運動する太った石像
夏休みシーズン直前のこの時期、水着や薄着になったときに少しでも可愛く&格好良く見せたいなどの思いから、ダイエットに励んでいる方もたくさんいるのではないでしょうか。あるいは、筆者のように、医者から痩せるように言われて渋々ジム通いとカロリー制限を始めた人もいることでしょう。統計にもよるのですが、日本は女性の8~9割以上、男性の半数程度以上が、ダイエット経験者だと言われています。ダイエットに関していくつもウンチクが言えるダイエットの達人のような人も少なくないように思います。

■意外に変動の大きい健康指標“体重”
ですが、そんな達人たちですら案外やってしまいがちな間違いが、一つあります。それは、日々の体重変化につい一喜一憂してしまうこと。ダイエット経験者であれば、おそらく誰もが、体重変化に過度に反応すべきでないということを頭では理解しています。にもかかわらず、気がつくと、一日に何度も体重計に乗っていることがあるのです。

体型や体の大きさ等にもよりますが、朝起きて夜寝るまでの間にも体重が1~2kg程度変動することは珍しくないと言われています。トイレに行けばその分体重が減るし、何か口にすればその分増える。そんなことは当たり前だし、一々計っても仕方がないのは重々承知のはずなのに、何故か気になってしまう。それが原因で、結果的にダイエットがうまくいかなくなることもあるでしょう。また、あまりにも体重変化に囚われ過ぎてしまうと、食事をすることすら怖くなってしまうこともありえます。これは非常に危険なことです。

そうならないためにも、ダイエット時は一日一回、毎回必ず同じ条件(時間、服装等)で計測し、その結果に一喜一憂しないことが大切なのです。体重は、一定せずブレやすく、ある程度長めのスパンでその変化を把握すべき健康指標なのです。過去に10kg超のダイエットを二度成功したことのある筆者の経験では、体重の推移は概ね1週間程度のスパンで把握していくのが良いようです。具体的には、毎日、その日までの最近7日間の体重を平均したものを指標とすると良いでしょう。

このように対象範囲を少しずつずらしながら平均をとっていく指標を“移動平均”と言いますが、株価推移等を見る際にも頻繁に用いられる便利な指標なのです。

■経済指標に一喜一憂する投資家たち
実は、数字に一喜一憂するというのは、金融市場の投資家たちも同様です。例えば、先週7月8日に米雇用統計が発表されましたが、これがポジティブなサプライズとなり、米国の株式市場は一転明らかな上げ相場となっています。現地時間7月12日午前には、NYダウが過去最高値の1万8312ドルを記録しました。

米雇用統計では、日本でもお馴染みの失業率等も発表されているのですが、発表される雇用関連指標の中で最も注目されるのは失業率ではなく、“ノンファーム・ペイロール”と呼ばれる「非農業部門雇用者数の増減」なのです。この指標は、金融市場での投資判断のための単独の材料としては、おそらく世界で最も重要なものの一つです。

最近4カ月分のノンファーム・ペイロールは、次の通りです。

  年 月 : 速報値(市場予想) 翌月修正値(直近修正値) サプライズ
  2016年3月: 21万5千人(20万人) 20万8千人(18万6千人) ポジティブ 小
  2016年4月: 16万人(20万7千人) 12万3千人(14万4千人) ネガティブ 中
  2016年5月: 3万8千人(15万5千人) 1万1千人(1万1千人) ネガティブ 大
  2016年6月: 28万7千人(17万5千人) -(-) ポジティブ 大
(「Yahoo!Finance」及び「米労働省労働統計局」資料より。)

7月8日に発表された6月の雇用統計が、市場予想17万5千人増に対し速報値が28万7千人増と11万2千人も多かったことからポジティブなサプライズとなったわけですが、金融市場の投資家は、単に大きな値だから反応するというわけではなく、市場の予想と比べてどうなのかというところを見ていました。予想と結果が大きく乖離したことで、サプライズが生まれたのです。

ところで、6月のポジティブ・サプライズは、冷静に見れば、単に先月のネガティブ・サプライズの揺り戻しと考えることもできるかもしれません。先月は速報値が市場予想より12万人近く少ない3万8千人だった上に、その数字は今回さらに小さく修正され、1万1千人であったと発表されました。二カ月トータルで考えると、実は、市場予想とあまり変わらない結果だったのです。

(注:ノンファーム・ペイロールの過去の値は頻繁に修正されます。前月分の修正まではフォローする場合が多いですが、重要な指標のわりに、過去分の修正については何故かあまり省みられることはありません。)

■経済指標の“ブレ”に一喜一憂する理由
図は、上のグラフがノンファーム・ペイロールの市場予測と速報値を長期間観測したもので、それぞれ値が上下に変動する部分をフィルタリングにより取り除いた“トレンド成分”のみを比較しています。
NonfarmPayrolls20160708
このグラフにより、上下に変動するブレの部分を除けば、実は、市場予想と速報値が同じような動きをしていることがよく分かります。すなわち、毎月雇用統計が発表される度にサプライズの水準によって反応する金融市場は、単に上下にブレるノイズに反応しているだけなのだとも言えるのです。

下のグラフは、サプライズ、即ち予想と速報値の差異と、速報発表翌月の修整幅の分布を、それぞれ示しています。予想と速報値の差異の方が全体に大きく広がり、マイナス方向にやや偏りが見られますが、速報発表翌月の修正はポジティブ方向への変更が多くなっており、平均的には、ネガティブなサプライズは翌月にやや緩和される傾向があることになります。

このように、指標のトレンドではなくブレて変動する部分に過剰に反応するという点では、ダイエットに励むあまり日々の体重変化に過剰反応するダイエット女子(男子)と金融市場には、それほど大きな違いはありません。しかし、その判断が合理的かどうかという点においては、両者は大きく異なっているのです。

上述のとおり、体重変化に反応してしまうのは合理的ではありませんが、投資家が経済指標のブレに反応するのには、ちゃんと理由があるのです。投資家にとって重要なのは、自分がどう思うかではなく、他の市場参加者がどう反応するだろうか、ということです。他の人が買うだろうと思えば、基本的には自分にとっても“買い”が正解だし、売るだろうと思えば、自分も“売り”を選ぶのが自然なのです。

金融市場は、本当の意味で合理的な市場となっているわけではありませんが、それぞれの投資行動に関しては、所与の条件の下で、合理的な判断を積み重ねているのです。

【参考記事】
■日銀のマイナス金利政策は、大成功だが、大失敗だ。 (本田康博 証券アナリスト)
http://sharescafe.net/48977254-20160701.html
■日本がギリシャより労働生産性が低いのは、当たり前。 (本田康博 証券アナリスト)
http://sharescafe.net/47352836-20151229.html
■日本が先進国で最下級だという「幸福度」ランクについて、みんなが勘違いしていること。 (本田康博 証券アナリスト)
http://sharescafe.net/48183188-20160325.html
■映画『マネー・ショート』を見ていて混乱するのは、「空売り」を予習したせいだ。 (本田康博 証券アナリスト)
http://sharescafe.net/48046767-20160310.html
■英不動産ファンド2.4兆円の解約請求は、なぜ凍結されたのか。 (本田康博 証券アナリスト)
http://sharescafe.net/49031857-20160708.html

本田康博 証券アナリスト・馬主


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