーケティングや商品作りに利用している。介護業界でも顧客であるご利用者のデータを収集し、利用することは容易い。しかし、介護事業所では、集めたデータを紙への記載、又は、スタンドアロンパソコンへ入力するため、「記録」に過ぎず、検索や再利用、統合など加工できる状況にない。毎日の生きた情報が死んでしまっている。これでいいのだろうか。

例えば新入職員が配属された時を想像してみてほしい。入所中の○○さんのことを調べようと、記録簿やノートを見たら癖のある様々な字体で書かれていたものを見た時、絶句するだろう。パソコンでも同じだ。フォルダを探し、ファイルを探し、エクセルシートを延々見続けることになる。その後の新入職員の疲れ果てた顔を容易に想像できる。情報の共有は難しいだろう。

これが、サーバーやクラウド内に蓄積されたデータだったらどうだろう。○○さんの入所時からさっきまでの記録が時系列で整理されておりすぐに目で追うことができる。また、数値化できるものであったら、その傾向が半年前から始まっていると自分自身で理解でき、これからの対策に役立つだろう。

日々のデータの積み重ねは、自社だけのビックデータなのだ。検索し、再利用し、時には統合して根拠データとして活用することができる。それを利用しないことは罪である。

■なぜ、介護事業所はITを活用しないのか
介護業界は、介護保険制度がスタートした2000年4月から特に脚光を浴びている。ある意味、新しい業界である。しかし、せっかくの新しい業界も、ITが導入されない。思うに、介護は高齢者を対象としたサービスなので、明治・大正・昭和を生きた高齢者と同じ空間に電子機器があるのは馴染まないという考え方があるようだ。

一方で、電子機器やソフトの操作を覚える時間がない、覚える時間がもったいないという職員の意見や資金がなく導入できない、という経営上の理由もあるだろう。最悪な理由は、経営者が「どうせ職員は辞めてしまうのだから、覚えてもらっても意味がないし、だったら、お金をかけてももったいないだけだ」と思うことである。

高齢者といっても、もう、スマホやタブレットがある環境で暮らしている。団塊の世代が介護サービスを利用し始めた今、馴染まないといった理由は差別にあたろう。もしも、介護事業所内のインテリアに和テイストを残したいのであれば、使う場所を限定すれば済む。

そして、覚える時間がないという理由は、自己否定だ。便利だとわかったインターネットは、時間を惜しんでも利用方法を独学で身につけたはずだ。仕事でも、自分が楽に便利になるとわかれば誰しもその努力は惜しむはずがない。楽・便利とはイコール効率化である。経営者も効率化を考えていかなければ、人の採用が難しい今、経営は行きづまるだろう。

■平成30年の医療・介護同時改定でIT化は待ったなし
平成30年の医療保険の改定により、疾病によっては、今より入院日数が短縮されることになる。医療機関として、入院期間が長引いても診療報酬が得られないため、患者には退院をしてもらわざるをえない。退院後の生活をサポートできるのは、介護事業所だけである。医療機関は、退院後の生活をしっかりとサポートしてくれる介護事業所選びを始めなくてはならない。

医療機関は、介護事業所からの勘や口頭説明では納得せず、データや論理的に説明できる資料を提示できる介護事業所を選択するだろう。治療は根拠・裏付けがあって初めてなされるもので、介護だからといって、根拠・裏付けは不要とは到底ならない。医療機関は、紙の記録を見せられて、ここに書いてありますと説明されても見向きもしないだろう。

そして、平成30年の介護保険の改定では、基本報酬は減額され、加算の新設が予想される。今までと同じように経営していては、介護報酬は減る一方だ。加算の新設は、運営や体制で獲得できるのもあるだろうが、重要でかつ、高加算は、恐らくは、データとして実績を反映させたものとなろう。となると、データの蓄積とデータの活用が経営の生死を分けることになる。ITの食わず嫌いは、経営を投げ出すことと同じである。

もう、ご理解いただけたかと思うが、医療機関に選ばれるためにも、介護報酬の加算を獲得するためにも、記録やデータを紙で管理していてはだめだ。活用し、統合し、示す・見せるということができないといけない。

■今年がラストチャンス!
IT導入は、早ければ早い方が良い。操作に慣れるためもそうだが、情報の蓄積が大事だからだ。そして、情報の蓄積は、介護事業所の差別化につながっていく。今、日本にある介護事業所は、20万事業所を超える。はっきりいって、コンビニ化している。コンビニ化してしまえば、どこに行っても同じと思われ、選ばれない。IT化により、実績・根拠を視覚化して示せる事業所になってしまえば、それだけで差別化が図れる。ケアマネジャーや医療機関、また、高齢者家族などの見学時にグラフ化して見せれば、この事業所はすごいということになるだろう。介護事業所のPRは今しかない。

さて、平成30年4月から始めればよいと思ったら大間違いだ。その時に始めても手遅れだ。医療機関の信頼できる介護事業所選びは、今夏の参議院選挙が終わり、国会で医療・介護同時改定の議論が始まった9月頃には始まるだろう。医療機関も自身の経営問題につながるので、悠長にはしていられない。

まだ、多くの介護事業所がIT化に取り組んでない中、頭1つ抜け出るチャンスは、まさしく今だ。ためらっている時間はない。

藤尾智之 税理士 介護福祉経営士

【参考記事】
■介護事業って営業いらないと思いますが、何か?(藤尾智之 税理士・介護福祉経営士)  
http://sharescafe.net/48678907-20160524.html
■介護保険が知らぬ間に保険ではなくなる事実(藤尾智之 税理士・介護福祉経営士)
http://sharescafe.net/48473153-20160428.html
■元特養事務長が教えるより良い介護施設の見極め方(藤尾智之 税理士・介護福祉経営士)
http://sharescafe.net/47893238-20160223.html
■介護保険は保険ではない ケアマネジャーと上手に付き合う方法(藤尾智之 税理士・介護福祉経営士)
http://sharescafe.net/35169456-20131126.html
■介護保険は保険でなはい 「親の介護は老人ホームにお願い」は甘い考え 介護保険を考える(1) (藤尾智之 税理士・介護福祉経営士)
http://sharescafe.net/35018841-20131120.html

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