![]() 関西テレビが、明石家さんまさん司会の長寿トーク番組『さんまのまんま』のレギュラー放送を9月で終了する、と発表したのは8月4日のことでした。 終了の理由として、関西テレビは「放送開始から30年を経過した区切り」と説明しました。しかし、さんまさん自身がラジオ番組の中で、制作費と出演料の折り合いがつかなかったことが理由だと“暴露”し、ちょっとした話題となっています。 今日は、数字を使ってできるだけ客観的に、この話題を掘り下げて考えてみます。 ■数字を見れば、テレビ局の苦境は明らか まずは、しっかりと事実を確認しましょう。関西テレビのホームページから、同社の過去3年間の売上高、売上原価、当期純利益の推移を見ると、以下のようになります。(単位:百万円) 売上高:65,255→64,960→64,179 売上原価:42,657→43,195→44,207 当期純利益:2,317→1,573→ 326 売上高は右肩下がりであるのに対し、売上原価は右肩上がりと、明確に傾向が表れています。また最終利益である当期純利益の減少は著しく、このままでは今年度(平成28年度)は赤字決算になる可能性もあります。 この数字は、見事にさんまさんの発言を裏付けています。純利益がわずか3億円にまで低下したテレビ局にとって、日本一のタレントのスケジュールを1年間押さえるコストは相当の負担でしょう。 本来、この状況を改善するには売上高の増加が必要です。しかし、実はテレビ局ほど売上高の増加が難しい業種はないのです。 ■テレビ局が抱える宿命的な“供給制約” 例えばメーカーなら、1つヒット商品が生まれればすぐに増産をかけて販売量を増やし、売上を上げられます。また市場は国内だけでなく海外市場でも販売することができます。これにより、理屈上は無限に売上を増やすことができます。 しかしテレビ局の場合は、高視聴率番組が生まれたとしてもそれを1日中放送するわけにはいきませんし、そもそもどんなに頑張っても1日24時間以上放送することはできません。また、日本語を話す出演者しか出ない番組を楽しめるのは日本語が分かる人だけですから、海外展開もできません。 売上高とは販売数×販売単価で計算されます。テレビ局における販売数には、上記のような避けがたい“供給制約”があるのです。近年は、CSなどの多チャンネル化やネット配信強化でこれを克服しようとする動きもあります。しかし、関西テレビで動画配信事業収入などを集計した「その他放送事業収入」は全売上高の10%程度で、事業の柱に成長するにはまだ時間がかかると見るのが妥当でしょう。 だとすれば、売上向上のために残された手段は販売単価の向上=広告枠の値上げですが、これはご存知の通り、景気低迷の影響で難しいという現状です。 このように、売上高の増加が難しいとなれば、企業が目指す方向は「減収増益」、すなわちコスト構造を見直して売上が落ちても利益を上げられる財務体質にすることです。今回の『さんまのまんま』終了劇は、テレビ局が本格的な財務リストラに着手した象徴的出来事として、後年語られる時が来るかもしれません。 ■『さんまのまんま』の最終回ゲストより大事なこと 今回の動きに絡めて、「明石家さんま引退説」もネット上を飛び交っています。しかし、ここまでの考察で分かったことは、さんまさんの意思に関係なく、テレビという活躍の舞台が急速に構造変化しているという現実です。「今回は関西のローカル局の話で、東京のキー局はもっと余裕があるのではないか」という意見もあるでしょうが、テレビ局が抱える基本構造はキー局もローカル局も同じです。仮に、さんまさんが芸人としての余力を残して華麗に引退したいと思っても、その前にテレビ業界がさんまさんの存在を支え切れなくなる事態はありえるのです。 『さんまのまんま』の最終回ゲストが誰になるかで盛り上がるのもいいでしょう。しかし、ファンが本当に考えるべきことは、さんまさんがテレビというホームグラウンドを不本意な形で失う可能性があるということです。たとえそうなった後でも、この稀代の才能をどう生かすか。僭越ながらさんまさんの周りにいるスタッフは、ひとつの危機管理として、そのことをシミュレーションしておくべきではないでしょうか。 【参考記事】 ■しまむら株が10年ぶりの高値をつけた本当の理由 (多田稔 中小企業診断士) http://sharescafe.net/48990151-20160702.html ■せたが屋買収に見る、吉野家の長期戦略 (多田稔 中小企業診断士) http://sharescafe.net/49065861-20160712.html ■船井電機は、本当はVHSをやめたくなかった? (多田稔 中小企業診断士) http://sharescafe.net/49109674-20160718.html ■「カネを貯めこむ」のも立派な財務戦略です。 (多田稔 中小企業診断士) http://sharescafe.net/49154554-20160724.html ■シン・ゴジラでビルを破壊された三菱地所のBCPを勝手に考える。 (多田稔 中小企業診断士) http://sharescafe.net/49222132-20160802.html 多田稔 中小企業診断士 多田稔中小企業診断士事務所代表 この執筆者の記事一覧 |

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