74398515


80年代後半のバブルで不動産担保融資を著増させた銀行は、バブル崩壊後に巨額の損失を被りました。しかし昨今、ふたたび不動産向け融資を著増させていて、不動産業向け設備資金新規貸出額も不動産業向け貸出残高もバブル期を上回っています。あれほど高い授業料を支払ったのに、何も学ばなかったのでしょうか?今回は、銀行の不動産貸出について考えてみましょう。

不動産貸出

■上がれば借り手の勝ち、下がれば銀行の損

今がバブルか否か、見極めるのは困難です。都心部の不動産については、バブルであると感じている人も少なくないようですが、一方で「諸外国の不動産と比べれば東京の不動産は安すぎるから、まだ値上がりするに違いない」と言われれば、そんな気もしてきます。

そうした時に、借金をして不動産を買うこと自体は、特に問題ではありません。株式会社を設立して会社名義で借金をするならば、更に良いでしょう。もしも今がバブルで無いならば、このまま不動産価格が上昇し、莫大な利益が得られるかも知れません。

もしも今がバブルであって、バブル崩壊によって不動産価格が下落したら、借金が返せなくなりますが、株式会社の株主は「有限責任」ですから、返せない部分は踏み倒しましょう。儲かる可能性は無限大ですが、損失は最大でも出資額までなのです。損を被るのは銀行です。つまり、これは「上がれば自分の儲け、下がれば銀行の損」という賭けなのです。

同じ事を銀行側から見てみましょう。不動産価格が上昇を続けても、得られるのは金利収入だけですが、不動産価格が下がれば貸出元本を丸ごと損する可能性さえあるのです。「上がれば客の儲け、下がれば自分の損」という賭けなのです。

そんな不利な賭けを、なぜ銀行は熱心に行うのでしょうか?いくつかの可能性が考えられます。

■バブル期の失敗に学んでいない?
銀行員は定年が早い(50歳代前半で子会社などに出向する人が多い)ので、バブル崩壊後の不良債権地獄を知らない行員が多いでしょう。百聞は一見に如かずですから、経験していない行員にとっては、バブル期の失敗は歴史であって、「身に染みて解っている」わけではない筈です。

そんな時に、「預金が集って仕方ない。日銀に預ければマイナス金利になるし、国債を買ってもマイナス利回りだ。貸出を増やしたいが、顧客に資金需要が無い」となれば、「不動産融資に注力しよう」となっても不思議はありません。

かつて、「バブルが30年ごとに繰り返すのは、痛い目に遭った人が引退するからだ」と言われた事があります。今回も、そうした事かも知れません。

もしかすると、個々人の問題ではなく、組織の問題として、銀行の人事評価システムがバブル前から改善していないのかも知れません。そうだとすると、バブルの頃から銀行にいた人々も、バブルに踊るインセンティブを持ちかねません。

「バブル期に貸出を増やした担当者は出世し、バブル崩壊後に貸出が焦げ付いた時の担当者が左遷された」という人間模様を目の当たりにした人々が、今でも融資部門の責任者で残っているとすれば、彼にとっても「バブルに踊ってみる」インセンティブがあり得るわけです。

銀行が組織としてバブルに学んだのだとすれば、そうした人事評価システムが変更されている筈なのですが、もしかすると、そうではないのかも知れません。

バブル期と異なり今回は、「マイナス金利を逃れるため」という切羽詰まった事情があるので、同情の余地があるにはありますが、だからと言ってリスクとリターンの関係から融資すべきで無い案件は、やはり手を出すべきではないでしょう。バブルに学んでいないのだとすれば、問題です。

もっとも、筆者は元銀行員ですから、銀行が愚かだとは思いたくありません。最近の銀行の内部事情を知らないので、何とも言えませんが、「銀行はバブルの経験に学んでいて、それでも不動産融資を増やすべき理由があるのだ」と信じたいです(笑)。たとえば後述のような理由があるのかも知れません。

■バックミラーを見て運転している?
バブルの時には、不動産融資が焦げ付く事はありませんから、最近のデータからは不動産融資の危険性は見えて来ません。そこで、「過去3年間のデータを分析したところ、不動産融資は安全だという結論に達したから、安心して貸出を伸ばそう」という決定がなされかねません。これは危険な事ですが、実際には幅広く行われている可能性があります。

本当にそんな事があるのか?と疑いたくなりますが、たとえばリーマン・ショック前の住宅バブル時に米銀がサブプライム・ローン(信用力の低い借り手に対する貸出)を積極的に行ったのは、そうした経緯だったと言われているのです。

一般に、賢い人ほど、あるいは背伸びをして自分を賢く見せたいと思っている人ほど、「客観的なデータに基づかない議論はダメだ」と言いたがります。しかし、データを頼るという事はバックミラーを見ながら運転するのと同じことです。それも重要ですが、長年の経験と勘も同様に重要なのです。

