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■人工知能で自動運用はどこまで可能か
最近、人間の将来を考えさせられる人工知能の話題が出ています。将棋や碁の勝負で人間を負かしたとか、人工知能が作曲し、絵画も描き、そして小説を書くというものです。芸術の分野では、それが人工の技と言わなければ、そのままモーツアルトやレンブラントの名作として通ってしまいそうです。

金融の世界でも、「人工知能によって自動運用できる」という触れ込みが出てきました。これは、ロボアドバイザーと呼ばれています。似たシステムのものは以前からありました。それが今どう変わって、個人投資家がどう使いこなせるようになったか。人工の芸術作品を創り出すように、傑出した成果が見てとれるか。そこで、ロボアドバイザーの仕組みを見てみます。お任せで資産倍増、ちょっと夢のような期待感が膨らむ分、そこにはまだ人間知能の危うさも見え隠れします。

■リスクの受入診断からお任せ運用まで
ロボアドバイザーのあるウェブサイトの無料診断は、どこも次のステップとなっています。

1.リスク許容診断
 投資家本人の属性や投資についての知識・経験、考え方からどれだけのリスクを受け入れられるかを診断する(選択肢回答で10問前後)。
2.ポートフォリオ(運用コース)の提案
 上記を受けて、本人の属性に最適と思われるポートフォリオを提案する(入力数秒後に自動生成)。株式配分率何%、債券配分率何%、と提示される。
3.リターンのシミュレーション
 提示された資産配分率であったなら過去何年間でリターンは何%、将来何年後にはリターンが何%、目標資産額に達成する確率は何%、と表示される。
4.口座開設・申込
 以上の資産配分で納得すれば口座を開設し、申込を行う。

1~3までは無料で何回も試すことができます。4まで進んだ場合、その先が大きく2つのパターンに分かれます。ここが重要で、このあと自動運用でお任せするかしないか、ということになります。第1のパターンは、提示されたポートフォリオの金融商品を口座開設後に自分で購入して完了します。第2のパターンは、口座開設した後の運用、つまり購入や売却(自動リバランスを含む)をお任せする方法です。

後者は、いわゆる「投資一任」と言われるものです。お任せとなる分、運用コストが付きます。これは、今はやりの少額個人投資家向けのファンドラップと仕組みは同じです。違うところは、ネット上で自分がリスク診断を受けて、資産配分と商品を提示してもらい、納得すれば申し込むというものです。金融機関のコンシェルジュと呼ばれるアドバイザーがしてくれるサービスを自分で完了します。

■ポートフォリオ構築を使いこなせ
ファンドラップは、100万円くらいからの投資で毎年3%程度のコストがかかります。しかし今のロボアドバイザーは、最低10万円で手数料1%(年間1千円)と低投資額、低コストでお任せ運用ができることを売りにしています。仮に初心者が10万円から投資を始めるとして、自分に合ったポートフォリオを簡単に把握できるし、リバランスなど面倒なことも自動でやってくれます。10万円なら仮に損失が出ても、大やけどを負わずに投資経験にもなるというものです。投資経験の浅い人が初めの一歩を踏み出すには、決して高いコストとは言えないと思います。

まずは一定期間やってみて、「お任せ」で物足りなくなれば自動運用をやめて、自分で運用すればいいわけです。知識と経験が増えたら、自分でリスク判断し、ポートフォリオ構築までのシミュレーションを使いこなし、資産配分率を見直して商品を自分で購入すればいいのです。多くの場合、ロボアドバイザーのあるサイトは特定の金融機関とヒモ付けになっていますが、インデックスファンドやETFならコストも安く、同じ資産は他サイトでも探しやすいでしょう。

■リスクの取り方はファイナンス理論で変わる
ここまでは、ロボアドバイザーがうまく運用してくれることを前提に話を進めてきました。しかし資産運用にあっては、芸術作品を生むようなところまではまだ至っていないようです。その1つが「リスク許容診断」の内容です。数年前までは、本人の属性(性別、年齢、職業、家族構成、収入、投資経験、運用期間、貯蓄額等)を数値入力で診断するものが主流でしたが、それに加えて心理的な項目が入ってきています。

