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労働力不足が深刻化しはじめていて、非正規労働者の待遇が改善されつつあります。一方で、正社員の給料は、なかなか上がって来ません。景気も良く、企業収益も良いのに、なぜ給料は上がらないのでしょうか?何時になったら上がるのでしょうか?今回は、サラリーマンの賃上げについて考えてみましょう。

■非正規の待遇は労働力需給を映じて改善中
労働力不足が深刻化しつつあります。非正規労働者の待遇は、労働力需給を素直に映じて改善されつつあります。パートやアルバイトは、他社より高い時給を提示しないと人が集まらないので、労働力不足になると賃上げ競争が生じるからです。

毎月勤労統計によると、2015年の時給は1.5%程度、最近では前年比で2%程度上昇しているようです。これは大変望ましいことです。非正規労働者の待遇は、かつて主婦や学生の小遣い稼ぎであった時代の名残から、大変安く設定されています。

最近では、非正規労働で生計を立てる人が増えて来ていて、そうした人々が「ワーキング・プア」になってしまうので、待遇の改善が従来から待たれていたものです。また、正社員との「同一労働同一賃金」の観点からも、非正規労働者の待遇改善は望ましいと言えるでしょう。

しかし、せっかく景気が良いのですから、正社員の時給も上がって欲しいものです。こちらは昨年が0.3%、最近もボーナスが増えたおかげで1%近い上昇ですが、ボーナス以外はあまり増えていません。なぜ、正社員の給料は上がらないのでしょうか?

■会社は従業員の共同体か株主のものか
バブル頃まで、日本の大手企業は従業員の共同体であると思われていました。設立時に株主がお金を出してくれているので、御礼に心ばかりの配当をしていた、というわけです。

今でも、終身雇用制で、経営者の最重要任務は社員の雇用を守ることですから、本質は従業員の共同体だと言って良いでしょうが、バブル崩壊後に「グローバル・スタンダード」なる言葉が流行った事もあり、「会社が儲かったら社員の給料ではなく株主の配当に廻そう」という風潮になってきました。実際、最近では企業収益と賃上げ率が連動しなくなっているのです。

これまでは、「失業者が大勢いる中で、多少景気が良くなっても非正規労働者の待遇は悪いままなのだから、賃上げ要求など贅沢だ」ということだったのかも知れませんが、ここへ来て「非正規の待遇が上がっているのだから我々も」という期待が高まりつつあるわけです。

■釣った魚に餌はやらない
企業としては、非正規労働者には高い時給を提示しないと必要な労働力が確保できないので、仕方なく高い時給を提示しますが、正社員は賃上げをしなくても退職したりライバルに引き抜かれたりすることは考えにくいので、賃上げするインセンティブが乏しいのです。

問題は、日本企業が単なる終身雇用ではなく、年功序列賃金だということです。若い間は会社への貢献よりも給料が少なく、差額を会社に「貸してある」わけで、年齢を重ねると会社への貢献よりも給料が高くなり、会社への貸出を回収し、生涯を通じて損得無しになっているわけです。会社への貸しは、自発的に退職すると返済されませんから、転職に対する強い抑制力として働くのです。

したがって、企業が社員に「釣った魚には餌はやらない」と宣言すれば、賃上げしなくても社員が退職してしまうことは考えにくいのです。これは非正規社員との大きな違いです。

■いつ頃給料が上がるのか、判断する材料が無い
では、正社員の給料は、いつ頃上がるのでしょうか?それを考える際には、過去の例や海外の例を参考にするのが普通なのですが、今回は、何れも役に立たないのです。過去の例は、日本企業が従業員の共同体であった時代のものなので、「儲かったら直ちに賃上げをする」というものですが、これは環境が変わったので、使えません。

海外の例は、「終身雇用かつ年功序列」では無いので、「全社員が非正規雇用」というイメージでしょう。したがって、労働力需給の変化に対して比較的敏感に待遇が反応するのですが、これも日本の将来を予想する際には役立たないでしょう。

■若者の給料は上がり、ベテランも満足するかも
新卒の採用は、激しい学生争奪戦になっていますから、初任給を引上げて学生を確保しようという企業が見られ始めています。学生は近視眼的に初任給を重視しますから、生涯所得を上げず、初任給だけを上げれば充分なのです。こうした初任給の引上げ競争は、今後も激化して行くと思われます。

そうなると、若手社員と新入社員の差が無くなってしまうので、若手社員の給料は次第に上がって行くでしょう。しかし、ベテランの給料は上がって行く理由が見当たりませんから、なかなか上がっていかないと思われます。

労働力不足が中長期的にも続くと、非正規社員の待遇は大幅に改善され、若手正社員は給料が上がり、ベテランの給料は据え置かれることになり、格差が縮まって行くことになりそうです。正規と非正規の格差が縮まることは良いことと言えるでしょう。若手サラリーマンも、ある程度待遇は上がるので、不満は無いはずです。

では、ベテランが不満かと言うと、そうでも無いかも知れません。労働力不足ですから、定年後も再雇用される、あるいは定年後も仕事を探せば容易に見つかる、ということで、生涯所得は増加が見込まれるからです。




【参考記事】
■労働力不足でインフレの時代が来る (塚崎公義 大学教授)
http://sharescafe.net/49018387-20160708.html
■金融緩和で物価を上げるのは無理なのか? (塚崎公義 大学教授)
http://sharescafe.net/48919755-20160624.html
■アベノミクス景気は謎だらけ(塚崎公義 大学教授)
http://sharescafe.net/48918008-20160624.html
■ヘリコプター・マネーは毒でも薬でも無いが、偽薬効果に期待 (塚崎公義 大学教授)
http://sharescafe.net/49213698-20160805.html
■金融の超緩和が続くと思い込む事の二つのリスク(塚崎公義 大学教授)


塚崎公義 久留米大学商学部教授


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