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最近、再就職が難しい45歳以上の年代を中心に副業の解禁やリストラ、将来の年金に対する不安から、起業を試みる方が増えました。ここでは、ビジネスの方向性の見直しやビジネスモデルのリノベーションをお手伝いしている立場として、これから起業する方に向け、スタートを切る前にぜひ確認しておいてほしい3つのポイントについてご紹介します。

■起業テーマ
どんな内容でビジネスを始めるのか。その選択する上で、少なくとも3つのポイントがあります。1つめは「需要の有無」。当たり前のように聞こえるかもしれませんが、意外と多くの方が需要の小さい、もしくはほとんどないテーマを選んでしまう傾向があります。このようなことが起きる背景の一つに、一時期流行った「好きなことで起業する」といったこともあるようです。好きなことで起業すること自体は間違いではありません。自分に合う、その上でそのビジネスに「需要」があるのかどうか、この点の確認がなにより大切です。

そして、忘れてならないのがその需要の「継続性」。需要と見間違うものの中には一過性のブームや実態の伴わない「バズワード」が含まれていることがよくあります。バズワードとは、WEB3.0など具体性が乏しく、言葉だけが先行している実態が不明瞭なキーワードです。こうしたことを避けるためには、流行りだしてからある程度冷却期間を置き、見極めてみるスタンスも欠かせません。

3つめが、そのテーマに対する「実務経験の有無」です。ビジネスの根幹は対価を得るためのオペレーションです。実務経験がないと、オペレーションがどのように回るのか、またどこにリスクやトラブルが潜んでいるのかが感覚的にわかりません。会社の立ち上げ時に業務の流れを細部に渡って描けるかどうかが起業の成否を分けます。経験のないテーマを選ぶのであれば、ラーメン店の修行のように一定期間経験を積むか、もしくはその業界に詳しいメンバーを加えることが不可欠でしょう。

■差別化
起業テーマが決まったら、次のポイントは「どのように参入するか」です。テーマを選ぶと、顧客に対して何を提供するかがおのずと確定します。しかし、それだけでは一部の成長市場を除いてビジネスはまず成立しません。なぜなら、「HOW」の部分、つまり競合他社との違い=差別化要素がないからです。

よく「強み」や「特徴」のことを差別化要素だと考える方がいますが、「強み」も「特徴」も顧客にとっては何の意味も持ちません。例えば、駅から近い。一見大きな特徴であり、他社との差別化要素にも見えますが、顧客からすれば「選択しやすくなる要件」の一つに過ぎません。駅から近いだけで果たして選ぶのか。自身の日頃の消費活動を思い返して見ると、必ずしもそうではないことは自明です。

本来、「差別化」は顧客にとって「利用価値がさらに高まるもの」でなければなりません。例えば、価格が安い。デフレが進行する今、多くの顧客にとっては「当たり前」の要素です。その上で、「早い」や「わかりやすい」などの追加の価値があって初めて差別化になるのです。

こうした差別化を生み出すための常套手段は、既存ビジネスが今、どのような方法や手段で提供されているのかを調べることです。例えば、弁当ビジネスを開業するとしましょう。従来であれば、ほっともっとやオリジン弁当のように店舗型で購入者がお店にくるのが一般的でした。しかし、主流は「宅配」に傾きつつあります。企業向けに健康志向の「食材」を一定数配布し、置き薬のように消化分に応じて精算する形式や、ワンコインで統一メニューを提供するスタイルなど様々な手段が登場しています。こうした多種多様な方法に対して、どのような新しい提供方法を打ち出すか。これが差別化です。

■収益モデル
差別化の手段が確定したら、次は収益面での検証です。収益性では収益手段と事業継続に必要な収益額の2点の確認が必要です。取引手段は、いわゆるマネタイズことで、そのビジネスのどこで収益を上げるのか、です。販売か、レンタルか、分割か、販売ではなく広告か、などを設定しておくことです。

必要収益額は、1取引あたりの収益、および一定期間において、どこまで利益を積み上げればビジネスの継続を維持できるのかです。例えば、カフェを開業する。コーヒー1杯あたりの粗利が200円。ここに人件費などのコストを差し引きし、最終益がでます。そして、すべてのコストを賄うためには、コーヒー何杯売ればいいのか。いわゆる損益分岐点のことですが、この分岐点をいつまでに達成できるのか、少なくともここまでの計算が不可欠です。

数字が苦手で収益性の計算を避けている方をたまに見受けますが、非常に危険です。残念ながら、ビジネスが計画のとおりに進むことはまずありません。だからこそ、計画値の乖離を少しでも早く掴み、原因を探りだしてメンテナンスを加える。この動きこそがビジネスを成長、継続させる肝となるのです。

■既存ビジネスのアレンジがベスト
テーマ、差別化、そして収益モデルの3つをご紹介しました。これらの点をできるかぎりハードル低くクリアさせるのであれば、差別化でご紹介したようなすでに成り立っているビジネスの焼き直しをオススメします。今ある方法と同じやり方ではなく、「リノベーション」をかけて参入するのです。現在ある手法と大きく変えず、比較的近い方法を取るのです。このとき、参考にしたいのが「他業種のやり方」。さきほどの宅配弁当のように、置き薬の手法を真似てみるなどです。既存の方法を組み合せることで、オペレーションの設計が行ないやすい上、コスト構造が掴みやすく安定したビジネスが構築できます。


【参考記事】
■新しいビジネスモデルを発想する「6つの視点」(酒井威津善 ビジネスモデルアナリスト)
http://financial-note.com/2016/06/13/six_view_point/
■不動産業に見る「ジャパネットたかた式」ビジネスモデル(酒井威津善 ビジネスモデルアナリスト)
http://financial-note.com/2016/05/21/exsample_0124/
■【【出版不況】書店業界を救う手立てはないのだろうか (酒井威津善 ビジネスモデルアナリスト)
http://sharescafe.net/47952603-20160229.html
■【就活で銀行を選ぶな!】 銀行のビジネスモデルが終焉を迎える日 (酒井威津善 ビジネスモデルアナリスト)
http://sharescafe.net/47617542-20160125.html
■ワタミが劇的な復活を遂げる可能性が低い理由 (酒井威津善 ビジネスモデルアナリスト)
http://sharescafe.net/47314916-20151224.html

酒井威津善 ビジネスモデルアナリスト フィナンシャル・ノート代表

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