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7月23日付日本経済新聞朝刊1面に、「選ばれる会社」という短期連載記事の1回目が載りました。タイトルは、「1億円調達でも利息は1000円 『借金=重荷』崩れる図式」です。

記事の内容は、企業は無借金経営に安住せず、もっとアグレッシブな財務戦略を取るべき、と主張するものです。そうすることで企業の成長力と投資家の評価が高まるとして、その証明に借金を使い企業価値を高めた企業を一覧表で紹介しています。

ありていに言えば、こんなに金利が安いのだから、リスクを恐れず、もっと借金して投資をすべき、ということです。確かに今は空前の低金利で、記事が言うように「借金を賢く使うのにこれほど条件が整った時はない」状況です。さて、本当に企業は借金してでも積極的に投資するべきなのでしょうか。今日はこのことを考えてみたいと思います。

■株式時価総額が増えた理由
記事には、「(2013年春の異次元緩和以降に)借り入れを増やした主要企業の7割が株式の時価総額を増やしている」という記載があります。これを読むと、少なくともこれを書いた日経の記者は、借り入れの増加が投資家に好感されて株価の上昇につながった、と考えているようです。

確かに、理屈では企業の負債増加は株価の上昇要因になります。なぜなら、事業拡大の資金を借金ではなく増資で調達してしまうと株数が増え、たとえ利益が増えたとしても1株当たりの取り分(配当)が増えるとは限らないのに対し、借金で調達すれば株数は変わらないため、利益の増加分だけ確実に取り分が増えるからです。

しかし、当然ながら株価はいろいろな要因が重なって形成されるものです。特に、記事で示された異次元緩和直前からの状況を振り返ると、円安とそれに伴う企業業績の回復、アベノミクスへの期待感なども大きな要素でした。その結果、この間で日経平均株価は約35%上昇しています。

つまり、時価総額が増えたのはたまたま株式市場の地合いが良かったからで、有利子負債の増加と時価総額の増加に、ことさら因果関係があるかのような論調は、明らかに無理筋だと考えます。

■借金を評価する本当の基準
そもそも、負債(借金)増加の評価を、株式時価総額の多寡で判断することが適切なのでしょうか? 私はそう思いません。

投資目的の借金なら、その投資案件がきちんと長期的にキャッシュフローを生み、企業業績に貢献するかどうかが評価の基準になるはずです。逆に、この基準を満たさない投資案件だと経営者が判断したのなら、撤退するのが取るべき道です。

「リスクを恐れずに投資しろ」と言うのは簡単ですが、この世界的な低成長時代に魅力的な投資先を見つけるのは困難です。それが分かっているからこそ、多くの企業が借金を控え、万一の景気リスクに備えて手元資金を増やしているのです。私は個人的には、「カネを貯めこむ」ことだって、立派な財務戦略だと思っています。

このように書くと、随分と消極的な経営コンサルタントだと思われるかもしれません。しかし、中小企業支援の現場では、たったひとつの設備投資の判断ミスで倒産に追い込まれるケースもあります。企業の投資判断とは、本来それくらい慎重さが要求される真剣勝負なのです。

【参考記事】
■「日ハム新球場」構想は実現するのか? (多田稔 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/48692713-20160526.html
■「秀才」の舛添都知事はなぜ愚行に走ったのか (多田稔 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/48661263-20160523.html
■しまむら株が10年ぶりの高値をつけた本当の理由 (多田稔 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/48990151-20160702.html
■せたが屋買収に見る、吉野家の長期戦略 (多田稔 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/49065861-20160712.html
■船井電機は、本当はVHSをやめたくなかった? (多田稔 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/49109674-20160718.html

多田稔 中小企業診断士 多田稔中小企業診断士事務所代表


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