■安売り合戦の一環?
製造業の場合には、設備投資を終えた後で不況になった場合、「材料費より少しでも高く売れるなら、生産した方がマシだ」と考えて、赤字操業を続ける場合があります。工場建設資金を一部分でも回収したいからです。しかし、各社とも同じことを考えて生産を続けると、安売り競争になってしまいます。

皆で相談して安売り競争をやめれば全社が儲かるのに、相談すると違法なカルテルだと言われてしまうので、相談出来ないのです。「自社が安売りをしてライバルが手を引いてくれる」ならば客が独占出来て良いのですが、ライバルも「材料費より少しでも高く売れるなら生産を続けるべき」と考えていますから、撤退するはずはありません。そこで、全社が安売り合戦を続けざるを得ないのです。
銀行の場合も同様です。銀行業界は、預金が集まる一方で資金需要が少ないため(赤字企業は借りに来るが、黒字企業は借りに来ない)、黒字の借り手を奪い合う競争が激化しています。そうした中で、安売り競争(貸出金利引き下げ競争)が起きており、明らかに採算割れの貸出案件であっても、「固定費を一部分でも回収できるならば、貸した方が得だ」という判断を各行が行なっている可能性が考えられます。

銀行の場合には、金利を下げる競争のほかに、「リスクがあるので、高い金利を要求すべき借り手に、通常の金利で融資をする」のも安売り合戦の一環です。「バブルか否かは不明だが、最悪でも元本の大部分は回収できそうだから、多少のリスクには目をつぶって」、という事ならば、充分にありえるでしょう。

■座して死を待つよりはマシ???
経営の苦しい銀行にとっては、「このままではジリ貧で、遠からず倒産するだろう。それならば、一か八かリスクをとって勝負をしてみよう」といったインセンティブが働く可能性もあります。

銀行の役員、職員にとっては、このまま何もしなければ、銀行が倒産して仕事を失いますが、銀行が立ち直れば仕事が確保できます。リスクのある貸出を行なって、結果として貸出が回収できて銀行が立ち直れば、大成功です。

一方で、リスクのある貸出が回収できなかったとしても、株主が損するだけです。自分たちは、どうせ仕事を失うのですから、追加的な損はありません。「不動産価格が上がれば自分たちの得、下がれば株主の損」というわけです。

これは、経済学者の好きな議論であって、実際にはこうした意思決定をする銀行が多いとは思われませんが、理論的にはあり得るかも知れませんね。

■バブルを止める役割を銀行に期待しているのだが・・・
バブルか否か不明なとき、政府や日銀がバブルを潰す事は困難です。バブルの時には人々がハッピーなので、バブルを潰そうとするには、現状がバブルであることを証明しなければならないからです。

投資家にとっても、「もしもバブルでなかったら大儲けできるかも知れない」というインセンティブがあるので、バブルを助長する可能性は充分にあるでしょう。

しかし、銀行ならば、「バブルか否か不明な時は融資をしない」と決めれば良いのです。そうなれば、バブルは拡大しないでしょう。そうなのです。バブルを止める役割を銀行は期待されているのです。

しかし、銀行は過去に学んでいるのか否かは不明ながら、今回も、バブルかも知れない時に銀行が積極的に融資をしています。そうなると、バブルが拡大してしまう可能性があります。困ったものです。

【参考記事】
■国債暴落シミュレーション:日銀の債務超過(塚崎公義 大学教授)
http://ameblo.jp/kimiyoshi-tsukasaki/entry-12199547792.html
■銀行という職場の体験記(5)銀行員というもの (塚崎公義 大学教授)
http://ameblo.jp/kimiyoshi-tsukasaki/entry-12149822107.html
■少子高齢化による労働力不足で日本経済は黄金時代へ(塚崎公義 大学教授)
http://sharescafe.net/49220219-20160809.html
■労働力不足でインフレの時代が来る (塚崎公義 大学教授)
http://sharescafe.net/49018387-20160708.html
■金融緩和で物価を上げるのは無理なのか? (塚崎公義 大学教授)
http://sharescafe.net/48919755-20160624.html

塚崎公義 久留米大学商学部教授



この執筆者の記事一覧
このエントリーをはてなブックマークに追加


関連コンテンツ
シェアーズカフェからのお知らせ
シェアーズカフェでは住宅・保険・投資・家計管理など、個人のお金に関するレッスン・相談・アドバイスを提供しています。SCOL編集長でFPの中嶋が直接指導します。
シェアーズカフェ・オンライン編集長の中嶋が士業・企業・専門家向けの執筆指導・ウェブコンサルティングを提供します。




執筆者プロフィール