ichiryu

最近、ビジネス書籍のタイトルや、ビジネス系Webサイトの記事で「一流」という言葉をよくみかけるように思います。以前は、「成功する」、「できる」、「○○力」などの言葉が主流だった印象がありますが、どうでしょうか?

■実際に「一流」という言葉は増えているのか?
そこで、紀伊国屋書店のWebサイトの「ビジネス」カテゴリの書籍の書名で、「一流」、「成功」、「できる」、「力」が、どのぐらい使われているか調べてみました。

   201308以前  201309-201408  201409-201508 201509-201608
一流    202       30        51        71
成功   2,659      129        116       114
できる  1,820      108        119        92
力    3,389      229        211       223

「一流」は、使われている数としては最も少ないですが、直近3年間、使用数は毎年増加しており、ほぼ横ばいの「成功」、「できる」、「力」とは対照的です。

また2013年8月以前で「一流」が使われた数は、「成功」、「できる」、「力」と比較して遥かに少なく、「一流」という言葉は、少なくとも書籍においては比較的最近、使われ始めた言葉であるといえるでしょう。

■「一流」は状態を定義できない
一流という言葉は、不思議な言葉です。「成功」、「できる」、「力」といった言葉は、程度の大小であるでしょうが、自分でも、他人でも、状態を認識し、評価することができます。「起業に成功した」、「交渉ができるようになった」、「プレゼンテーション力がついた」といった言葉の使い方に特に違和感は感じることはないでしょう。

ところが「一流」については、「一流の起業家」、「一流の交渉術」、「一流のプレゼンテーション力」のような言葉の使い方はできても、自分への評価として「一流になった」と言えるかというと、どのような判断基準で、自分が「一流」になったかを説明するのは、困難でしょう。他人が評価するにしても、わざわざ「君のプレゼンテーションは一流だね。」というような表現をすることは、あまりなさそうです。

一方で、「一流」という言葉は、「成功」、「できる」、「力」といった言葉より、遥かに上位にあるイメージがあります。例えば「大企業」というより、「一流企業」といった方が、よいイメージを感じるように、「成功した人」、「できる人」、「力のある人」というよりも、「一流の人」という方が、格上と感じられます。

つまり、どうしたら「一流」になれるのか、何をもって「一流」と評価するかが、定義できない、にも関わらず、非常に格が高いイメージを感じさせる、それが「一流」ということばなのでしょう。

■マズローの欲求五段階説をもとに考えると?
では、なぜ「一流」という言葉を最近、よくみかけるようになったのでしょうか?

ここでは「マズローの欲求五段階説」をもとに考えてみたいと思います。

「マズローの欲求五段階説」では、人間の欲求は五段階に分かれており、低階層の欲求が満たされると、より高階層の欲求に向かっていくとされています。その段階は、低い順に、

・生理的欲求・・・・・生命を維持するための食事・睡眠・排泄などの欲求
・安全の欲求・・・・・衣食住に不自由のない安定した生活への欲求
・社会的欲求・・・・・集団に属し、役割を与えられるなど社会に帰属したいという欲求
・承認の欲求・・・・・所属する集団から価値のある存在と認めれたい、尊敬されたいという欲求
・自己実現の欲求・・・自分の可能性を最大限に実現したいという欲求

となっています。

「成功」、「できる」、「力」といった言葉が、ビジネスにおいて、「承認の欲求」を満たすための手段や結果であることは容易に想像できます。何かを「できる」ようになったり、「力」をつけ、「成功」すると、企業であれば、昇進や昇給につながります。すなわち、「承認の欲求」が満たされることになります。

とすれば、「一流」は、「承認の欲求」を満たした人が「自己実現の欲求」の段階に入り、自分の可能性を最大限に実現しようとする姿をみた周囲が、自然に、その人を「一流」をみなすという状態がしっくりきそうです。

■まとめ
以上のように考えると、「一流」という言葉がビジネス書のタイトルやWeb記事で使われるようになった背景として、ビジネスにおいて「承認の欲求」を実現し、一つ上の欲求である「自己実現の欲求」を満たすことを目指す人が増えたからではないかという仮説を立てることができます。一方で、果たして「自己実現の欲求」の段階にある人が、「一流」について書かれた書籍やWeb記事を求めているかという疑問も残ります。

なぜなら自己の可能性の実現を追及している「自己実現の欲求」の段階にある人であれば、自分が「一流」と見られるかどうかについて、あまり関心があるとは思えないからです。

派遣社員や、フリーターといった働き方が一般化した現在では、昇進や昇給といったビジネスにおける「承認の欲求」を満たす機会を得られない人も相当数いると考えられます。

もしかすると、「一流」という言葉は、「承認の欲求」が満たされない労働環境において、せめて「一流」のようなふるまいをしたい人をターゲットにして使われているのかもしれません。

《参考記事》
■新入社員のうちに覚えておきたい!仮説思考の重要性と重病性(村山聡 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/44386900-20150421.html
■企業任せでは済まされない?女性活用が進まない理由をデータで考える(村山聡 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/43516534-20150224.html
■あなたの会社にもいるかもしれない?ビジネスメソッドマニアに気をつけろ!(村山聡 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/40838018-20140914.html
■平均値をウソつき呼ばわりするのは、もうそろそろ終わりにしよう。(村山聡 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/39363307-20140614.html
■「飲み会は残業代出ますか?」と聞く前に新入社員が心得ておくべきこと(村山聡 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/38576145-20140430.ht

村山聡 中小企業診断士

この執筆者の記事一覧

このエントリーをはてなブックマークに追加


シェアーズカフェ・オンラインからのお知らせ
シェアーズカフェ・オンラインは2014年から国内最大のポータルサイト・Yahoo!ニュースに掲載記事を配信しています
シェアーズカフェ・オンラインは士業・専門家の書き手を募集しています。
シェアーズカフェ・オンラインは士業・専門家向けに執筆指導を行っています。
シェアーズカフェ・オンラインを運営するシェアーズカフェは住宅・保険・投資・家計管理・年金など、個人向けの相談・レッスンを提供しています。編集長で「保険を売らないFP」の中嶋が対応します。