イギリス田舎pkts
先月6月23日に実施されたEU離脱の是非を問う英国民投票は、EU離脱派が完勝した。事前の予想をくつがえす結果であったことから市場への影響も大きく、円高が大きく進行し、株価は暴落。既に長期までマイナス圏に沈んでいた日本国債の利回りは、さらに一段深く沈みこむこととなった。

このサプライズで大きな影響を受けたのは、もちろん当事者であるイギリスの市場も同じだ。開票直後の変化を見ると、為替が対ドルで13%程度のポンド安となった一方、イギリスの株式指数FTSE250は14~15%程度下落した。中でも、不動産不況への懸念から住宅建設関連株の下落幅は大きく、Bloombergが提供する住宅建設業(Homebuilders)インデックスは、開票前と比べ約4割も大暴落したのだ。

■不動産ファンドの解約請求が殺到
イギリスの不動産市場の不透明感から売られているのは、住宅建設関連株だけではない。Bloomberg等の金融情報メディアの報道によれば、目下、イギリスの不動産ファンドへの投資資金に解約請求が殺到しているのだと言う。
(引用)『英国では大手不動産ファンドの対顧客取引停止が相次ぎ、合計約180億ポンド(約2兆3600億円)の資産が凍結または動きが制限された。英国の欧州連合(EU)離脱決定を受けて投資家が同国の不動産投資から手を引こうとし、解約請求が急増している。
  「リーマン破綻前夜のベア・スターンズのサブプライムファンドを彷彿(ほうふつ)とさせる」と、ジャナス・キャピタル・グループのビル・グロース氏がブルームバーグ・テレビジョンとのインタビューで述べた。「金融システムは流動性が適切な場所に流れ込むようにできていない。不動産ファンドはほんの一例で、恐らくほかにも資金が流出する分野があるだろう。懸念すべきことだと思う」と語った。』
(2016年7月7日付ブルームバーグ記事『2.4兆円の英不動産ファンドが凍結-リーマン前夜のサブプライム彷彿』より抜粋。)

解約請求の急増に対処するため6日までに解約処理を一時的に凍結することを決めた英不動産ファンド運用会社は7社。その金額は180億ポンド(約2.4兆円)にも上る。解約処理の凍結がこれほど広がったのは、それだけ多くの解約請求が集中したということだろう。

同記事では、そうした解約請求急増の原因は、『ロンドンのオフィス価値が英国のEU離脱から3年以内に最大20%下落する恐れがある』とのアナリストらによる警告だとされている。これは、おそらく間違いではないだろう。

だが、逆に言えば「3年以内に最大でも20%しか下落しない」と考えられる状況で、ここまで極端なパニック売りが進むというのは、やや違和感もある。肝心の投資先である不動産自体の経済的価値が、それほど急に目減りするはずもないのだ。

■流動性の限られた市場と美人投票
通常、投資ファンドに投入された資金は、キャッシュとして保有される一部金額を除き、そのほとんどが投資対象の購入に充てられる。相対的に少額であるキャッシュは、解約請求された投資口の償還や、費用の精算等に使われる。

ここで、ファンドの投資対象が市場で適時に売却可能な株等の有価証券であれば、ある程度の解約請求があってもキャッシュに換価して払い戻すことができる。ところが、投資対象が不動産の場合、すぐに適当な値段で売却してキャッシュに換価するというのは難しい。そうした換価のしやすさを「流動性」と言うが、流動性がかなり限定的なのが、不動産ファンドである。

投資家は、当然そうした事情は分かっている。そして、同時に、他の投資家も同様にそうした事情を分かっていることを知っているので、自分以外の他の投資家が皆、おそらく急いで解約しようと考えるであろうと考えるのである。当然、自分自身も同様に解約を急ぐべきと判断するだろう。

金融市場では、誰が最も美人かを当てる「美人投票」と同じで、皆が選ぶ選択肢こそが“正解”なのだ。

■解約請求の凍結は必要か?
ファンドによる解約請求の凍結は、投資家からの信頼を損なうものとして批判する向きは少なくない。だが、筆者は、今回のようなケースでは解約請求の凍結は不可避だったと考えている。自分自身、過去に投資先のファンドが解約処理を停止したことで大きな不利益を被ったこともあるが、その処理については納得するしかなかった。

解約請求の凍結は、何もファンド側の都合だけを考えて行っているわけではない。そもそも限られた流動性の中で解約に応じるだけのキャッシュが準備できない場合もあるだろうが、ほとんどの場合、ある程度余裕がある段階で凍結を決めるはずで、そうした措置を早めに講じるのは実は投資家保護の意味合いもある。投資規模が縮小するにつれ固定費負担が大きくなって投資利回りが低下するため、保有資産の状況に拘わらず、逃げ遅れて残された投資家だけが大きな損失を出してしまうことになるからだ。

また、仮に日々の運転資金も賄えないレベルまでキャッシュを払い戻したとすると、おそらくいずれファンドはデフォルト(債務不履行)してしまうだろう。そうなっては元も子もないのは、明らかだ。そうした状況は、何としても避けなければならないだろう。

「“限定的な流動性”は、市場が安定している通常時には一定の安全弁として働く一方、ひとたび大きなショックが起こってしまうとそれを増幅させる装置となってしまう」ということが、今回の騒動でも再確認されたのである。

【参考記事】
■日銀のマイナス金利政策は、大成功だが、大失敗だ。 (本田康博 証券アナリスト)
http://sharescafe.net/48977254-20160701.html
■日本がギリシャより労働生産性が低いのは、当たり前。 (本田康博 証券アナリスト)
http://sharescafe.net/47352836-20151229.html
■日本が先進国で最下級だという「幸福度」ランクについて、みんなが勘違いしていること。 (本田康博 証券アナリスト)
http://sharescafe.net/48183188-20160325.html
■映画『マネー・ショート』を見ていて混乱するのは、「空売り」を予習したせいだ。 (本田康博 証券アナリスト)
http://sharescafe.net/48046767-20160310.html
■スター・ウォーズを特別料金にするのはともかく、日本がそもそもダントツに映画が高い件。 (証券アナリスト・馬主 本田康博)
http://sharescafe.net/46947203-20151119.html

本田康博 証券アナリスト・馬主


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