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「女子力大学」と言われて、皆さんが思い浮かべるイメージはどんなものでしょうか?
福岡県宗像市が進める市内の団地再生や地域活性化事業の中で専門家会議の提言として盛り込まれた「女子力大学」が批判を浴びていると報じられました。(「『女子力大学』で花嫁修業? 福岡県宗像市内の活性化提言に疑問の声」ハフィントンポスト 2016年10月12日付)

私がこのニュースを読んだのは、仕事帰りの電車の中。窓に映る化粧の落ちた自分の姿を見て、まさに「まずい。女子力低すぎ…」とつぶやいたタイミングでした。自分でも深く考えずに使っていた「女子力」という言葉について、宗像市の例をもとに、何が問題なのか、改めて考えてみたいと思います。


■宗像市「女子力大学」とは
宗像市のホームページに掲載された提言内容を見ると、「女子力大学」では、「女子力を向上させる文化・教養・趣味・作法などに詳しい福岡や北九州の教育者や文化人を講師として招聘し、定期的に講座を開催」するとのこと。添付されたイメージ図では「お茶」や「お花」「料理」を習いたいと思ったり、写真や史跡めぐりに興味を持ったりする女性たちの想像図が描かれています。

同市によると、この大学は都市の賑わいづくりのために、近隣の看護学部に通う女子学生を対象に考えられたものであるとのこと。しかし市の定義する「女子力」が、お茶やお花、料理など、一昔前の「花嫁修業」を思い起こさせるものとして批判を浴びました。

こうした声を受けて、「公的な機関が『女性はこうあるべき』という規範を押し付けているのでは?といった疑問の声があります」と前述の記事では指摘しています。それに対し、市の担当者は「そういう感覚はありませんでした。市から『女性はこうあるべき』などと言っているわけではありません」と回答しました。「女子力」を使う側の意図と受け取る側の意味合いが大きく異なっている様子がうかがえます。

■多義化する「女子力」
「女子力」という言葉は、21世紀に入ってから、「悩む力」「鈍感力」等に見られる「○○力」の流行の流れの中で生まれ、普及してきました。

甲南女子大学の発刊する「女子学研究」掲載の論文、「『女子力』の社会学-雑誌の質的分析から―」によると、雑誌で「女子力」をうたった記事の数は、2007年に2桁を突破。以後増加を続け、2011年に入ると60件を超え、3桁に迫る勢いを示します。

「女子力」が広く使われるようになるに伴い、さまざまな意味を持つようになりました。前述の「女子学研究」誌の論文によると、現在、「女子力」は4つの意味で使われると分析しています。

まずあげられるのが、異性にもてることを目的とした「異性志向」です。美容やファッションなど、異性に好かれるために行うためのものと位置付けられます。

二つめの意味は「同性志向」で、これは同性である女性から憧れられたり、好かれたりすることを目的としたものです。美しくあろうとする女性同士の連帯感を示すものです。また、従来「男性的」とされる「媚びない」「他人の目を気にせず、自分の好きなものを大きな声で主張できる」といった行為も「女子力」として語られた例もあります。ここでは女性同士の連帯を強化するものは、すべて「女子力」に包含されます。

三つめは、自分のナルシスティックな喜びを目的とする「自分志向」です。美しくすることで充足感やモチベーションアップを感じることを指しています。この場合、美容だけではなく「焼肉」「メンズシャンプー」など、従来は、むしろ「男性らしい」と見られる行為さえ、「女子力を上げる」ものとして使われているのも興味深いところです。

最後に挙げるのは、仕事を目的とした「仕事志向」で、「なでしこジャパンの逆境を乗り越えた女子力」といったように、仕事でのパフォーマンスの高さにつながるものとして使われるものです。

この「仕事志向」は、さらに複数の意味を含みます。代表的な例をあげても、女性の社会進出の意味で使われたもの、家庭と仕事の両立的な意味合いのもの、女性の外見的美しさを仕事に活かすというもの、そしてきめ細かな気遣いや女性的感性を生かすもの…などがあります。

興味深いのは、「女子力」が、女性自身が自らのためのものとしての意味合いが徐々に強くなってきている傾向が見られることです。たとえば「仕事志向」における外見的美しさは、周囲の目を気にして美しさを整えるという意味から、仕事へのモチベーションアップのためとして行うものという質的変化が怒っています。

