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8月30日付の日経新聞に、「有機ELシャープ秋波 戴社長『日の丸連合で』 Jディスプレイは技術の流出を警戒」という記事が掲載されました。

内容は、シャープの戴正呉社長が、次世代ディスプレイの本命といわれる有機ELパネルの開発・量産を、「日の丸連合」で行うべきとの考えを示した、というものです。具体的には、液晶大手で東芝・ソニー・日立のディスプレイ部門が統合してできたジャパンディスプレイ(以下JDI)との協業を念頭に置いているようです。

記事によれば、有機ELの開発で先行しているのは韓国勢で、サムスン電子はすでに年3億台分の量産体制を築いたそうです。これに対し、日本勢はシャープとJDIがそれぞれ量産化を目指していましたが、ここに来て技術開発や、2,000億円ともいわれる巨額投資の難しさに直面しています。そこで、負担とリスクを分散する意味から「日の丸連合」というアイデアが出てきたというわけです。

しかし、これも記事によると、JDI側はシャープの親会社である鴻海が自国の台湾でパネルメーカーを傘下に持つことから、技術流出を懸念しているようです。よってこの協業プランが実現するかどうかはまだ不透明です。

JDIは、日本メーカーが液晶パネル事業で韓国勢の軍門に降った結果誕生した会社と見ることもできます。次世代有機ELパネル事業でそのリベンジを果たすにはどうすれば良いのでしょうか。今回はそれを検証してみます。

■サムスンとJDIは“大人と子供”
まずは、彼我の差を確認するために、サムスン電子とJDIの財務諸表から両社の企業規模を比較してみましょう。なお、数字は2016年度第1四半期のもので、サムスンは1ドル=100円で邦貨換算しています。

売上高
サムスン:4兆1,421億円
JDI:1,743億円

総資産
サムスン:20兆722億円
JDI:8,833億円

純資産
サムスン:14兆8,375億円
JDI:3,488億円

差は歴然、財務力だけを比べれば、サムスンとJDIはまるで大人と子供です。有機ELパネルの開発と量産に2,000億円かかるのだとすれば、純資産が3,400億円強しかないJDIにとってそれがいかに過大な投資になるか、容易に想像がつくでしょう。

■JDIはどこからカネを引っ張れるか?
記事には、JDIが、筆頭株主である官民ファンドの産業革新機構に支援を要請したとあります。しかし、出資総額の大半を財政投融資という公金でまかなっている上に、前年度決算で470億円余りの最終赤字を出した革新機構に大規模な金融支援を期待するのは難しいでしょう。

かといって、旧親会社の東芝・ソニー・日立の支援は望むべくもありません。各社は、規模の経済がモノをいう液晶ビジネスでは韓国勢に勝てないと思ったからこそ、パネル事業を切り離したのですから。また、銀行融資を検討するといっても、JDIの流動比率は76.8%と資金繰りが悪化しており、有機ELの事業性に確信が持てない状態では銀行もおいそれと金は貸せないと思います。

そう考えていくと、JDIが自力で設備投資して量産体制を作るのは、思いのほか難しいということが分かってきます。

■選択肢は限られている
それならば、量産化はあきらめ、技術開発だけに邁進して最先端技術を囲い込み、ライセンス料で稼ぐという戦略もありえます。しかし、ディスプレイという基本的には汎用技術の分野において、決定的な製品差別化につながる技術を独占するなどということが、果たしてできるのでしょうか?

また、最初は小規模な投資で様子を見て、有機ELパネルの市場性が確認できた段階で徐々に投資を増やす、ということも考えられます。しかし、これだと市場性が確認できた頃にはサムスンとLGが圧倒的な供給力でシェアを押さえていた、という液晶パネルで味わった「負けパターン」を繰り返すおそれがあります。

ここまで考えてみて、私はJDIには2つの選択肢しか残されていないと考えます。シャープだろうが鴻海だろうが、協業できるところとは協業して量産化を目指すか、有機ELのような先端技術はすっぱりとあきらめ、古い技術でも事業が回るように会社をダウンサイズするかです。

少なくとも、「技術流出が怖い」などとカッコいいことを言っている余裕はないと、私は思います。

【参考記事】
■船井電機は、本当はVHSをやめたくなかった? (多田稔 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/49109674-20160718.html
■シン・ゴジラでビルを破壊された三菱地所のBCPを勝手に考える。 (多田稔 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/49222132-20160802.html
■『さんまのまんま』終了で考える、テレビ局の苦境と明石家さんまのこれから。 (多田稔 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/49277606-20160810.html
■幻の“SMAP子会社化”スキームを今さらながら考える。 (多田稔 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/49326386-20160817.html
■PCデポ高額請求問題の背景を財務面から読み解く。(多田稔 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/49372274-20160823.html

多田稔 中小企業診断士 多田稔中小企業診断士事務所代表


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