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厚労省の調査によれば、2015年度の男性の育休取得率が「過去最高」となったという。しかしながら、当該取得率は「2.65%」。思わずガクッとした次第だ。

厚生労働省が26日発表した2015年度の雇用均等基本調査によると、男性の育児休業取得率は2.65%となり、1996年度の調査開始以来、最高となった。ただ、男性の取得率を20年度までに13%に引き上げるとする政府目標には遠く及ばず、低水準にとどまっているのが現状だ。
時事通信「男性の育休取得2.65%=過去最高でも水準低く―15年度 2016/07/26


■育休給付金を増額すれば男性の育休取得率はアップするのか
上記記事中にある「育児休業給付金(以下、育休給付金)」とは、雇用保険の一般被保険者が、1歳(保育所等に入所できないなど、一定の場合には1歳6か月)に満たない子を養育するために育児休業をした場合に、一定の要件を満たすと支給されるものだ。

具体的には、休業開始時賃金日額(原則として、育児休業開始前6か月間の賃金を180日で割った額)×支給日数×67%(休業開始から6か月経過後は50%)の額が支給される。

支給期間は、父が休業した場合1年間。母が休業した場合、出生日(産前休業の末日)と産後休業期間と育児休業を取得できる期間を合わせて1年間が上限(保育所等に入所できない等により、子が1歳6か月に達するまで育児休業をする場合には、一定の要件を満たすと、子が1歳6か月に達する日の前日までの期間)だ。

上記に加え、健康保険料・厚生年金保険料が産前産後休業中、育児休業中は申し出により支払いが免除され、雇用保険料が産前産後休業中、育児休業中、介護休業中に勤務先から給与が支給されない場合は、保険料負担はない。加えて所得税は育児休業給付について非課税のため、育休給付金から所得税及び復興特別所得税は、差し引かれない等の優遇措置がある(厚生労働省・都道府県労働局「平成27年度 育児休業や介護休業をする方を経済的に支援します」)。 

給与上・税法上の計算は煩雑であるため、あくまで概算となるが、仮に男性労働者が育休を取得するとして、育休前の平均月額給与が30万円だと仮定すると、上述の計算式にて、育休給付金日額は6,700円となり、育休取得日数を180日(6月)とすれば、育休給付金総額はおよそ120万円となる。

育休給付金の支給率は、現在の67%に引き上げられる前(平成26年3月まで)は50%であったが、それをベースに上記の概算をすれば、同じく180日の育休取得で給付金総額は90万円となり、その差額は30万円(1月あたり5万円)だ。

勿論1月5万円の価値は家庭により異なるし、パーセンテージの設定次第で差額は流動的となる。加えて前述のとおり各種税金等に関する優遇措置もあるため、上記のように概算値による議論は乱暴であろう。

しかし、仮にあなたが男性ビジネスマンだとして、この差額を見て「よし、これだけ得をするならば育休をとってみよう!」と即決するだろうか。それよりも、「上司になんていわれるだろう」とか「自分の戻る椅子はあるだろうか」等の心配が先んじて頭をよぎるのではなかろうか。

■男性の育休取得が進まない要因は収入減ではないのでは。
育児休業で無給となった場合、育休給付金等の制度で一定の収入を維持できるのは確かに魅力的だ。育休取得による家計へのダメージを軽減させるべく、政策的に増額してきた経緯がある。しかしながら、前掲記事で厚労省が述べるように、育休給付金を増額すれば、男性の育休取得率は比例して向上するのだろうか。

別記事にて紹介したが、日経DUALの記事によると、日本労働組合総連合会の調査で、男性が育休をとれない理由の第1位は「仕事の代替要員がいない」ことだったという。第2位こそ「経済的に負担となる」であるが、以下「上司に理解がない」「元の職場に戻れるかどうかわからない」「昇進・昇給への悪影響がある」等、職場における理解不足や処遇面での不安に基づく回答が目立つ(2014/2/20 男性が育休をとれない理由1位は「代替要員がいない」)。

また、ユーキャンラボによる「男性の育児休暇に関する意識調査」によれば、会社の制度面以外の障壁としては、取得経験者・未取得者共に「職場の理解が足りない」が最も多い結果となっている(育休取得者51.4%、未取得者57.7%)。第2位に「家計への不安」がランクインするが、以下「仕事を引き継げる人がいない」「取得することで出世に響いてしまう」「復職後の役職が下がりそう」等の回答が続くのは上記調査と同じ傾向である。

