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先日、通販カタログ大手「ニッセン」の業績が思わしくないとのニュースが出ました。3期連続赤字でスタートした2016年度も直近5月売上で16ヶ月連続マイナス。商品の見直しやリストラ策を進めていますが、大きな成果には繋がっていないようです。スマホの普及が原因だとの指摘もありますが、打開策はないのでしょうか?

■ネットシフトは十分進んでいる
2015年度はニュースでも取り上げられていた通り、売上計画値1,620億円に対して、1,572億円、当期純利益は▲133億円。ニッセンホールディングスの決算概要によると、主な原因は商品開発体制の全面見直し過程における新規カタログ配布部数の削減、プロモーション費用の投下や販管費の削減などを実施したためとあります。これらの施策による売上高の減少はあったものの、15年度は3Q、4Qを通して営業利益の改善が進んでいました。

こうした状況に陥った背景に、ファストファッションの台頭やスマートフォン普及が指摘されています。しかし、それらは原因の一部でしょう。理由は2つ。一つは、ニッセンは数年前からオンライン化を取り組んでおり、すでに売上構成比の60%以上がオンラインで占められていること。そして、通販カタログというビジネスモデルの強みが時代の変遷とともに逆刃になってしまったことが考えられるからです。

■通販カタログの強みと弱み
通販カタログビジネスは、カタログという媒体を通して消費者とつながり、様々な商品を流通させるインフラ・ビジネスです。カタログを通して世界観を伝え、顧客に選ぶ楽しみを提供する。これがカタログビジネスの強みです。カタログは参入障壁となり、差別化の源泉を構築していました。ところが、時代の流れはその強みを弱みに変化させてしまいました。それは次のような3点です。

一つ目の弱み。それはカタログが重く、「携帯性」に欠けること。スマホは単に情報だけではなく、「〜ながら」という新しい行動形態を消費者に提供しました。結果、「時短」というキーワードに象徴されるように、お金に限らず「時間」もデフレ化が進みました。ライフスタイルの中で、カタログだけをじっくり見て商品を選ぶという動作を求めづらくなってしまったのです。

2つめは、情報の「検索性」に欠けること。アナログの情報媒体に対して、「検索」機能を求めるのは限界があるかもしれません。しかし、手っ取り早く必要な情報を得ることが当たり前となった消費者にとって、どこに何があるのかがわかりづらい「カタログ」は使いづらい。もちろん、これはカタログに限ったことだけではありません。あらゆるアナログ系の情報媒体に及んだ現象の一つで、産業構造を大きく揺さぶった原因の一つでもあります。

そして三つめが情報の「拡散」ができないこと。カタログによって形成されていた会員の囲い込みと相対する機能です。これは検索と同様、友人からシェアされた内容を元に消費行動を決める現在の消費者にとって必要不可欠な機能です。カタログの写真をスマホで撮って、インスタに載せる。そんなことも考えられますが、間違いなく著作権がからみます。それ以前にソーシャルボタンのクリックに比べて非常に手間です。

こうしたカタログの弱点を見て、さらにオンライン化へと傾注するのは得策ではありません。ECという戦場は、アマゾン、楽天、ヤフーによって寡占化されている上、そもそも「差別化の形成」がしづらい場所だからです。もちろん、すでに700万人とも言われるネット上のニッセン会員を捨てるのもあり得ません。そこで提案したいのはさきほど挙げた「カタログ」の弱みを補強しつつ、本来ニッセンが持つ強みとネットを併用するビジネスモデルです。

■消費者参加型への移行
ネット企業にはない、ニッセンが持つ強み。それはカタログの編集・製作機能、傘下にあるシャディやサラダ館などのリアル店舗、そしてセブングループが見込んだ物流機能です。差別化が形成しづらいネットをこれまで通り維持しつつ、これら強みの「機能」の使いみちを変え、「顧客との接点」の結びなおしをするのです。

どのように接点を結びなおすのか。例えば商品開発プロセスです。まず、ネットの掲示板で商品開発案を募集。これはすでに設置されている「商談ROOM」を転用します。開発案は投票によってランキングを付け、高得点がついた商品について試作品を作る。これをリアル店舗で展示し、直接顧客の意見を吸い上げます。意見を元に再度修正を加えたものを製品としてネット・カタログ・リアル店舗で販売するのです。

カタログの編集機能ももらさず活かします。単にできあがった商品掲載だけで終わらず、提案募集から試作品、製品化するに至るまでのプロセスをネットとカタログで掲載するのです。もちろん、Facebook、Instagram、TwitterなどSNSとの連動も忘れません。一つの商品が生まれ、製品化されるまでの一連のプロダクト開発フローをショー化します。

ここで終わっては、モノ足りません。さらに差別化を促進するためにもう一つ加えておきたいのが、フラッシュ・マーケティングです。出来上がった商品はすべてニッセンの会員限定で「数量・期間限定」で販売するのです。ファストファッションのH&MやFOREVER21を模倣し、追加生産は行わない。これによって、新商品の在庫リスクを取り除くことができ、さらに限定提供による「希少性や特別性」も演出できます。

■ネット企業にはできない戦い方を
残念ながら、正面突破でアマゾンに太刀打ちできる企業はなさそうです。YAHOOが無料化などを推し進め、牙城の取崩を試みていますがその勢いは増すばかりです。1強体制が進むなか、野球で言う「ストレート」だけの勝負ではいずれ打たれてしまいます。それがどれほどのファストボールであってもです。シンカーやナックルなど違う球種を組み込んで勝負するべきなのです。

リアル店舗やカタログを通して、消費者と直接コミュニケーションが取れるのは、アマゾンや楽天などネット専業企業には到底マネの出来ない芸当です。ネットからリアルへ移行はコスト構造が異なるだけではなく、「店舗運営」のノウハウを必要とするため参入は容易ではないからです。セブン&Iグループの傘下にあって資本面での憂いがない今こそ、旧来の枠組みや他社の動向だけにとらわれず、バッターの手元で変化するようなボールで勝負をかけ、勝率を上げていくことを願ってやみません。


【参考記事】
■新しいビジネスモデルを発想する「6つの視点」(酒井威津善 ビジネスモデルアナリスト)
http://financial-note.com/2016/06/13/six_view_point/
■不動産業に見る「ジャパネットたかた式」ビジネスモデル(酒井威津善 ビジネスモデルアナリスト)
http://financial-note.com/2016/05/21/exsample_0124/
■【【出版不況】書店業界を救う手立てはないのだろうか (酒井威津善 ビジネスモデルアナリスト)
http://sharescafe.net/47952603-20160229.html
■【就活で銀行を選ぶな!】 銀行のビジネスモデルが終焉を迎える日 (酒井威津善 ビジネスモデルアナリスト)
http://sharescafe.net/47617542-20160125.html
■ワタミが劇的な復活を遂げる可能性が低い理由 (酒井威津善 ビジネスモデルアナリスト)
http://sharescafe.net/47314916-20151224.html

酒井威津善 ビジネスモデルアナリスト フィナンシャル・ノート代表


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