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9月22日付の日経新聞電子版『NIKKEI STYLE』に、新日本プロレスのオーナーで、カードゲーム会社・ブシロード社長の木谷高明氏のインタビューが掲載されました。

記事によると、新日本プロレスの業績は好調で、4年前は10億円ほどだった売上高は、今期決算で32億円を計上したとのことです。また、木谷氏は今後のビジョンとして、2020年までの株式上場、売上高100億円達成を掲げています。

「新日本プロレスは規模としては世界2位、アジア1位ですが、世界一の米国のプロレス興行会社、WWE(ワールド・レスリング・エンターテインメント)に比べたら25分の1です。(中略)米国と日本の規模を比較しても、新日本プロレスの売り上げは100億円まではいけると考えています。」(『新日本プロレスは東証上場の「ゴング」を鳴らせるか』 NIKKEI STYLE 2016/09/22)


木谷氏は、スポーツ興行団体のロールモデルとして上述のWWEや日本のプロ野球球団を念頭に置いているようです。しかし、日本には同じ格闘技の団体で、すでに「売上高100億円」を達成している組織があります。

それは、日本相撲協会です。

今回は、相撲協会の収益構造を分析した上で、新日本プロレスが売上高100億円を達成する道筋を考えてみたいと思います。

■実は単純な相撲協会の収益構造
日本相撲協会の決算報告によれば、平成27年度の事業収益(一般企業の売上高に相当)は約108億円でした。この中から両国国技館の貸館収益や広告収益などを除いた「相撲事業収益」、すなわち本業である相撲を見せることで上げた収益は97億円です。

「相撲を見せる」という活動には、大きく分けて年6回の本場所と地方巡業の2つがあります。決算書には明細がないため、97億円の収益に占める各本場所と地方巡業の割合は分かりません。しかし、これは単純な考え方で類推ができます。

どんな業種・規模の企業(組織)であれ、売上高は単価×客数×回転率で計算できます。これを大相撲の本場所に当てはめると、以下のように考えられます。

単価:チケット価格を参考に、客単価は1人1万円。
客数:開催施設の平均キャパシティは1万人前後。よって1日あたりの観客数8,000人と仮定。
回転率:年6場所×15日間=年間90日開催。

これらを掛け合わせると、1万円×8,000人×90日=72億円となります。これにNHKからの放送権料を加味すれば、相撲事業収益の中身はこれでほぼ説明がつきます。

つまり、相撲協会にとって収益を上げる場はあくまで年6回の本場所であって、地方巡業はファンサービス、あるいは広報宣伝活動という位置づけであることが分かります。

■売上高100億円を達成する条件を考える
これを新日本プロレスに当てはめて考えてみましょう。

新日本プロレスの年間興行の中で、大相撲の本場所にあたるビッグイベントは、1月4日の東京ドーム興行と、夏に行われるシングルマッチのリーグ戦『G1クライマックス』です。売上アップのためにはこれらに匹敵する大イベントを作り、育てる必要はあるでしょう。

しかし、プロレス団体が大相撲のように1万人規模の会場を90日間ほぼフルハウスにする興行力をつけるのは、まず不可能です。そうなれば、大相撲ではサービス活動と割り切っている地方興行でも売上を上げていくことが必要になります。また、興行数自体も増やさなければいけないでしょう。

客単価については、今でも地方興行でリングサイドは1万円のチケットが売れていますので、工夫次第で大相撲並み、またはそれ以上の客単価を実現することはできると思います。

以上を総合し、前述の売上高の計算式、単価×客数×回転率に当てはめてみて、私が考える新日本プロレスが売上高100億円を達成するための条件は以下の通りです。

単価:グッズ販売や付加価値のついたチケット販売を組み合わせ、客単価は1.3万円。
客数:大会場・地方会場を合わせた平均キャパシティは3,000人。
回転率:現在130試合程度の年間興行数を、200試合まで増加。

以上を掛け合わせると、1.3万円×3,000人×200試合=78億円となります。残り22億円をファンクラブやネット視聴の会費、放送権料などで埋めることができれば、夢の売上高100億円が実現します。

■地道に質の高いパフォーマンスを見せ続けることが大事
上述の条件の中で一番ハードルが高いと思うのは、試合数の増加です。正確に言えば、「試合内容のクオリティを落とさずに試合数を増やすこと」です。このために必須の条件は、選手層を厚くすることでしょう。最近の新日本プロレスの興行を見ていると、外国人選手の数が増えたように感じますが、これは将来の試合数増加を見越した動きなのかもしれません。

スポーツ興行団体が売上を飛躍的に伸ばす方法としては、巨額の放映権契約を結ぶのが今のトレンドです。サッカーのJリーグがイギリスの大手動画配信企業と2,100億円の放映権契約を結んだのは記憶に新しいところです。

しかし、現段階では、新日本プロレスは実興行をメインに売上増加を図る方が良いと、私は思います。国内に相撲協会という目標にできる団体があるわけですし、実興行ベースで100億を売り上げる地力がつけば、コンテンツの価値も高まり、将来の放映権契約交渉を有利に進めることができます。結果として、次の200億、300億というステージには意外と楽に到達できるかもしれません。

いずれにせよ、プロレスファンとしてはこのように景気の良い話ができるのは嬉しいことです。木谷オーナーや選手の皆さんは大変でしょうが、試合の中だけでなく、団体の経営でも、ファンをワクワクさせてくれるような展開を期待したいですね。

【参考記事】
■シン・ゴジラでビルを破壊された三菱地所のBCPを勝手に考える。 (多田稔 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/49222132-20160802.html
■『さんまのまんま』終了で考える、テレビ局の苦境と明石家さんまのこれから。 (多田稔 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/49277606-20160810.html
■幻の“SMAP子会社化”スキームを今さらながら考える。 (多田稔 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/49326386-20160817.html
■PCデポ高額請求問題の背景を財務面から読み解く。(多田稔 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/49372274-20160823.html
■伊藤忠商事が中国で病院経営に乗り出した理由。 (多田稔 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/49594165-20160920.html

多田稔 中小企業診断士 多田稔中小企業診断士事務所代表


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