離脱


■半世紀近くも続いたUKのEU内における絶妙なポジション

イギリス(以下UK)のEU離脱が国民投票で決定しました。

実はUKは、41年前にも離脱・残留を決める国民投票をおこなっていました。EUの前身であるEEC加盟後、EEC加盟反対派の要求を受けて国民投票を行いましたが、その時はEECへの残留に決まりました。
EECへの参加に反対する理由は、UKの国権が失われることにありました。そこで、UKは欧州国家統合への参加をしながらも国権を維持するため、UKは自国通貨発行権を保持し、シェンゲン条約にも加盟せずに、欧州内で発言権を持つという絶妙な立ち位置を取り続けていました。

■根が深かった労働者階級の怒り

投票から開票、そしてその結果が出るまでの間、誰もが固唾を飲んで見守っていたと思います。そして、多くの予想を裏切る結果だったのではないでしょうか。投票結果を覗いてみると、離脱派51.9% vs残留派 48.1%という僅差。残留希望が多かったエリアはロンドンの周辺のほかスコットランド、アイルランド等の都市のみにとどまりました。

経済政策と移民問題から端を発したこの国民投票の結果は、EU加盟のメリットよりも、長年移民問題で生活が改善されない大都市郊外の労働階級の声に負けてしまったという感じでしょう。EU加盟のメリットをよく理解しないまま、労働階級層が近視眼的そして感情的に動いてしまったのは、これら移民問題が相当根が深いものだったということを物語っているのかもしれません。

結果として、UKは半世紀近くも続いたEU内の絶妙なポジションを手放すことになりました。

UKのEU離脱後については、いまだ不確定要素だらけなのですが、この歴史的な決断による世界経済への影響について少し整理をしてみたいと思います。

■UK発 今後の展開① 他国との貿易協定

まず一つ目に、UKは、EUをはじめ様々な国とのFTA(自由貿易協定)や欧州自由貿易協定(EFTA)等の締結についてやり直す必要がある点です。UKは、EUに対する輸出依存が50%弱と高く、協定破棄による直接的な影響は大きいでしょう。また、関税面に対しての優位性が失われると、UK国内の企業が他国に流出することにもなります。このような産業の空洞化を止めるためにもUKにとってはやはりFTAやEFTA等の新たな手続は必要になるのです。しかし、一から調整するとなると、作業負荷という点からかなりの時間がかかるのではないでしょうか。
一方でUK輸出依存率が10%前後と高くない、EUにとっては離脱による貿易の影響は小さいと思います。

ちなみに、時間的余裕が失われてしまう中、UKがEU離脱申請をすぐにおこなうか?という点には注目です。UKがEUの離脱申請をすると、その日から2年以内にリスボン条約(50条)に従って離脱を進めていかなければなりません。

しかし、当条約には“いつまで”に離脱申請をしなければいけないというタイムフレームは明記されていないのです。そのため、UKは多少の時間稼ぎをすることになるかもしれません。

A Member State which decides to withdraw shall notify the European Council of its intention. In the light of the guidelines provided by the European Council, the Union shall negotiate and conclude an agreement with that State, setting out the arrangements for its withdrawal, taking account of the framework for its future relationship with the Union.”


■UK発 今後の展開② 金融への影響

二つ目が、金融市場はしばらくはリスクオフになる点です。

今回のUKのEU離脱決断は欧州株ももちろんのことですが、債券や為替に大きな影響があると思われます。格付け会社が、いつのタイミングでUKの格付け見直しをするかわかりませんが、もし格下げが決まれば資産売却に繋がることでしょう。当然多くの債券を抱える銀行はネガティブな影響を受けることになるかと思いますし、金利上昇によるUKの住宅市場は値崩れを起こすと思います。UK経済自体がしばらく停滞することは避けられないでしょう。

さらに、UKだけでなく、EU主導国ドイツやフランスにも負担がかかってくるはずです。いまだ燻っている南欧の金融リスクは、今後有事の際には大国UK抜きで分担しなければならないことになります。EU内銀行も、EU離脱によってリスクオフになった投資家の資金引き揚げにより運用難に晒されるのではないでしょうか。

投票後にG7が「流動性供給のための手段を用いる用意がある」と声明を出しましたが、2008年のサブプライムショック時点ほど各国中央銀行は金融安定化に効果のある政策は持ち合わせていません。つまり、大きな損失から資産売却の連鎖につながるというシステミックリスクが再度発生した場合に、対応できる対策はほとんど残されていないことが懸念されます。

日本にとって、今回の件は、サブプライムショックのような影響はないとは思います。しかし、安全資産の逃避から急激な円高のリスクは想定しなければなりません。物価も、投資家のリスクオフ姿勢から原油価格が下落するため、上昇を見込むことはできないと思います。

■UK発 今後の展開③ 他国への伝染

三つ目ですが、UKのEU離脱決断によって、欧州統合懐疑派をはじめ離脱を推すポピュリストが他国に感染してしまうことでしょう。実際スコットランドが2014年に国民投票をして独立に失敗をしましたが、今回の投票で残留派だったスコットランドとUKの民意(離脱)が異なったことで、ここ数年内で独立の住民投票ができることになるのです。実際にスコットランドのスタージョン首相はコメントで「2回目の住民投票はあり得る」と言っています。

"It looks "highly likely", says Nicola Sturgeon, that there will now be a second referendum upon Scottish independence."


この勢いに乗って、アメリカ大統領選のドナルドトランプ氏支持が加速する可能性もあります。UK離脱を予想しなかった多くの人にとって、トランプ氏が大統領になってしまうことも決して絵空事にはならないはずです。


■UK発 今後の展開④ 不可逆な決断

先週末の投票以降、株式市場は乱高下し、多くのメディアがUK経済に対する先行き不安を報道する中、離脱に票を投じた国民の一部は、自身が下した判断に対して「やってしまった」感を覚え始めているようです。

現在UKでは2回目の国民投票を希望する嘆願書が下院に殺到しており、26日の夜時点(日本時間)には約320万人規模の署名が集まっています。そしてこれからも嘆願は増加することが予想されます。
もちろん、この嘆願全てが離脱派からとは限りません。しかし、ここ数日の間で総投票数(約3300万人)の約10%が嘆願しているということは、国民が離脱に対して相当の危機感を感じていることなのではないでしょうか。

今回の国民投票は、英語でいうとadvisory(諮問)でありlegally binding(法的拘束力)ではありません。しかし、あらためて国民投票をおこなうことは、この嘆願数の多さに関わらず難しいのではないかと思います。

それに周辺国が許すはずもありません。というのもEU主導国であるドイツ・フランスは、来年大きな選挙(ドイツ議会選挙8-10月、フランス大統領選4-5月)を控えており、財政や金融面におけるEU統合を全力で進めるには今年しかないと思っているはずです。反EUを刺激するUKを受け入れることはしないのではないでしょうか。

■おわりに

フランス ミッテランの社会主義政策、アメリカ レーガンの過剰な減税、日本のバブル経済等それぞれの政策判断は結果的に社会に大きな傷跡を残しました。しかし、その傷はまだ痛みは残しつつも元に戻ることができている状況です。しかし、BREXITという政策判断には、元に戻れるという道はないのです。



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JB SAITO マサチューセッツ大学MBA講師


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