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7月21日から、フジテレビ系列で松島菜々子さんが主役を演じるドラマ「営業部長 吉良奈津子」がスタートしました。視聴率は、初回が10.2%(関東地区)、2回目が7.7%(関東地区)となっており、松島菜々子さん主演の割には、極めて厳しいスタートになったといえそうです。

■「営業部長 吉良奈津子」第二話のあらすじ
「営業部長 吉良奈津子」の舞台は広告業界です。業界中位の広告会社「東邦広告」のクリエイティブディレクター(CD)として活躍していた松島菜々子さん演じる吉良奈津子が、結婚・出産を経て3年ぶりに復職を果たしたところ、復職先はクリエイティブ局ではなく、営業開発部の部長というポジションだった、というところからドラマが始まります。

営業開発部は新規顧客を開拓するための営業部門ですが、東邦広告はインターネット広告領域に乗り遅れたため業績が低迷し、新規など取れる状況にない、という設定になっています。また営業開発部は「お荷物の部署」として描かれており、部員たちも300社以上の企業にコンタクトしたものの、アポイントを取ることすらできず、部内にはあきらめムードが蔓延しています。

第二話は、吉良奈津子が石丸幹二さん演じる斎藤専務に、「今月中に新規の顧客を獲得しろ」と命じられるところから始まります。そこで吉良奈津子が、「つけまつげ」で急成長中の化粧品会社「マイキュート」に営業をかけたところ、イベントで競合する大手化粧品会社「リナージュ化粧品」よりも多くの客を集めることを、広告出稿の条件とされてしまいます。しかしリナージュ化粧品は同じ社内の第一営業部の重要顧客であり、社内で対立を招いてしまいます。

吉良奈津子は、マイキュートに対して、イベントブースで客全員にプロがメイクを行うプロモーションを提案します。しかし同じイベント会場で、リナージュ化粧品が吉良奈津子の元部下で、東邦広告のCDを務める松田龍平さん演じる高木啓介が発案した「ハリウッドの有名メイクアップアーティストが観客にメイクをする。」というプロモーションを実施していて、多くの客がリナージュ化粧品のブースに流れるという状況に陥ってしまいます。

そこで営業開発部員で中村アンさん演じる今西朋美が先頭に立って、イベント会場で積極的に客の呼び込みを行うことで、マイキュートのブースへの誘客に成功し、その結果「東邦広告」は、マイキュートから、2000万円の雑誌の扱いを任されることになります。

しかし、今西朋美がリナージュ化粧品の宣伝部長に対して呼び込みを行ってしまったことでリナージュ化粧品の怒りを買い、東邦広告はリナージュ化粧品の扱い額を減らされ、吉良奈津子は斎藤専務に謝罪する、といったストーリーになっています。

■広告業界の構造
私事ですが、筆者も以前中堅の広告代理店に勤務し、チームリーダーとして、吉良奈津子と全く同じ業務である「新規顧客の開拓業務」に携わった経験を持っています。また現在も、広告関連企業のプロジェクトに携わるなど、日頃広告業界とは密接に関わっています。

このような経験をもつ筆者から見ると、ドラマ「営業部長 吉良奈津子」のストーリーは、現在の広告業界の構造や業務内容などの点で、実態と乖離している部分が目立ちます。例えば、欧米における広告代理店は「一業種一社制」が原則となっています。これは情報漏えい等の観点から、競合会社、競合ブランドの広告を、同じ広告代理店では扱わない、という意味です。飲料業界を例にとると、コカ・コーラとペプシコーラのように競合する企業は、同じ広告代理店に発注することを避ける、ということが、欧米の広告業界では原理原則になっています。

しかし日本においては欧米と事情が異なり、広告代理店の業態の違い等の理由から、一部の大手広告代理店では、競合する企業やブランドの広告を扱うケースがあります。そこで、どの広告代理店も情報漏えい等の対策には万全を期し、競合する企業を扱う担当部門は、其々の部門を別々のビルに入居させたり、フロアを変えたりするなど、細心の注意を払っています。このように、「顧客の情報は漏れない」「顧客の情報は絶対にもらさない」といったポリシーの徹底こそが、広告代理店が企業として成立する基盤になっているからです。

