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8月14日、首都圏を中心にパソコン販売を手掛けるPCデポ(正式社名は株式会社ピーシーデポコーポレーション)の顧客が、SNS上に同社を告発する投稿を行いました。内容は、セットアップや修理などのサポートを提供する月額制サービスの解約時に、高額の解除料を請求された、というものです。

この問題は他のソーシャルメディアやマスコミにも取り上げられ、対象が高齢者だったこともあり、批判が相次ぎました。これを受けてPCデポは8月17日付でリリースを出し、顧客の使用状況にそぐわないサービスがあったことを認めた上で、無償での契約内容の見直しなど今後の対応について発表しました。

東証1部上場企業でもあるPCデポは、なぜ不適正な契約を行ったのでしょうか。今回はその理由を同社の財務面の分析から考えてみます。

■財務諸表の気になる数字の動き
同社の営業利益と当期純利益の過去3期分の推移は、以下の通りです。(単位:百万円)

営業利益:2,310→3,089→4,314
当期純利益:1,554→1,941→2,867

利益は順調に伸びており、一見PCデポの経営は好調であるように見えます。しかし、同社の損益計算書、貸借対照表を時系列で比べてみると、いくつか気になる動きが見て取れます。

まず損益計算書では、売上高は平成25年度に比べ平成27年度は3.8%低下しています。にもかかわらず利益が増加しているのは、売上原価を16.2%も低減することに成功したからです。

また貸借対照表では、流動負債の項目に特徴的な動きが見られます。短期借入金が平成25年度の9億円から、平成27年度は52億円へと急増しています。その一方、買掛金は半分以下に減少しています。

これらの数字の動きは、いったい何を意味しているのでしょうか?

■原価低減の“ストーリー”とは?
やはり注目すべきは、売上自体は減っている、ということでしょう。これは、主力事業であるパソコン販売が不況や競争激化、市場の成熟化などの要因で伸び悩んでいることが原因です。

たとえ売上が下がっても、経営者は利益を出さなければいけません。売上が伸びない中で利益を出すには、コストを下げるしかありません。PCデポのコストダウンの努力は、売上原価の16.2%低減に表れています。では、この大幅なコストダウンは、どのようにして実現したのでしょうか?

それを考えるヒントが、流動負債の動きに隠れています。買掛金が減っているということは、仕入先に対して早いサイクルで積極的に支払いをしているということです。その証拠に、仕入債務の支払サイクルを表す買掛金回転日数を計算すると、23.8日から8.8日へとこの2年間で3分の1近く短くなっています。

支払を早くすることで喜ぶのは仕入先だけですから、当然、PCデポ側も何らかのメリットを求めるはずです。それが仕入価格の低減要求だった可能性は高いと思います。「代金は早めに払いますから、少し安くしてくださいね」ということです。結果、同社は原価低減に成功し、利益向上を達成した、という流れです。

しかし、このストーリーを実現するためには、回転の速い支払サイクルに対応するため潤沢なキャッシュが必要になります。それを反映しているのが短期借入金の大幅な増加、そして今回問題となった月額制サポートサービスの強化です。

■月額制で稼ぐ“日銭”が事業の命脈だった?
PCデポの有価証券報告書を見ると、従来の主力事業であるパソコン販売事業と、サポートサービスを含むソリューションサービス事業の売上高の割合は、ほぼ半々となっています。今回の問題は、同社が「パソコン小売業」から「小売+サービス業」への転換を完成しつつあったタイミングで起こったと言えます。

将来性が乏しいパソコン小売事業をバックアップするため、月額制サービスが稼ぐ“日銭”は、PCデポの新しいビジネスモデルにとって必要不可欠、まさに事業の命脈だったのです。このキャッシュを生み出す仕組みを温存したいという経営側の思いが、一部適正さを欠く契約内容の放置につながったような気がしてなりません。

今回のことで、PCデポの経営環境は一時的に悪化が避けられないでしょう。しかし、高齢化社会が進むにつれ、個人にITサポートサービスを提供する必要性は高まるはずです。PCデポが、自身のリリースで述べているように、「お客様の安心・安全のためのサポート強化を第一に邁進する」企業として発展することを望みます。

【参考記事】
■しまむら株が10年ぶりの高値をつけた本当の理由 (多田稔 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/48990151-20160702.html
■船井電機は、本当はVHSをやめたくなかった? (多田稔 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/49109674-20160718.html
■シン・ゴジラでビルを破壊された三菱地所のBCPを勝手に考える。 (多田稔 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/49222132-20160802.html
■『さんまのまんま』終了で考える、テレビ局の苦境と明石家さんまのこれから。 (多田稔 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/49277606-20160810.html
■幻の“SMAP子会社化”スキームを今さらながら考える。 (多田稔 中小企業診断士)
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多田稔 中小企業診断士 多田稔中小企業診断士事務所代表


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