議論


学生であればゼミナール、ビジネスパーソンであれは会議など、ディスカッションをする場は頻繁にあるでしょう。私たちが生きていくうえで、ディスカッションするという行為は避けて通ることのできないもののひとつです。

だからこそ、正しいディスカッション(以下、議論と表現します)の仕方を身につけておくことは極めて重要ではないでしょうか。「議論になっていない議論」をしないためのポイントを解説します。 ポイントは「定義」という言葉です。

■数学は「定義」をしないと始まらない学問だった
私の専門とする「ビジネス数学」とは、数字や論理を正しく使えるビジネスパーソンを育成する教育テーマと定義しています。数学と聞くといわゆる「文系」の方はイヤな気分になるかもしれませんが、安心してください。数式を使った数学の話をするわけではありませんので。

私は先ほど、何気なく定義という言葉を使いました。実はこの言葉は数学的に極めて重要な役割を担っています。そもそも「定義する」とは、それが何であるかを誰でも共通認識できるような言葉にすることです。

たとえば「数字」を定義してみましょう。仮に「数えられるもの」としてみます。ではサイン・コサイン・タンジェントといった三角関数の値は「数字」になるのでしょうか。円周率3.14……は果たして「数えられるもの」でしょうか。これが「大小を表現できる言葉」と定義すれば、三角関数の値も円周率も「数字」に含まれると考えてよさそうです。

たとえば「円(えん)」の定義は何でしょうか。「まんまる」という言葉で表現してしまう方も多いと思いますが、では「まんまる」とは何でしょう。地球は?ドーナツは?では卵やラグビーボールは?
正しい数学的な定義は、「ある点からの距離が等しい点の集まり」です。こう定義したから、円を簡単に描けるコンパスという道具が生まれました。

■定義が違う相手とは、うまくいかない
ここからが本題です。いったい何が言いたいかというと、「定義」が間違っていると、あるいは「定義」が相手と一致していないと、正しい議論というものはできないということです。ひとつ実例をご紹介しましょう。

実は最近、私はビジネスの場でとても反省した出来事がありました。仕事を依頼した相手がとても雑な仕事の仕方をしていたため、苦言を呈したのです。しかし、私の主張を理解していただけないのです。どうにも会話が噛み合わない。つまり、「議論にならない議論」をしていたのです。でも、次の言葉を聞いてようやく合点しました。

「あなたとの取引はウチに利益が残らない。だから私はこの仕事をビジネスとは考えていない。善意でやっているだけだ」

一方、私のビジネスの定義は「相手から1円でも金銭をいただく時点でそれはビジネスであり、プロとして責任を全うする義務がある」です。そう、ビジネスの定義が双方でまったく異なるのです。数学的に言えば、ベクトルが違うということでしょうか。

どちらが正しいという議論は脇に置いておくとして、私がこの経験を通じて再確認したのはこういうことです。
仕事をお願いする前に「このビジネスの定義」をしっかり確認し、一致させておくべきだったと。相手への不快感もありましたが、それよりも自らを戒める反省の気持ちのほうが強かったですね。

■「数学的」になりませんか?
「成功」の定義が一致していない相手と仕事をしても、決してうまくはいかない。
「幸せ」の定義が一致していない人とは、結婚生活はうまくいかない。
「会議」の定義が一致していないメンバーが集まっても、その会議の生産性は上がらない。

数学的な思考ができる人は定義をとても気にします。なぜなら、ご説明したように数学は定義をしないと始めることができない学問だったからです。かつて数学が苦手だったという人ほど、数学=計算というイメージを持ってしまっています。たしかに計算はしますが、本質はそこではありません。しっかり定義をしてから思考したり議論したりする練習をしていたのです。

数学の問題がスラスラ解ける人が増えることも素晴らしいと思います。しかし私は「数学的に考えられる人」がもっと増えることのほうがはるかに重要だと思っています。この記事を読んでいただいているあなたにも、ぜひ後者を目指していただきたいです。

■議論を始める前に、まずは定義を確認しよう
そろそろまとめましょう。

何かを議論するのであればそもそも「定義」が一致しているのかを確認する。一致していなければ、それを揃えることができるかを試みましょう。先日、私は某ビジネス誌のインタビューを受けましたが、その冒頭で編集者さんに申し上げた言葉がこれです。

「まずはこのインタビューを定義しましょう」

ビジネス数学の概要を取材したいのか、深沢真太郎という個人を知りたいのか、ビジネスパーソンの教育研修のエピソードが聞きたいのか…… このインタビューはいったい何なのかを定義しないとよい議論になりませんし、結果的によい記事にもなりませんからね。

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深沢真太郎 ビジネス数学の専門家/教育コンサルタント

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