例えば、「今の資産額が10%下落したら、どうしますか」「次のリスク幅のあるファンドを運用するファンドマネジャーのうち誰を選びますか」「今、臨時収入が入ったらどうしますか」などです。これらの項目については、回答次第で従来のファイナンス理論と新しいファイナンス理論でリスク許容度の大きさが変わってきます。前出の「資産額が10%下落したら」で見てみます。行動経済学の「損失回避」バイアス(プロスペクト理論)は、投資家は同じ収益率の動きであっても、プラスよりもマイナス(損失)のほうが、2倍近く強い衝撃を受けるというものです。その投資心理によってリスク許容度を測るとどうなるか。

この質問の回答選択肢は、以下が挙げられます。
a. 買い足す
b. 何もしない
c. 売り払う

このときのリスク許容度は、従来理論では大きい順にa‐b‐cと考えられます。aは下落時にさらにリスクを取るわけですから許容度は大きいといえます。cは利益を確定するのでリスクは取りません。問題はbです。「傍観」はプラス・マイナスどちらにも転びうる、そこそこのリスクテイクと考えられます。しかし、「損失回避」のバイアスで考えると、投資家は現状損失を認めたがらず、利益への回復を望みます。しかし、「何もしない」ことによるリスクは大きくなる可能性があります。損失が進むと、こんなはずはない、絶対取り戻してやる、と今度はリスクに対して異常に大胆になり、さらに大金を注ぎ込み(ギャンブル的投資)、大損失になることもあり得ます。bの投資家は、最大のリスクテイカーと言えるでしょう。

■ロボアドバイザーの知能は人の脳次第
このような診断はいくらでも取りようがあるのです。そもそもロボアドバイザーの真骨頂は、個人に合わせてポートフォリオを構築するところにあります。10問程度の質問に対する回答の組合せで何百というパターンからその人に合ったポートフォリオが自動提示されるわけです。そのシステムのプロセスで人(アナリストやファンドマネジャーなど)の意思が何らかの形で関わってくるのは当然です。

ファイナンスの新しい潮流をリスク許容診断に応用すること自体は歓迎できるものです。ただし、そもそも人間心理の曖昧さでリスク許容度を測るのに、質問の回答とリスクはうまく関連しているのかということです。質問によっては本人のリスク許容度が、意図的ではないにしろ操作されかねない、それによって投資家が希望しないリスク商品に誘導されてしまうということもないとも言えません。このことはロボアドバイザーだからということではなく、人を介して構築するものである限り、ありうることです。したがって、当初はロボアドバイザーの提案を利用するにしても、いずれは自分の判断でのポートフォリオ選択が必要になってくるということでしょう。

「確実に毎年、20%稼げます」と言うロボアドバイザーが目の前に現れたら、おそらくそれは精巧な人工知能ではなく、ロボットの被り物に入った「ヒト」アドバイザーの脳がそう言っているのです。

【参考記事】
■転職貧乏で老後を枯れさせないために個人型DCを勧める理由 (野口俊晴 ファイナンシャル・プランナー)
http://sharescafe.net/49061150-20160714.html
■定年退職者に待っている「同一労働・賃下げ」の格差 (野口俊晴 ファイナンシャル・プランナー) 
http://sharescafe.net/48662599-20160524.html
■リストラする側の構造と「リストラ候補者」の心的対策 (野口俊晴 ファイナンシャル・プランナー)   
http://sharescafe.net/48383659-20160419.html
■道義なきリストラは最大のパワハラだ 「ローパー」と呼ばれる人たちへ (野口俊晴 ファイナンシャル・プランナー) 
http://sharescafe.net/48118899-20160322.html
■文系卒が、それでも実学としてビジネスで役立てられる理由 (野口俊晴 ファイナンシャル・プランナー) 
http://sharescafe.net/47493984-20160113.html

野口俊晴 ファイナンシャル・プランナー TFICS(ティーフィクス)代表 


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