メダル2
「いつもより重い気がする」

リオデジャネイロ五輪レスリング女子58kg級に優勝し金メダルを獲得した伊調馨選手は、メダルをかけた感想を訊かれ、そうコメントしました。

■重量化する五輪メダル
女性として世界で初めて五輪競技を四連覇する偉業を成し遂げた、その金メダルですから、特別な思いが詰まった「いつもより重い」ものであるのは当然です。ただ、今回の五輪では、伊調選手に限らずメダルを獲得した多くの選手が口々に、メダルが重い、重いと言っています。これはやはり物理的な重量そのものについてそう言っているということなのでしょう。

伊調選手が初めて五輪で優勝したのは2004年アテネ大会です。そのとき獲得した金メダルの重さは135gでした。以降、北京200g、ロンドン412gと、伊調選手が優勝を重ねるたびにメダルは重く大きくなり、今回のリオデジャネイロ五輪で夏季五輪としては初めて500gの大台に到達しました。この12年間で4倍近く重くなったわけです。

500gと言えば、500mlペットボトルほどの重さです。例えば、金、銀、銅をコンプリートした萩野公介選手の場合では、首から下げた3つのメダルの総重量は水が一杯に詰まった1.5Lペットボトルに匹敵します。これはかなり重たそうです。

■五輪メダル120年の軌跡
良く知られているように、史上初めて開催された五輪は1896年のアテネ大会です。この五輪ではまだ金メダルがなく、一位が銀、二位が銅で、三位以下にメダルはありませんでした。重さは47gで、リオデジャネイロ五輪と比べると1/10に満たない軽さ、直径も現在の約半分程度でした。それが120年かけて直径85mm、重量500gまで大きくなったのですが、その成長分のほとんどは実は比較的最近のものなのです。
メダルの重さグラフ
グラフは青線が120年間、28大会分の夏季五輪のメダル重量の推移を示しています。各大会のメダルの重さはWikipediaを参考にしました。2000年代以前は全体として緩やかな増加傾向が見てとれますが、1900年代初頭には夏季大会のメダルが20g台だった時期もありました。この時期の金メダルは現在のように銀にメッキをしたものではなく高価な金そのものだったため、どうしても小さなサイズにならざるを得なかったのでしょう。

120年間のメダル重量の増加率を年率換算するとおよそ2%です。当初から10倍以上も重くなったとは言え、年率に換算するとその程度なのです。少し前までの、マイナス金利が導入される以前の住宅ローン金利と同じくらいでしょうか。

2%はまた、現在の黒田日銀が安定化の目標としている物価上昇率と同じです。つまり、日銀の狙い通り物価上昇率が2%で安定した場合、120年もすると物価が10倍超になるということになります。四半世紀もデフレ経済のもとでの生活に慣れてしまうと、120年という長期ではあっても、物価が10倍を超す状況は想像し難いものがあります。

■先行指標は「冬季五輪」
2004年アテネ五輪以降、急激に重量化してきた夏季五輪のメダルですが、まだしばらくはこのペースで重くなるかと言えば、恐らくそうはならないでしょう。今後は当分の間、500g前後のレンジで推移するのではないかと想定しています。上述の通り、500gというのは既に相当な重さなのです。

これに関しては、先行して500g超えを達成していた冬季五輪の最近の傾向を参考にすべきでしょう。冬季五輪では、2002年開催の米ソルトレイクシティ五輪で史上初めて500gを上回る567gのメダルが生まれました。その四年前に開催された長野五輪では261gでしたので、一度に二倍超までも重くなったわけです。続くトリノ五輪でやや揺り戻しがあったものの、その後はバンクーバー、ソチと、500g台で推移しました。夏季五輪についてもこれと同様の傾向を示すことになるだろうと予想しています。

先ほどの図では橙線で冬季五輪のメダル重量の推移を示していますが、全体的な傾向として、冬季五輪が夏季五輪に対する先行指標であるように見えます。冬季五輪のメダルが夏季五輪に先行して重量化したという見立てが正しいとすると、そうなった最大の理由はおそらく、冬季五輪で授与されるメダル総数が夏季五輪より遥かに少なく、重量化に要する追加的な費用が小さかった点でしょう。過去28回の夏季五輪での平均授与メダル数560個(リオデジャネイロ五輪では974個)に対し、過去22回の冬季五輪での平均授与メダル数は、130個と断然少ないのです。

先行指標である冬季五輪のメダル重量の推移を参考に2020年東京五輪での金メダルの重さを筆者なりに予想すると、トリノ五輪と同じパターンで一時的な揺り戻しによってやや軽量化し、450g程度になるのではないかと見ています。

伊調選手が東京五輪で五連覇を達成したなら、きっとこうコメントしてくれるはず。

「いつもより軽い気がする」

【参考記事】
■報道の自由度ランキングは、どう偏っているのか。 (本田康博 証券アナリスト)
http://sharescafe.net/48670336-20160524.html
■日本がギリシャより労働生産性が低いのは、当たり前。 (本田康博 証券アナリスト)
http://sharescafe.net/47352836-20151229.html
■日本が先進国で最下級だという「幸福度」ランクについて、みんなが勘違いしていること。 (本田康博 証券アナリスト)
http://sharescafe.net/48183188-20160325.html
■映画『マネー・ショート』を見ていて混乱するのは、「空売り」を予習したせいだ。 (本田康博 証券アナリスト)
http://sharescafe.net/48046767-20160310.html
■日銀のマイナス金利政策は、大成功だが、大失敗だ。 (本田康博 証券アナリスト)
http://sharescafe.net/48977254-20160701.html

本田康博 証券アナリスト・馬主


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