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たとえば会社の近くに新しい飲食店がオープンしたので、とりあえず一度行ってみたところ、店内は客でいっぱい、店員は皆不慣れで店の運営はまったく回っておらず不快な思いをした。

・・・・・そんな経験をしたことがある人は多いのではないだろうか。

飲食店が新規オープンする際には、開店にあわせて強力な販促をかける。

販促のおかげで客は入るが、スタッフは運営に慣れておらず、接客も調理も全く間に合わない。客としては、たまったものではないという状況だ。

■なぜ無茶なオープン集客をかけるのか
これを飲食店の運営側から考えるとどうだろうか。実際、新規オープン時の混乱を避けるために、あえてスロースタートを切る飲食店もある。

理由は、前述のような状況で来店客に不満足な印象を抱かれたくないという考えだろう。

一見正しく感じるそのスロースタート手法は、実は最終的に多くのお客さんに支持される繁盛店をつくる上では、非常に危険である。

当然ながら、新しくできた店は認知度がゼロに近い。だからチラシなどの販促を用意して、店舗前や人通りの多いところでスタッフに配らせたりして、認知度を高めるわけだ。しかしこのチラシに、割引やプレゼントなど、強い来店動機につながる販促がかかっていないと、お客さんの動きはどうしても鈍くなる。

その場合、お店はスロースタートとなり、満席になって運営がパンクすることはないだろうが、新しく出来たのに賑わっていない店が客に与える印象は、運営側の思惑とは外れて非常に残念なものになる。

新規オープンなのにあんまりお客が入ってなかったお店に行ってみたいと思うだろうか。

料理とサービスで強い満足感を与えることが出来ればSNSや口コミで広がるじゃないかと考えるかもしれないが、現在の過当競争の中では、まず一回目の来店を勝ち取ることは容易ではない。

初回来店が少なければ、母数が少ない分だけ口コミの広がりも狭く、遅い。ましてSNSに上げられやすい記事は、“話題の店に行ってみたらこんなに混んでてすごい!”というノリのものが多く、行ってみたらヒマな店だったという話は拡散しづらい。

一部の老舗や隠れ処店を除いて、飲食店がTVなどのメディアに露出したがるメリットも、まず一回来てもらうためだ。

■スロースタートが繁盛店に育ちにくいわけ
飲食店でのクレーム発生は、忙しさに正比例するわけではない。逆にガラガラの店の方がお客様に不満や不快感を感じさせることも多い。

これは飲食店でのアルバイト経験がある方であればおわかりだろうが、忙しい店ほどスタッフは動きやすいのだ。賑わった店の方が、明るく元気な接客ができる。

居酒屋などで働く人は、賑わっている場所でこそ元気になるタイプが多い。ヒマな店で仕事が少ないと辞めていく傾向にある。逆に仕事の意欲が低いアルバイトは、忙しい店を嫌がって退職していくので、結果的に賑わっている店に質のいいスタッフが集まる。

さらに、新規オープン時に強烈な客数を経験して鍛えられたキャストは、通常営業になってからも強いチームになる。彼ら彼女らにとっては、通常の集客状況はむしろ楽に感じるし、その楽になった分をサービスに振り分けることが出来る。

客数の少ない店に慣れたスタッフは、多少忙しくなった程度で負荷を強く感じ、結果的に元気で明るい接客ができない。ヒマな店に慣れたスタッフに元気で明るい接客を教えるのは、忙しい店の数倍難しいし、これは客側からの印象も同様で、同程度のサービスでも、お客の少ない状況の方が不満に感じやすい。店内の賑わいは、スタッフを元気にし、お客の満足度をも向上させるのだ。

■クレームは宝の山
飲食店にかぎらず、優秀な運営者ほど、クレームを真摯に受けて次へ活かす。

もちろんクレームはお客様に不満足を与えた結果なので、大前提としてどんな仕事でもクレームを頂かないような運営に万全を期さなければならない。しかし実際に仕事をする上では、誰もがクレームを受けた経験があるだろう。

悪質なクレーマーを除き、そもそもクレームは店への改善提案だし、店側がしっかり対処すればクレームを言ってくれたお客様は後々には店のファンになって定着してくれることも多い。

新規オープンは、飲食店にとって唯一にして最大の集客チャンスだ。開店後しばらく客入りの少ない店が割引チラシをまいたからといってお客は来てくれないのだ。全能を尽くした集客をかけて、その上で尚かつお客様に不満を与えないようなオペレーションを目指さなければいけない。

■美味いか不味いかはお客が決める
飲食店繁盛のためには、お料理やお酒がおいしいこと、接客などのサービスがいいことなど、いくつかの基本的な要因がある。

しかしそれらの評価は、全てお客様が決めるということを忘れてはならない。運営側がいくら「あの店よりも、うちの方が美味い」と力んでもはじまらない。

賑わっていない飲食店で、明るさに欠ける接客を受けながら飲むビールは美味くないし、いくら良い素材を使っていても、愛想の悪い板前の前ではリラックスして味わえないものだ。

新規オープンで多くのお客に来てもらって、店の敷居を下げ、スタッフを盛り上げ、クレームに誠実に対応していくことで、店は繁盛店へと育っていく。というより、ファンになってくれたお客に育ててもらうのだ。

集客のための強い販促をかけるスタートダッシュ戦術で、忙しいからといってお客様に迷惑をかけていいわけではない。しかし繰り返しになるが、それを恐れてスロースタートに逃げるのは、運営上の得策ではない。

【参考記事】
■ビジネス経験豊富なシニアが起業で失敗する理由 (玉木潤一郎 経営者)
http://sharescafe.net/49022518-20160706.html
■三菱自動車の不正問題に見る、下請け企業の自己防衛と金融機関の支援 (玉木潤一郎 経営者)
http://sharescafe.net/48497051-20160501.html
■中小零細企業に必要な「仕事がうまい」人材(玉木潤一郎 経営者)
http://sharescafe.net/48242519-20160331.html
■地方の中小企業経営者が現場から見た「女性活躍」のリアル(玉木潤一郎 経営者)
http://sharescafe.net/48171281-20160323.html
■せっかくの学びが、地方のビジネス現場で役に立たない理由(玉木潤一郎 経営者)
http://sharescafe.net/48339489-20160411.html

玉木潤一郎 経営者 株式会社店舗応援団 代表取締役

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