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ハリウッドで俳優を目指すと宣言したお笑い芸人コンビ「ピース」の綾部祐二さん。芸能界だけでなく、一般視聴者からもかなりの反響や批評が巻き起こっている。芸能人の海外留学や海外挑戦はそう珍しくなく、最近ではEXILEのATSUSHIさんもアメリカ留学を経て現地で活動すると発表したばかりであるが、綾部さんの騒がれようは異例とも言える。

■なぜ綾部さんの渡米が騒がれるのか
ATSUSHIさんが渡米を宣言したときも、応援と批判の両方がもちろん飛び交った。その多くはATSUSHIさんがアメリカで成功するかどうかよりもむしろ「なぜ今行くのか」といった話題が中心だった。

それはそうだろう。ATSUSHIさんの圧倒的な歌唱力は誰も文句のつけようのないものだ。あんなにすごい歌唱力を持たず、EXILEのようにトップに登りつめた大スターでもない常人にはATSUSHIさんがアメリカで成功するかどうか、その可能性がどのくらいあるかなんてことは推し量ることができない。

一方で、綾部さんのアメリカ進出について多くの人が話題にしているのはその成功の可否だ。俳優の坂上忍さんは応援の意を込めつつ「芝居バカにしてるのか」と発言し、俳優の高嶋政宏さんには「行き先を間違ってる」と言われている。お笑い芸人仲間の又吉さん、吉村崇さん、山里亮太さん、陣内智則さんなどからは力強いエールを送られてもいる。SNSでの一般人の反応も活発で、「チャレンジを応援する」というものから「無謀さにあきれる」というものまで自由に自分の立場で発言している。

綾部さんのケースについて老若男女が気軽に賛否を言える理由は、綾部さんの持つ親近感にあるだろう。綾部さんは売れっ子お笑い芸人ではあるが、芥川賞受賞作家となった相方・又吉さんへの羨望の気持ちを包み隠さず語ったり、「熟女好き」キャラは飲み会に1人や2人いそうな空気感だ。漫才コンビとしての努力も隠れたところでしているに違いないが、そんな態度はおくびにも出さない。身近にいそうな綾部さんだからこそ「もし自分なら」そんなことを思い浮かべながら、賛否の声を上げやすいのではないだろうか。

■「失敗しないためにはどうしたらいいか?」という愚問
留学というテーマを長年追っている身として綾部さんの挑戦をどう見るかというと、決して無謀には見えない。大枠ではきちんと計画がされている。

綾部さんは語学力が足りない現状をきちんと理解されていて、まず語学留学からスタートし、2~3年は語学力の向上にあたりたいと語っている。たいがいこういう計画には「2~3年で語学を身に付けようなんて甘い」といった声があがるものだが、語学学習に天井などなく、英語教師になるわけでもない綾部さんが到達すべき英語力について2~3年の学習期間はスタートラインとしては妥当である。将来の夢は俳優としてレッドカーペットを歩くこととしながらも、コメディの分野を捨てるわけではなく、自分の得意分野も攻めていくとも話している。

むろん、留学なんてものは、いくら入念に計画をしてもその予定どおりに行くものではない。想定しなかった事態にはだれでも必ず遭遇するし、思ったように勉強や修行がはかどらないことも、体調が変化することもある。綾部さんだってそうなる可能性はある。もしその結果ハリウッド俳優になれなかったら、きっと綾部さんは「失敗した」と言われるのだろう。

しかし、留学の過程で当初持っていた目標とは異なる生きがいを見出す人もゴマンといる。初志貫徹も美しいことだが、柔軟な発想で違う道を選択するのも有意義なことだ。

今まで、数えきれないほど多くの人に「どうやったら留学を成功させられますか?」「どうやったら失敗を防げますか?」と質問されてきた。だが、そもそも成功や失敗の定義とはなんだろうか。

留学とは、長い人生の一時期に学ぶための手段のひとつに過ぎず、それ自体を短期的に成功か失敗かで白黒つけることにはあまり意味がない。名声や富を得たり、当初の計画どおりの資格を取得したら「成功」で、それ以外は「失敗」なのかというとそうではないだろう。

周囲が勝手に「失敗」だと定義づけていることは、本人の長い人生のなかで見ると「方向転換」や「きっかけ」や「奮起材料」や「縁」であることも多い。

たとえば筆者は、過去に遭遇した次の人たちのストーリーを、到底失敗だとは思えない。

親の期待を背負ってオーストラリアに高校留学したが生活になじめず退学、その後海外で大検相当資格を取ろうと渡米するも勉強が嫌いで断念、その過程で芝居の面白さと出会い高校卒業資格の不要な演劇学校へ進学し、歌の勉強と同時に修行を続ける人。

ジャズを志してニューヨークへ渡るも、体調を崩して歌えなくなり帰国。体調管理の大切さを痛感し、和食を勉強し料理の道へ進んだ人。

イタリアの人たちと一緒に絵を描きたいと行ってフィレンツェへ行き、君の作品と契約したいと近づいてきた人にお金を猫ババされ大変な目に合ったが、いまやその経験を生徒に語る学校教師になった人。

■日本が失敗を受け入れる社会へ踏み出すための一石を
人が新しい環境に歩き出せば、必ず変化が起きる。多文化環境下にある留学では、変化はスピードアップし、出会いは多様でもある。考えが変わることや、違う才能に目覚めることはいくらでもある。

綾部さんはハリウッド俳優を目指すつもりで一歩を踏み出すが、もし現地で違う才能を見出されたなら、遠慮なく前言を撤回し、新しい道を選んでほしい。もしハリウッドも、それ以外の道も手に入らず帰国することになったとしても、堂々と帰国し、そして日本は綾部さんを受け入れるようであってもらいたい。「ほら見ろ」と見下すのではなく、挑戦した人を賞賛する社会になっていてもらいたい。

先に述べたとおり、綾部さんの渡米はとても注目されている。中学生や高校生からもだ。彼ら若い世代は、綾部さんを通じて綾部さんを取り巻く社会を見ている。自分たちはいずれ挑戦するべきかどうか、挑戦がうまくいかなかったら社会は自分をどう取り扱うかを見ていると思ったほうがいいのだ。

《参考記事》
■お笑い芸人・渡辺直美さんがニューヨーク留学で得た『留学の成果』を考察してみる(若松千枝加 留学ジャーナリスト)
http://www.ryugakupress.com/2015/12/28/seika/
■自分の手で「つかみに」行く留学。日本人バスケ男子、アメリカへの挑戦。(若松千枝加 留学ジャーナリスト)
http://www.ryugakupress.com/2015/12/07/basketball/
■欧州でのシリア難民支援。日本人にできることは?(若松千枝加 留学ジャーナリスト)
http://sharescafe.net/49182245-20160728.html
■『聞こえない高校球児』がフランス一人旅へ ~「世界のろう者に会いたい」(若松千枝加 留学ジャーナリスト)
http://sharescafe.net/46304493-20150918.html
■海外で学んだ。帰国した。仕事はありますか? (若松千枝加 留学ジャーナリスト)
http://sharescafe.net/38946405-20140521.html

若松千枝加 留学ジャーナリスト


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