このように広告代理店における「クライアントの機密厳守」については、広告代理店の管理職であれば、十分に理解している原理原則であり、ましてや、クライアントの競合に当たる企業の機密情報等を、社内で不正な手段を用いて入手しようとする行為は決して許されない、ということも十分に理解しているはずです。

しかしながら「営業部長 吉良奈津子」の第二話では、営業開発部長であるはずの吉良奈津子自らが、部下の中村アンさん演じる今西朋美に命じて、マイキュートの競合となるリナージュ化粧品を担当しているCDの高木から、「リナージュ化粧品が行うイベント情報」を探ってくるよう指示するシーンが出てきます。しかし今西朋美は、「スパイのようなことはしたくない。」という理由で、この命令を拒否します。

これが現実の世界であれば、部長職にある者が、自部門の利益のために不正な手段を用いて自社クライアントの機密情報を得ようとし、その情報を用いて自社クライアントが競合する企業の利益向上に貢献しようとした、ということになり、重大なコンプライアンス違反に相当する可能性が高い、と言わざるを得ません。

■ドラマの中での「職業倫理」の扱い方
「営業部長 吉良奈津子」はドラマでありフィクションなのですから、いちいち目くじらを立てるようなことではないのかもしれません。しかし、ドラマにおいても細部にこだわることは肝要であり、細部が現実と乖離しているとなると、いくらフィクションであっても、視聴者は感情移入が難しくなるはずです。

一例ですが、6月までテレビ朝日系列で放送されたドラマ「不機嫌な果実」の中でも、栗山千明さん演じる主人公が勤務する弁護士事務所の「職業倫理」に関するシーンがありました。栗山千明さん演じる主人公は弁護士事務所に勤務しているのですが、主人公の友人の夫が、主人公が勤務する弁護士事務所を訪れ、友人との離婚について相談したことを主人公が知りながら、友人に話さなかったことを詰られました。その際、主人公は友人に対して、「弁護士事務所は顧客の秘密を漏らすことができないので、職業倫理上言えなかった。」という趣旨の弁解をするのです。

但し、弁護士事務所に勤務する主人公が、親しい友人に対しても、職業上知りえた情報を漏らさなかったことは、現実の世界では至極当然のことであり、逆に主人公が友人に、「あなたの夫が弁護士事務所に相談に来ていた。」などと簡単に漏らすような話だったとしたら、筆者は違和感をもっただろうだと思います。よって、「不機嫌な果実」の中では、弁護士という業務に欠かせない職業倫理について、丁寧に扱われていたように思います。

■「ビジネスドラマ」としての完成度アップを
「営業部長 吉良奈津子」を、半沢直樹のような「ビジネスドラマ」のカテゴリーに属するドラマとして捉えるとしたら、職業倫理の面のみならず、広告代理店における新規開拓の進め方などに関する広告関連実務について、脚本家の方にもう少し理解を深めていただくことが望ましいのではないか、と感じます。

また今後は、伊藤歩さん演じるベビーシッターと、原田泰造さん演じる吉良奈津子の夫との「不倫関係」が、ストーリーの中で大きなウェイトを占めていく模様です。不倫はドラマにとっては欠かせない要素ではありますが、ベビーシッターに携わる方の「職業倫理」にも十分に配慮していただきたいものです。

ドラマ「営業部長 吉良奈津子」は、働く女性が共通して抱える「悩み」にスポットライトを当てたドラマになっているため、もう少し視聴率が伸びても良いのではないか、と推察されます。そのためには「不倫」も結構ですが、併せて「ビジネスドラマ」としての完成度を高めていくといった改善がみられると、より視聴者の共感も得られやすいのではないか、と思います。

【参考記事】
■選挙公約から垣間見える、小池百合子氏の戦略思考
http://takaokawasaki.blog.fc2.com/blog-entry-32.html
■企業風土改革に失敗した、三菱自動車の末路
http://takaokawasaki.blog.fc2.com/blog-entry-30.html
■奨学金問題と併せて考えたい、もう一つの大学進学形態
http://sharescafe.net/48331127-20160411.html
■「ショーンK氏問題」から考える、コンサルタントの学歴詐称
http://sharescafe.net/48110506-20160317.html
■ブランディングの後進国であることを示した「東京五輪エンブレム問題」
http://sharescafe.net/46134516-20150903.html

株式会社デュアルイノベーション 代表取締役
経営コンサルタント 川崎隆夫 


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