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就職活動中の学生に、日本企業について考えてもらうための文章を記しました。若手サラリーマンにもお読みいただければ幸いです。

■「巨人の投手」が仕事を変わるとすれば?
プロ野球の読売巨人軍の投手が、仕事を変わるとすれば、他のプロ野球チームで投手となるであろう。読売巨人軍で捕手をやる事は考えにくい。彼のアイデンティティー(自分が何者であるか、という自己認識)に於いては、巨人軍の一員である以前に投手なのである。「巨人軍の一員が、たまたま今は投手をやっている」のではなく、「投手が、たまたま今は巨人軍で働いている」のである。

筆者は久留米大学商学部教授であるが、仕事を変わるとすれば、他大学で経済を教えることになるだろう。久留米大学で哲学を教えたり、経理の仕事をしたりする事は考えにくい。つまり、筆者のアイデンティティーは、久留米大学の一員である前に経済学の教授なのである。

もちろん、巨人の投手は同僚との仲間意識もあろうし、巨人が勝てば嬉しいであろう。筆者も、同僚との仲間意識はあるし、久留米大学の運動部が他大学に勝てば嬉しい。しかし、それは「所属している組織のためなら何の仕事でもする」という事とは違う。こうした人々を「スペシャリスト」と呼ぶ。

■日本企業はジェネラリストを養成
一方で、日本企業のサラリーマンの多くは、仕事を変わるとすれば、同じ会社の中の違う部署へ移動するであろう。こうして、日本のサラリーマンは、「社内の仕事なら何でもやる」ということになる。こうした人々を「ジェネラリスト」と呼ぶ。○○株式会社の社員が、たまたま今は経理部で働いている、という事である。

サラリーマンは人事異動のたびに、不慣れな仕事を担当させられ、苦労も多く能率も悪くストレスも溜まる。では、なぜ企業はサラリーマンに同じ仕事を続けさせずに異動させるのであろうか。

一つには、不正等の防止があろう。ある人がある仕事の専門家になりすぎると、「社内であの仕事がわかるのは彼(女)しかいない」といった仕事が出来てしまうかもしれない。そうなると、彼(女)が不正を働いても、他の人が誰も気づかないかもしれない。あるいは彼(女)が病に倒れたり退職したりすると、後任者が何もわからない、という事態に陥りかねないのである。

嫌な上司がいても、「しばらく我慢すれば上司か自分が異動する」と思えば辛抱できる、という事もあるかもしれない。

しかし、より重要なことは、様々な仕事を理解することのメリットであろう。様々な仕事を経験することで、広い視野で物が見れるようになる、というと抽象的であるが、たとえば海外旅行に行くと日本の良さと悪さが見えるようになる、今まで当然だと思っていた事がそうでないという事に気付くことがある、といったイメージであろうか。外国人が便利な物を使っているのを見つけたら、同じものを日本でも使ってみれば良い、といったことも言えよう。

今一つ重要なことは、相手の立場が理解できるようになる、ということである。経理部が「経費の請求は15日までに御願いします」という通知を出した時、経理部経験者であればなぜ15日なのか、15日に間に合わないと経理部がどれくらい困るのか、理解できるはずである。自分が16日締切の仕事に追われている時に、それでも経理の伝票を優先すべきか、「17日に伝票3枚出しますので、よろしく御願いします。」とメールすれば済むのか、適切に判断できるようになる、というわけである。

筆者自身も、預金業務、他行との資金決済業務の経験をしたあとで営業部に配属になったため、午後3時過ぎに発生した「今日中に絶対に他行と決済しないといけない10億円」の受け渡しを、10億円分の現金を運ぶ(当然受け取った銀行は確認のため数えることになる)ことなく、預金部に若干の無理を御願いしただけで無事に処理することが出来た、という経験がある。

■海外企業を買収しても難しいかも
筆者は、銀行員時代に香港に駐在して、投資顧問部門を担当したことがある。筆者にとっては初めての業務であるが、部下の香港人スタッフはスペシャリストである。部下からは「お前は素人だから、俺の仕事に口を出すな」と言われて、「俺はジェネラリストだから広い見地から物事を見つめて指示を出しているのだ」と言い返したが、御互いの議論が噛み合わずに部下をコントロールするのに大変苦労した経験がある。

日本企業が海外企業を買収する例は多いが、人事管理で苦労する例も多いと聞く。海外への支店展開でも、同様であろう。海外のスペシャリストはジェネラリストを尊敬しないからである。

たしかにスペシャリストである事のメリットはあるのだが、それぞれの担当が自分の部署の経験しかないので、全社的な協力が困難である、などの問題もあり、その板挟みになって日本からの派遣社員が苦労する、というのが日本企業の海外拠店駐在員の多くが共有する悩みなのかも知れない。


【参考記事】
■黒田日銀総裁の愛読書『合理的な愚か者』を読んでみた(塚崎公義 大学教授)
http://ameblo.jp/kimiyoshi-tsukasaki/entry-12173039108.html
■銀行という職場の体験記(4) (塚崎公義 大学教授)
http://ameblo.jp/kimiyoshi-tsukasaki/entry-12149733301.html
■合併してわかる「日本企業は今でも共同体」 (塚崎公義 大学教授)
http://sharescafe.net/48880744-20160618.html
■「社畜」は辛いが、組織って素晴らしい (塚崎公義 大学教授)
http://sharescafe.net/48869195-20160617.html
■大学教授が教える、本当に役に立つ就活テクニック (塚崎公義 大学教授)
http://sharescafe.net/48796600-20160609.html

塚崎公義 久留米大学商学部教授



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