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労働力不足だと言われていて、非正規労働者の賃金が上昇しはじめていますが、失業率の統計を見ると3%を超えています。失業者が大勢いるのに、なぜ労働力不足なのでしょうか?今回は、失業者の問題について考えてみましょう。

■高度成長期でも失業率はゼロではなかった
高度成長期、農村の中学を卒業して集団就職列車で都会に働きに出て来た若者たちは、金の卵と呼ばれていました。当時はそれほど猛烈な人手不足でしたが、統計を見ると、失業率は1%程度あり、ゼロではありませんでした。

引っ越しをした場合には、引っ越し先で新しい仕事を見つけるまでの間は、失業者です。勤務先が倒産し、失業した場合も同様です。求人情報は多数ありますが、その中で最も良いものを探すのには、ある程度の時間がかかります。場合によっては満足出来る条件の求人情報が見つからないこともあり、そうなると更に良い条件の求人を探し続けることになります。

企業の求める条件と、働き手の事情が噛み合ないこともあります。こうした事例を、雇用のミスマッチと呼びます。たとえば子育て中の主婦や高齢者で、1日4時間しか働けない、という場合には、フルタイムの求人広告があっても失業したままだ、といった場合です。

■最近は、雇用のミスマッチが増えている
高度経済成長期には、工場の生産ラインで単純作業をする労働者が多数必要でしたから、「誰でも良い」という求人が多数ありましたが、最近ではそうした工場は労働力の安いアジア諸国に移転してしまっており、「パソコンが出来る人」といった求人が増えています。そうなると、パソコンが出来ない失業者がいても、失業したままになってしまいます。

高度成長期には、農村に若者が大勢いて、しかもトラクターが普及したため、労働力が大量に余っていました。従って、農村を離れて大都市で働く若者が多かったわけです。しかし最近では、一人っ子なので親の介護をしなければならず、親の家から通える職場でないと困る、といった人が大勢います。そうした人は、大都市で求人があっても失業したままです。

高学歴化も一因かも知れません。高度成長期は大卒が稀でしたが、今は大学進学率が5割となっています。そうなると、従来は高卒が担っていた仕事を大卒が担うケースが増えてきます。

親としては、苦労して子供を大学に行かせたのに、高卒の自分と同じ仕事はさせられない、と考えて、「大卒に相応しい仕事が見つかるまで、探し続けなさい」と言うこともあり得るでしょう。「嫁ブロック」ならぬ「親ブロック」ですね。そうした子供を養えるだけ、親の世代が高度成長期の親に比べて豊かになった、ということも影響しているのでしょう。

実際には就職が決まらずに大学を卒業してしまうと、その後に就職するのは非常に困難なので、決してお勧めできることではありませんが、残念ながらそうした親がいる事は間違いないのです。

■規制などが邪魔をしている場合も
様々な規制があって、働きたいけれども働けない、というケースも多いでしょう。日本の役所は、規制をするのが大好きだと言われています。規制をすれば権限が増えて天下り先が増えるから、という事もあるようですが、何よりも国民が口うるさいからでしょう。何かあると「役所がしっかり規制していないから事故が起きるのだ」と国民が騒ぐので、その予防として多数の規制を作っておく、というわけです。

規制ではありませんが、介護のように報酬が極端に低く決められてしまうと、求人広告を出しても人が集まらない、ということになります。市場メカニズムを尊重した介護報酬に改定される事が必用でしょう。

上記のような様々な事情があるので、失業率が3%程度あるのは当然のことで、今後景気が拡大を続けても、3%を大きく下回ることはないだろう、と言われています。つまり、すでに日本経済は「完全雇用」だということですね。

■既に完全雇用だと、もう成長出来ないのか?
アベノミクスで景気が回復したとは言え、成長率はゼロに近いですし、景気が好調と言えるほどでもありません。それなのに完全雇用になったのは、なぜでしょうか。一つには、少子高齢化で現役世代の人数が減ったことが挙げられます。少子高齢化は、医療や介護といった人手を要するサービスの需要を高めますから、その面からも労働力不足を助長します。

デフレの終了により、人々が「低価格より良いサービス」を求めるようになったという面もあるようです。企業が安売り競争からサービス競争にシフトしたことで、多くの労働力を必要とするようになった、ということです。

経済が完全雇用であり、しかも現役世代の人口が今後も減って行くとなると、日本経済はもう成長出来ないのでは、と心配する人もいるでしょうが、筆者は楽観的です。今後は省力化投資による機械化が進み、労働力不足を補いながら経済が成長して行くのだと思っています。そのあたりの話は、また別の機会に。

【参考記事】
■株価を上げた「黒田マジックの偽薬効果」が減衰 (塚崎公義 大学教授)
http://sharescafe.net/48963054-20160701.html
■金融緩和で物価を上げるのは無理なのか? (塚崎公義 大学教授)
http://sharescafe.net/48919755-20160624.html
■危機時に円が買われる真因は、過去の経常収支黒字 (塚崎公義 大学教授)
http://sharescafe.net/48952109-20160629.html
■アベノミクス景気は謎だらけ(塚崎公義 大学教授)
http://sharescafe.net/48918008-20160624.html
■株価が下がるほど売り注文が増える恐怖 (塚崎公義 大学教授)
http://sharescafe.net/48993614-20160706.html

塚崎公義 久留米大学商学部教授

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