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「就活解禁日当日に内定」等、話題に事欠かない就活だが、驚いたことに、いまだに採用面接で「圧迫面接」を行う企業があるという。

■圧迫面接とは

2017年卒業予定の学生の就職活動は「売り手優勢」といわれ、各企業が人員確保に奔走している。学生の就活への意識が高まっていることもあり、企業も学生の対応に注意を払うようになっているものの、中には「圧迫面接」を行っているところもあるようだ。

一方で、「圧迫面接にも理由があります」という人も。「顧客や消費者からの理不尽な意見や問い合わせにも冷静に受け答え出来うる人材」かどうかを審査するために圧迫面接は必要だというのだ。理不尽なことはいつ起こるか分からないため、対処できるかどうか見たいのだという。

キャリコネニュース「なぜ「圧迫面接」はなくならないのか--「圧迫でストレス耐性がついた」と主張する社畜に震撼!」 2016/06/24  


圧迫面接とは、読んで字のごとく、面接官が有形無形の高圧的な言動で就活生に心理的な圧迫を感じさせる面接だ。声を荒げる等の手段で恐怖を与える、人格を否定する発言を行うなど、通常では考えられないことが、面接という場で行われているという。

「圧迫面接があるとの噂を見聞きした時点で27.9%の学生が絶対に就職しない(選考・内定を辞退する)」と考える」(前掲記事)ということであるが、これは人間として当然の反応と思われる。企業における人材確保に負の影響を及ぼしかねない「圧迫面接」が、なぜ行われ続けるのだろうか。

■圧迫面接を行う側の論理
圧迫面接を受けた経験者は「顧客や消費者からの理不尽な意見や問い合わせにも冷静に受け答え出来うる人材かどうかを審査するために圧迫面接は必要だ」(前掲記事)と述べる。「圧迫面接」は、ビジネスに必要不可欠なストレス耐性等のスキルを見極めるための一つの機能である、という主張だ。

しかし、就活生のストレス耐性を見極める手段は「圧迫面接」の他にないのだろうか。例えば、採用活動を支援する会社に依頼すれば、各種の心理テストや適性検査のツールを用いて、本人も意識していない行動特性を数値化することが可能だ。もちろん相応の費用は発生するが、一度に大量のデータを数値化・序列化することも可能であり。面接官の主観が立ち入らない分、客観性や信頼性が担保できるデータと言えるだろう。

加えて、柔軟性等の顧客対応スキルについても、採用後の新人研修等で習得させることも可能だ。そもそも、自社における人材育成コストは、一義的には当該企業が負担するのが原則だろう。そのようなコストや労力を負担せずに、安易に「圧迫面接」という手段で求める人材を確保しようとするならば、その会社の採用計画自体が失策であるとは言えまいか。

もちろん、採用する企業側にも言い分があるだろう。「採用コストを投資したのにすぐに辞める若手」「うつ病に逃げ込み休職を繰り返す社員」等、労働者のメンタルヘルス不調が社会問題化する中、どの企業も抱える共通の課題だ。できればタフで情緒の安定した社員を確保したい、という気持ちもよくわかる。

しかし、そのような自社内の問題のツケ回しを、これから社会に出ようとする若者に向けるのは筋違いというものだ。職場の問題は職場風土の分析や改善を地道に行う必要があり、圧迫に負けない若手を投入することで解決が図れるような単純な問題ではないはずだ。

■圧迫面接は行政指導の対象になり得る
ちなみに、大阪労働局が就職差別につながる発言例を挙げている。

(発言例)

会社:何でこの会社を受けたの。

生徒:貴社の製品が好きですので。

会社:学校で言われた通り言わなくていい。

生徒:いえ、本当にグッズが好きなんです。

会社:それやったら、○○や△△(遊園地)で働けばいいやろ。

生徒:・・・。

「大阪労働局HP」 2016/06/28確認  


以上はあくまで一例ではあるが、「応募者の適性・能力とは関係のない事項を質問するなどの就職差別につながるおそれのある不合理内容、応募者の人権を侵害している」として、労働局により指導の対象となり得るものと例示されている。「この程度で行政指導の対象になるのか」と驚かれるかもしれないが、企業側には高い倫理観と人権尊重の精神が求められているのだ。

また、近年インターネットやSNS利用者の増加等により、1回のイメージダウンが企業経営に与えるダメージは計り知れないものとなっている。「ブラック企業である」とネット上で炎上したアパレル企業や飲食チェーン店がそれ以降経営的に厳しい状況にあるのも、そうした非難の声の広まりが一因となっていると言っても過言ではないだろう。

就活生も一消費者であり、大事な顧客であるはずだ。採用選考の場とはいえ理不尽な対応をされれば、以後その企業のサービスを利用しようという気にはならないだろう。ネガティブな噂はSNSを通して無尽蔵に拡散されることにもなる。

■結び
たとえばあなたが面接官だとして、帰宅後に「今日は面接で怒鳴り散らして何人も泣かせちゃったよ~」と家族に胸を張って言えるだろうか。それは果たして誇るべき仕事なのだろうか。

もちろん、企業にも採用する相手を選ぶ権利はある。前述したとおり、できればよい人を採用したいと考えるのも自然なことだ。ただし、面接官と就活生は「選ぶ側」と「選ばれる側」という優劣関係にはあるものの、人間として上下の関係にあるわけではない。面接室という密室の場で、信義にもとる対応をとるべきでないのは、面接官も就活生も同様である。

人間は権力を持つと高慢になりがちだ。面接官は大袈裟でなく就活生の人生を左右する存在であり、面接における絶対権力者である。しかし、その権力を振りかざし目の前の若者を意のままに操ろうとするならば、それは単なるパワハラに過ぎない。弱者を攻撃しようとするのが人間の特性だとすれば、理性や倫理観でその衝動を抑えるのが大人のスキルのはずだ。一人の大人として、襟を正したいものである。

【参考記事】
■やっつけの社員研修が死ぬほど勿体ない理由。 (後藤和也 産業カウンセラー/キャリアコンサルタント)
http://sharescafe.net/48789835-20160607.html
■我々が就活生を応援すべき理由。 (後藤和也 産業カウンセラー/キャリアコンサルタント)
http://sharescafe.net/48765717-20160604.html
■「みんな同じで、みんな良い」社会の暑苦しさとは。 (後藤和也 産業カウンセラー/キャリアコンサルタント)
http://sharescafe.net/48677243-20160524.html
■「育休でもボーナス満額」で男性の育休取得は促進されるのか。(後藤和也 産業カウンセラー/キャリアコンサルタント)
http://sharescafe.net/48294119-20160406.html
■ハローワークでサービス残業が起きた理由。(後藤和也 産業カウンセラー/キャリアコンサルタント)
http://sharescafe.net/48104775-20160316.html

後藤和也 産業カウンセラー キャリアコンサルタント

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