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7月20日に東京大手町に温泉を備えた地上18階、客室数84室の「星のや東京」がオープンした。星野リゾートにとっては、都市部で運営する初めての施設であり、日本旅館を世界に広める試金石という位置づけである。

国内では北は北海道から、南は沖縄まで、様々なリゾートを手がけ、利用者の支持を得てきた星野リゾートであるが、これまでの高級ホテルとは何が違うのか。星野リゾートが作り出す戦略の違いを読み解いてみる。(星野リゾートでは、複数のブランドを展開しており、それぞれが異なるコンセプトの元で運営されているが、今回は軽井沢や東京に展開する「星のや」に焦点を当てる。)

■リッツカールトンの戦略
 まず、星野リゾートの特徴的な戦略を紐解く前に、国内に展開する高級ホテルと比較してみる。日本で東京・大阪・京都・沖縄に進出しているリッツカールトンは、様々な手法で顧客の心を掴む、ユニークな戦略を展開する。

 リッツカールトンでは、「クレド」と呼ばれるカードに価値観が刻まれている。顧客を紳士淑女であるとする一方、顧客をもてなす従業員も紳士淑女でなければならないとしており、従業員満足と顧客満足の向上こそが利益をもたらすと説く。彼らの戦略の中心は人材であり、従業員満足度が高まることで、さらにより良いサービスを顧客に提供しようと行動する。その結果として、顧客に満ち足りた幸福感を提供することができるのである。また、そのサービスを行う際には、現場や個々人にある程度の権限を移譲し、顧客の要望に対して「ノー」と言わないサービスを従業員が常に考え、マニュアル主義の画一的なサービスに陥ることの無い仕組みが隠されている。

 リッツカールトンの従業員たちは、顧客ニーズを読み取ることに全力を尽くし、そのニーズに対し、顧客の期待を超える価値を提供しようと努力する。いわばニーズの先取りとそれを超える感動体験がリッツカールトンの商品であり、模倣困難性を伴う付加価値である。その結果が、今日のリッツカールトンの地位を築いているのである。

■星のやの戦略
 一方、星のやでは、「現代を休む日」というコンセプトのもと、客室の照明を暗くし、驚くことにTVを設置していない。また、今月オープンした「星のや東京」では、入り口で靴を脱ぎ、館内は裸足で利用する日本旅館スタイルをとる。館内の温泉は当然のことながら浴衣で利用できるが、これらの施設では日帰り入浴は行わない。

 星のやは、顧客に「現代を日本旅館で休んでもらう」ため、これらコンセプトの徹底に力を入れている。実はここがリッツカールトンや他のホテルとの大きな違いである。通常ホテルは顧客ニーズを察知し、それを先回りするか、顧客ニーズを大きく超えることで顧客満足を得ようとする。上述のリッツカールトンの事例も、手法は特徴的なれど、その目的は同じである。しかしながら、星のやはその目的が根本的に異なるのである。

 星のやでは、コンセプトにより設定されたサービスの画一的な提供を行っている。言わば「サービスの押し付け」であるが、その押し付けによる驚きとコンセプトの魅力が人気を呼んでいる。
そもそも、通常TVがない客室では、顧客から必ず見たいという要望がでるはずであるが、それを承知で設置していない。これは「昨日までの忙しさを忘れるための配慮」であるという。照明を暗くするのは、「自然の光の美しさを気づいてもらうため」。日帰り入浴は、時間帯を区切れば、宿泊客への影響を最小限にし、新たな収益を得られる選択肢でもあるが、日帰り入浴のみでは、コンセプトである「現代を休む日」という商品自体を提供することができないのであろう。

 星のや東京は、日本旅館として、玄関で靴を脱ぐことを全ての利用者(外国人含)に求め、「TVなしの客室」と「浴衣で行ける温泉」を提供することで、「現代を休む日」という商品を顧客に届けることを約束する。言い方を変えれば、これ以外の商品は提供しないという強い意思の表れでもある。これにより、星のやを選ぶ顧客は、日本旅館に泊まりたい、現代を休む日を求める顧客のみとなる。競合他社が「顧客の望むものを提供します」と謳う一方で、星のやは「商品は1品のみです、現代を休みたい時に来てください」と言わんばかりの、ターゲットと目的を絞った大きな差別化を図る戦略を展開しているのである。

■星のやの展望
 このように、星のやとリッツカールトンは、そもそもの戦略が大きく異なり、提供商品や提供価値が異なる。単なる宿泊ではなく、ホテルや旅館に人は何を求めるのか。星のやはその答えに、日本旅館による「現代を休む日」という商品を新たに提示した。この商品を東京の大手町に留め置くことなく、大手町での挑戦をきっかけに、日本人のみならず東京に集まる外国人にも受け入れられる「日本旅館コンセプト」としての商品を開発し、世界のホテル業界へ新たな価値を創造する、そんな将来がぼんやりと見え始めている。

【参考記事】
■国内LCCの戦略に潜む思惑とは(森山祐樹 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/48967732-20160630.html
■トレードオフ 優秀な経営者がやらないことを決める理由(森山祐樹 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/48728741-20160531.html
■日本企業のM&A「対等の精神」に潜む影 「ファミマとユニーの経営統合」(森山祐樹 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/47656741-20160129.html
■フェラーリの戦略にみる企業価値経営(森山祐樹 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/47203706-20151215.html
■ブルーボトルコーヒーに見る戦略ストーリー「人気のブルーボトルコーヒーは何を捨てたのか!?」(森山祐樹 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/45855247-20150808.html

森山祐樹


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