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9月20日付の日本経済新聞朝刊に、総合商社の伊藤忠商事が中国で病院経営に参入する、という記事が掲載されました。

「伊藤忠商事は中国で病院経営に参入する。資本提携している中国最大の国有複合企業、中国中信集団(CITIC)グループと合弁会社を設立する。(中略)同国では経済成長に伴う所得増加で高度医療の需要が増しているが、治療拠点が不足している。日本の医療ノウハウを提供して成長市場を開拓する。」(『伊藤忠、中国で病院経営』日本経済新聞 2016/09/20)


中国が成長市場と言われて久しいですが、これまでは自動車や日用品といったモノ消費が中心でした。今後は、記事のような医療など、サービス消費が伸びてくるとは言われていますが、まだ事業環境が不透明だという声もあります。そんな中、伊藤忠は中国の医療をめぐる環境にどのようなビジネスチャンスを見出したのでしょうか?

■病院ビジネスのネックとは?
それを探る前に、病院ビジネスの特徴を考えてみましょう。日本で病院を経営する時に最大のネックになるのは資金繰りです。なぜなら、売上にあたる医療費は7~9割が各種健康保険から支払われますので、請求時からどんなに早くても1か月半、遅い場合は3か月近くかかってようやく現金が入ってくるからです。

したがって、病院経営者には常に「医療サービスを施したら、できるだけ早く現金を手にしたい」という欲求が存在します。多くの病院が長期入院を嫌がる理由のひとつはこれです。1カ月の長期入院患者1人に月1回請求するより、1週間の短期入院患者4人に月4回請求した方が現金化のサイクルは早まります。

■日中の医療保険制度の違い
しかし、現実はなかなか病院の思惑通りにはいきません。それは医療費に占める患者の自己負担率が低いからです。お金がかからないなら、できるだけ長く医療サービスを受けていたいと思うのは当然で、ここで病院と患者の利害が衝突します。

同じ観点で中国の医療保険制度を見ると、日本との違いが分かります。富士通総研経済研究所上級研究員・江藤宗彦氏の論文『成長する中国の医療市場と医療改革の現状』(2011年)によると、2008年段階で中国の医療支出総額に占める患者自己負担分の割合は52%で、日本の14%よりかなり高くなっています。これはありていに言えば、自己負担ができる富裕層しか病院に行けないということで、社会的には問題でしょう。

■「高単価」×「高回転」が可能な医療ビジネス環境
しかし裏を返せば、病院ビジネスを行う環境としては理想的とも言えます。売上の半分は患者がすぐに現金で払ってくれますし、自己負担率が高いということは、患者に入院期間を短くしようとするインセンティブが働きます。その一方、売上のもう半分は保険等でカバーされていますので、大きく取りっぱぐれる心配も少ないです。

つまり、保険制度のメリットをそれなりに享受しながら、日本では難しい高回転のキャッシュフローを狙うことができます。さらに、富裕層にこれまでにない高度医療を提供すれば、医療費単価も高く取ることができます。商売の基本である「高単価」×「高回転」のビジネスモデルが実現可能な環境は、患者有利な保険制度に縛られる日本に比べれば別世界と言っていいほど有望です。

もちろん、現実のオペレーションではいろいろな問題も起こるでしょうから、そんなに甘いものではないかもしれません。しかし、もともと中国ビジネスに強い伊藤忠は、上述のような“勝ちパターン”が見えたからこそ、中国での病院経営に乗り出そうとしているのではないでしょうか。

【参考記事】
■シン・ゴジラでビルを破壊された三菱地所のBCPを勝手に考える。 (多田稔 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/49222132-20160802.html
■『さんまのまんま』終了で考える、テレビ局の苦境と明石家さんまのこれから。 (多田稔 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/49277606-20160810.html
■幻の“SMAP子会社化”スキームを今さらながら考える。 (多田稔 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/49326386-20160817.html
■PCデポ高額請求問題の背景を財務面から読み解く。(多田稔 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/49372274-20160823.html
■有機ELをめぐる戦い、ジャパンディスプレイに「技術流出」を心配する余裕はあるのか? (多田稔 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/49425094-20160830.html

多田稔 中小企業診断士 多田稔中小企業診断士事務所代表


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