さらには、(株)インテージリサーチによる「平成25年度育児休業制度等に関する実態把握のための調査研究事業報告書(厚生労働省委託調査研究)」によれば、男性正社員に対し育児休業を取得できた理由を尋ねたところ、1位が「日頃から休暇を取りやすい環境だったから(22.0%)」、2位が「職場が育児休業制度を取得しやすい雰囲気だったから(17.6%)」となっており、男性の育休取得促進には職場環境等の要因がキーとなることが裏付けられている。

上記調査結果を概観すれば、育休給付金の増額に伴う男性の育休取得促進へのインセンティブ効果は限定的であり、むしろ、個人の仕事量や人員配置の問題、上司の無理解等職場環境に対する施策を打つ必要があるといえよう。

極言すれば、育休給付金の支給率が100%になったとしても、育休取得に際しての職場におけるデメリットが解消されなければ、男性の育休取得率は100%にはならないだろう。男性の育休取得者に対する職場の冷たい目線があるとすれば、育休中の収入源が確保されようがされまいが、育休取得そのものを躊躇してしまう。

■「育休取得」は、男女問わず一つの選択肢としてあるべきだ
松嶋菜々子さん主演のドラマ「営業部長吉良奈津子」で、育休から復帰した部長職である主人公が、元の職場ではなく弊職で復帰するシーンがあるという。これと同様の、さらにはもっとひどい仕打ちが待っているとすれば、男性の育休が促進されるはずはない。

奇しくも、先日の内閣改造で「働き方改革担当大臣」が設置され、国を挙げて長時間労働等の問題を是正する機運が高まっている。そもそも、「忙しくて有休もとれない」とか「定時退勤しようとすると同僚の目線が冷たい」等の状況があるとするならば、男性の育休取得以前の問題だ。男性の育休取得率向上を本気で推進するためには、現在の職場における様々な問題の是正・改善が必須となる。その覚悟はおありですか?ということだ。

また、先に施行された若者雇用促進法によれば、事業主の(努力)義務として、「育休取得対象者数・取得者数」を男女別に応募者へ提供することが求められている。採用戦略的に考えれば、男性における高い育休取得率を企業の採用活動に活用することも想定されよう。

「2.65%」という数字を見る限り、現在、男性の育休取得者は完全なマイノリティだ。意識が高く、業務に裁量があり、上司や同僚の理解も得られ、かつ職場復帰後も従来と同様のポストが確約されている。そんなごく少数の男性しか育休をとることができない状況、といっても過言ではないだろう。そうでなければ、たとえば妻の病気など切迫した状況下にある男性であろうか。いずれも、フツーのビジネスマンには高いハードルとなっているのは間違いないだろう。

そもそも育休を取得する、しないは、単純に善・悪の議論ではない。一義的に、それは夫婦の選択であるべきだ。夫が2人分必死で働き妻が育児に専念する、というのも、夫婦間で納得のうえ合意していれば、なんら悪いことではない。

問題なのは、選択肢が限られている(実質、男性の育休取得がきわめて困難である)現状だ。期間の長短は脇に置くとしても、労働者個人の選択肢として、男女を問わず「育休取得」は当然にあってしかるべきではないか。むろん、業務のスムーズな引き継ぎや上司同僚への感謝の念を忘れないことなどは前提である。

男性の育休取得率向上は、単なる福利厚生施策ではない。上述したように、職場風土の改善や働き方改革を伴うべきものであり、一方で戦略的な採用広報に活用できるツールでもあるのだ。そうした様々な課題や背景とセットで、丁寧に議論を進めることが、今求められている。

【参考記事】
■トヨタ自動車のリコール問題について、休日返上でディーラーに行ったら死ぬほどガッカリした件。 (後藤和也 産業カウンセラー/キャリアコンサルタント)
http://sharescafe.net/49117651-20160719.html
■サザエさんの視聴率が急降下した本当の理由とは。 (後藤和也 産業カウンセラー/キャリアコンサルタント)
http://sharescafe.net/49055679-20160711.html
■「圧迫面接」は御社の経営を「圧迫」します!(後藤和也 産業カウンセラー/キャリアコンサルタント)
http://sharescafe.net/48964354-20160629.html
■やっつけの社員研修が死ぬほど勿体ない理由。 (後藤和也 産業カウンセラー/キャリアコンサルタント)
http://sharescafe.net/48789835-20160607.html
■我々が就活生を応援すべき理由。 (後藤和也 産業カウンセラー/キャリアコンサルタント)
http://sharescafe.net/48765717-20160604.html

後藤和也 産業カウンセラー キャリアコンサルタント


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