典型的な他者のためである「異性志向」においても、「女子力のあるいい女になるために、いい恋をしたい」というコピーに見られるように、異性にもてることは女子力アップの手段と位置付けたものが見られます。

しかし、こうした意味合いの複雑さや、意味の質的変化の途上にあることについて、あまりにも無頓着に、お気軽に使ってしまった典型例が宗像市の「女子力大学」でしょう。ターゲットである当の女性達の多くに、違和感を抱かれ批判される結果となってしまいました。

■垣間見える性別による役割認識意識
さらに、「女子力」という言葉を使ったことで、特定の役割や志向がジェンダーと紐づけられる結果になります。特に、「仕事目的」であげた意味合いのうち、女性の外見的美しさを保つことや気遣いすることといった、伝統的価値観の中で「女らしい」とされてきたものを「女子力」と呼んだ場合、性差別と受け取られ可能性があります。

宗像市の「女子力大学」も、「お茶、お花、お料理=女性が習うもの」という性別認識が垣間見えました。市の担当者は、その意図はなかったというものの、「女子力」という言葉を使った以上、「大学」で提供する講座内容とジェンダーとは不可分です。。もしこれが「人間力大学」や「伝統文化大学」など、ジェンダーを想起させない言葉で命名していれば、こうした批判を浴びることはなかったでしょう。

■「女子力」を使うことの重さ
こうした性別役割に基づく言動は、2014年施行の改正男女雇用機会均等法で「ジェンダー・ハラスメント」と位置付けられています。特に職場において、これをなくしていくことがセクシュアル・ハラスメント防止に重要であり、対策を行うことが事業主の義務とされました。

宗像市に限らず、「女子力」の意味合いをよく考えずに使わってしまったと思われる例は他にもあります。最近では、10月7日の資生堂フェイスブックページでは、「さりげない心遣いで女子力アップ!」と題し、「(重要な仕事の後に)疲れた相手に、『お疲れさま』と書いたデオドラントシートを渡すとさりげない心遣いが喜ばれるかもしれません」と記載されていました。

ここでは、「女子力」と「さりげない心遣い」という行為とが強く結びついていることを暗に示しているように見えます。しかし、職場において「さりげない心遣い」は、人間誰もができることが望ましいものであって、女性への役割に限定されるものではありません。「女子力」という言葉を使った裏には、「心遣い=女性の持つべきもの」という性別役割認識が無意識のうちにあったと思わざるを得ません。

先日、労災が認定された電通の女性社員も、職場で男性上司から「女子力がない」と言われて気に病んだ様子がツイッターに残されていました。「女子力」を仕事の能力として女性社員に命じたのだとしたら、性別役割認識に基づく「ジェンダー・ハラスメント」が行われていたとも考えられます。

■「女子力」による自縛
「でも『女子力』は、女性が自分でも使うではないか」と思う向きもあるかもしれません。実は、そこに「女子力」を使うことの危なさがあるように思います。

女性自身が「女子力は望ましいもの」「女子力は向上させるべき」という規範を持っている場合、「女子力を持て」と言われた側の女性は拒否しにくいからです。拒否することは、「女子力」に包含される女性性に基づく自分らしさをも否定する感覚が伴うからです。私が自分の疲れた姿を「女子力がない」とつぶやいたことも、「女性はどんな時でもきれいにしていなくてはいけない」と暗黙の裡に規範を持っていることの典型的な例でしょう。(実行できているかどうかはともかく…)

ここで言葉狩りをする意図はありません。しかし「女子力」という軽い言葉には、ジェンダー・ハラスメントになる重さがあるということを今一度、認識する必要があるように思います。日々のコミュニケーションにおいて「女子力」を誰かに対して使う場合、それは性別役割認識に基づいたものなのかを問い直したうえで、できればその意味するところを、あいまいな「女子力」ではなく、具体的にわかりやすい言葉を使って伝えてる必要があるのではないでしょうか。

参考文献:「『女子力』の社会学-雑誌の質的分析から―」近藤優衣氏(甲南女子大学女子学研究会「女子学研究」掲載 2014年3月発刊)

【参考記事】
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朝生容子 キャリアカウンセラー・産業カウンセラー




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