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■投資行動が進まないわけ
税の優遇だけでは、投資行動は促されないのではないか。そう考えるのは、個人型の確定拠出年金(DC)の加入者がいまだに少ないからです。もちろん、DC制度導入後15年たっても単に認知度が低いということもあるし、運用のリスクを考えたり、あるいは面倒で内容がわからないものには近づきたがらないという人間の本性があります。

そこで改めてDCのメリットをみると、掛金については所得控除、運用益は非課税、受給時にも所得控除と3つステップで税制優遇があります。この優遇される金額は、運営管理機関(金融機関)のWEBサイトなどで年収別に簡単に試算できるものがあります。例えば、個人型DCで限度額の年額276,000円を掛金とすると、55,200円(税率20%として計算)が年末調整で還付されます。ほかに運用益の非課税分で得する額が年率3%運用だと40年で100万円以上とか、30年加入で受給額1,500万円なら退職所得控除により課税されないとか簡単にわかります(個別の金額は省きます)。

■個人型DCの加入率はまだ低い
これだけの税優遇の恩恵があるのに、驚くことに、個人型DCの加入者数は会社員など第2号被保険者では20万人弱、自営業者等の第1号被保険者と合計しても約27万人しかいません。これに対して企業型の加入者数は約579万人です(以上、平成28年6月末現在)。厚生年金加入者約3,599万人(平成27年3月末現在)のうち、企業型DC、確定給付型年金(DB)、厚生年金基金加入者を除くと、個人型DCの加入資格があるのに加入していない人は厚生年金加入者数の半数ほどいるのです。これら多くの人は、制度としての企業年金ではなく、会社独自の退職金に頼っている人たちか、会社に退職金すらない人たちです。

■自分で退職年金をつくるために
では、個人型DCの加入率が低いことがなぜ問題なのか(断っておくと、筆者は加入者を増やすことで報酬を受ける立場のものではない)。それは会社の企業年金や退職金制度から洩れた転職者や非正規社員にとって個人型DCが自分の退職金制度になるのに、みすみす使われていないからです。この人たちは転職などで退職年金の積立が通算されずに途切れてしまい、受け取れる退職年金の額が不利になってしまうのです。

しかし、平成29年1月から始まる改正法では、それまで積み立ててきた年金原資を他の会社のDBに持ち運ぶことができるようになりました(ほかに第3号被保険者、公務員もDCの加入資格者となる)。これは個人型DCからDBのある会社への転職、その後にDBからDCへの転職も可能であるということです。企業年金では、会社が掛金を出してくれるので個人の拠出とは負担が全く異なります。DCの大きなメリットは、人によっては税の優遇よりもむしろ、この年金の持運び(ポータビリティ)にあるとも言えます。

■税の優遇だけでは行動しない?
最初に戻って、税制優遇を前面に出しても、投資行動となる個人型DCへの加入にあまり影響がない(少なくともこれまでは影響なかった)のはなぜでしょうか。ここで言いたいのは、これら税の優遇が必要ではないとか重要でないと言っているのではありません。むしろ逆で、それは必須で重要な要素です。問題は、これだけの優遇があるのに投資行動に結び付いていないのは、この制度において行動を起こすための誘因が何か欠けているのではないか、と思うわけです。

人は、目の前に個別的かつ現実的に存在しない金額を「お金」として認識しづらいものです。個人型DCの税制優遇についてみると、これらは実質的に可処分所得の増加となるものなのに、いずれも現実的に意識化されづらいのです。30年、40年積み重ねた上での節税と言われてもピンときません。まして、それは何%かの運用で利益が出ればの話です。退職時に1千数百万円が非課税と言われても、もとはと言えば自腹から出る掛金です。低運用となれば、自分で出したお金と同じくらいの金額を、後で自分がもらうのに税金がかかるのかと思うでしょう。

また、年末調整の還付などで可処分所得が増加となっても、貯蓄あるいは投資にはほとんど影響がない所得者層もあるということです。一般に所得が増加し、消費が減少すれば貯蓄額が増えることになります。しかし、これが当てはまらないのが低所得者層(一部の中所得者層も)です。現在の生活が困窮していれば、多少収入が増えても、その増加分はそのまま消費に回り、貯蓄に変動はありません。いくら税金が安くなるからといっても、DCの掛金そのものを積み立てることが困難な所得者層の人にとっては、最初から税の優遇は縁がない話なのです。

■加入のインセンティブが起きるためには
金融機関(運営管理機関)のDCのサイトを見ると、当然ながらどこも税制優遇のメリットを掲げています。そのうえで運営管理機関の選択の決め手として手数料の安さと金融商品の品揃えを訴求しています。しかし、個人の立場で初めてDCに加入しようかと思い立った人は、サイトを見たとたん、閉じてしまいたくなるでしょう。税制優遇、金融商品一覧、運用報告書へのリンク、加入手続き、など。知識の森に迷い込み、途方に暮れて(?)、投資行動に向かう心的誘因(インセンティブ)がしぼんでしまいます。

企業型DCの場合は加入が強制的で、所属する会社により投資教育や手続き上のことで後押しがあります。しかし、個人型の場合は自分で調べて手続して加入するしかありません。しかも自腹を割いてお金を出すのです。この個人型DCに加入するためのインセンティブとは何でしょうか。逆に個人が限られた収入の中から自腹を切ってでも加入するきっかけとなるものは?

1つには、前述した通り、会社員にとっては退職年金の持運び(ポータビリティ)にあるのではないでしょうか。今の時代、転職は当たり前になっています。不運にも正規から非正規雇用に転ずる社員もいます。そういう会社の退職金が当てにならない人たちが自力で老後資金を運用するのは必須のことです。個人であっても退職年金づくりが不利にならずに継続できること、これは大きなインセンティブであると言えるでしょう。

■商品選びとポートフォリオに簡単ナビを
次に、初めて投資する人にとって、金融商品の知識やポートフォリオの組み方のナビゲーションです。本来は運用商品の中身を十分理解してから始めるといいのですが、当初のレベルでは、基本的には手数料の低い商品を主として、内外株式のインデックスファンドなどわかりやすいものを中心に組み合わせることができれば、運営管理機関を選ぶのはそれほど難しくないでしょう。

そのためのナビゲーションとして、最近普及しつつあるロボアドバイザーのサービスがヒントになりそうです。ロボアドバイザーは自動運用を謳い文句として有料で一任契約を前提にするものがありますが、その前段階として無料サービスでポートフォリオ提案をするサイトもあります。このポートフォリオ提案が必ずしも最良とは言えませんが、当面の加入段階ではこのようなナビがDCサイトにもあれば、もっと個人型DCに加入しやすくなるかもしれません。

【参考記事】
■自動運用「ロボアドバイザー」で資産を増やすために必要なこと (野口俊晴 ファイナンシャル・プランナー)
http://sharescafe.net/49200141-20160802.html
■転職貧乏で老後を枯れさせないために個人型DCを勧める理由 (野口俊晴 ファイナンシャル・プランナー)
http://sharescafe.net/49061150-20160714.html
■定年退職者に待っている「同一労働・賃下げ」の格差 (野口俊晴 ファイナンシャル・プランナー) 
http://sharescafe.net/48662599-20160524.html
■老後資金づくりでハマる心理的な罠  (野口俊晴 ファイナンシャル・プランナー) 
http://sharescafe.net/45918282-20150814.html
■「宵越しのお金」が持てれば、老後の人生は変わる (野口俊晴 ファイナンシャル・プランナー)
http://sharescafe.net/47053876-20151202.html

野口俊晴 ファイナンシャル・プランナー TFICS(ティーフィクス)代表 


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