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アベノミクスにより、大胆な金融緩和が行なわれて3年以上経過しましたが、物価上昇率はゼロ近辺で推移しています。黒田日銀総裁が宣言したインフレ率2%は、達成時期が後ろ倒しされ続けています。はたして、このまま2%は達成されないのでしょうか?

金融市場では、まるでインフレなどという単語は忘れてしまったとでも言いそうな数字が並んでいます。長期国債の利回りがマイナスとなり、物価連動国債の価格から逆算される「投資家の予想しているインフレ率(BEI)」も極めて低い水準となっているのです。

しかし、筆者はむしろ、今後はインフレの時代になると考えています。そこで今回は、少し長い目で見たインフレの可能性について考えてみましょう。

■世の中に資金が出回らなかったのでインフレにならなかった
黒田日銀総裁(およびリフレ派と呼ばれる人々)は、「金融緩和をすれば世の中にお金が出回って、世の中のモノの量とお金の量の比率が変化して物価が上がる」と考えていましたが、そうはなりませんでした。

金融緩和によって日銀から銀行に出て行った資金が、企業等への貸出に使われるのではなく、そっくり日銀に戻ってきたからです。銀行の日銀に対する預金(準備預金と呼びます)になってしまったのです。銀行が資金を貸出に使わなかったのは、資金需要が無かったからです。銀行が貸したくない赤字企業ばかり借りに来て、銀行が貸したい黒字企業は借りに来なかったのです。

しかし、ここに来て少しずつインフレの芽が見えるようになってきました。景気回復によって賃金が上昇しはじめたのです。すでにエネルギー価格の下落を除いた消費者物価上昇率は1%近くまで来ているのです。このままインフレ率が高まって行くのか否か、要注目です。

■景気回復によるインフレには長いタイムラグあり
景気が回復を始めてから、インフレになるまでには、長いタイムラグがあります。物の需給と言う観点では、景気回復初期には供給力が余っていますから、需給関係が引き締まってインフレになることはありません。せいぜい、赤字覚悟の安売りが止まることによって一時的に物価上昇率が高まる、といった程度でしょう。

景気が回復・拡大を続けて、物が不足するようになるまでには、長い時間が必要です。企業は需要さえあれば、比較的簡単に増産することが出来るからです。物が不足するのは需要が工場の生産能力を上回った場合でしょうが、普通の工場は比較的余裕を持っているため、多少の増産では簡単には生産能力を上回ることはありません。更にいえば、国内で物が足りなければ外国から買ってくれば良いので、供給は相当柔軟に増えるのです。

コスト面では、景気が過熱すると人件費が上昇して物価を押し上げるようになりますが、これも長いタイムラグを経ることになります。景気回復初期には社内にヒマな正社員が多くいるので、彼等が忙しく働くようになるだけです。しばらくすると、アルバイト等を雇うようになりますが、労働力の需要より供給の方が多いので、安い時給で好きなだけ雇うことが出来るでしょう。

今ひとつ、景気回復初期には労働生産性が高まります。ヒマにしていた正社員が忙しく働くことで、社員一人当たりの生産量が増えるのです。正社員の給料は一定ですから、製品1個あたりの人件費が下がります。景気回復初期には、人件費面ではなんと値下げ圧力が働くのです。もちろん実際には企業は値下げをしないので、景気回復初期の増益率が非常に高くなるわけですが。

景気回復・拡大が続くと、非正規労働者の時給が上昇しはじめます。非正規労働者の時給は、ストレートに労働力需給を反映しますから、「アルバイトを募集しても人が集まらないから、時給を値上げして再度募集しよう」という事になるわけです。更に景気が拡大を続けると、正社員の給料も上げざるを得なくなってくるでしょう。そうなると、その分が値上げ圧力となってきます。

製造業は売値にしめる人件費の割合が比較的低い一方で、サービス業は売り値に占める人件費の割合が高いですし、製造業は省力化の余地が比較的大きい一方で、サービス業などは合理化の余地があまり大きくないので、サービス業は人件費の上昇がストレートに値上げに繋がる傾向があると言われています。サービスは輸入も難しいので、その面からもコストの上昇がそのまま値上がりに繋がりやすいわけです。

■少子高齢化で労働力不足の時代が来る
こうして、長いタイムラグを経て、ようやく景気回復が物価上昇に繋がりつつあるわけですが、今後に関しては、景気変動にかかわらず物価上昇圧力が続く可能性も高いと考えられます。

今後は、中長期的に少子高齢化による労働力不足が続いて行きます。そうなれば、中長期的に賃金は上昇基調を辿ります。そうなれば、サービスの価格は上昇せざるを得ません。

物も安心出来ません。医療や介護といった人手を要する仕事が高齢化で増えていくと、現役世代が皆で医療と介護に従事し、物作りに従事する若者が確保できなくなってしまうかも知れません。足りなければ外国から買ってくれば良いのですが、輸入のためのドル買いが増えるとドル高になるので、結局輸入物価が高くなってしまうかも知れません。

■資産運用に際しては、イベントリスクも要考慮
以上は、経済予測でしたが、資産運用などに際しては、イベントリスクも考える必要があるでしょう。最大のリスクは大災害です。大地震と大津波で東京、大阪、名古屋が壊滅したら、生産能力激減と巨額の復興需要で物価が何倍にもなるでしょう。そうしたリスクが発生する可能性は決して低くないと言われています。

今ひとつ、国債暴落のリスクも考えておく必要があります。日本政府が破産するという噂が広まって国債が暴落すると、国債売却代金を得た投資家が、現金を実物資産や外貨に換えようとします。破産する国の通貨など持っていたくないからです。そうなれば、やはり猛烈なインフレになるかも知れません。

そう考えると、現金や銀行預金は決して安全資産とは言えないでしょう。株式や外貨は値下がりリスクがありますが、現金や預金もインフレによる目減りのリスクがあるのです。「買うもリスク、買わざるもリスク」というわけですね。

現金、株式、外貨などに分散投資をすべき、と筆者は考えていますが、それが怖いという方には、変動金利型国債、物価連動国債をお勧めしています。資産を全額銀行預金で持っておられる方は、一度ご検討されては如何でしょうか。

【参考記事】
■株価を上げた「黒田マジックの偽薬効果」が減衰 (塚崎公義 大学教授)
http://sharescafe.net/48963054-20160701.html
■金融緩和で物価を上げるのは無理なのか? (塚崎公義 大学教授)
http://sharescafe.net/48919755-20160624.html
■危機時に円が買われる真因は、過去の経常収支黒字 (塚崎公義 大学教授)
http://sharescafe.net/48952109-20160629.html
■アベノミクス景気は謎だらけ(塚崎公義 大学教授)
http://sharescafe.net/48918008-20160624.html
■株価が下がるほど売り注文が増える恐怖 (塚崎公義 大学教授)
http://sharescafe.net/48993614-20160706.html

塚崎公義 久留米大学商学部教授






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