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日本テレビのドラマ「地味にスゴイ!校閲ガール・河野悦子」の視聴率が順調とのこと。初回から、先週放映済みの第5話まで、すべての回で視聴率は2桁を越えました。筆者の周囲でも、「意外に深い」という評判を聞きます。

主演の石原さとみさんはじめ、人気俳優や実力派俳優が出演していること、主人公の小気味よい本音トーク、テンポの良い展開、頑張りすぎて奇抜な主人公のファッションへの興味など、見ていて引き込まれる要素は多々あり、人気の出ることも頷けます。

実際に校閲に携わっている人から見ると、現実にはありえない点が多々あるようですが、現実にはあり得ないような主人公の行動がこのドラマの魅力とも言えるでしょう。

しかし、このドラマの最大の魅力は、「仕事」の本質を描いている点にあるように思います。見る人にとっての自分の仕事について、「意外に、価値ある仕事じゃないか」と思わせるところが、視聴者の共感を呼んでいるのではないでしょうか。ここでは、その共感ポイントを探りたいと思います。

■裏方から逸脱する主人公
主人公、河野悦子の勤務先は、ファッション誌や文芸誌書を扱う出版社。その人気ファッション雑誌にあこがれていた主人公は、入社試験7回目にしてやっとその希望を叶えます。

憧れのファッション誌編集部で働けると張り切る悦子が実際に配属されたのは校閲部。校閲とは、原稿の誤字脱字や、内容の間違いを修正したり、矛盾点を指摘したりする役割を担います。出版社を志していた主人公自身も、存在を知らなかったほど、表には出ない仕事です。他人のミスを指摘するため、本の著者や担当編集者からは、煙たがられる存在でもあります。

しかし、悦子は「校閲は表に立つべきではない」という暗黙の了解を斟酌することなく、自己流で物事を進めます。書かれた内容について、正誤を確かめるべく現地に赴いたり、書籍の内容についてのアドバイスを行ったりなど、従来の校閲の範囲を飛び出したことを行うのです。

そんな悦子の踏み込んだ取り組みが、一部の著者に歓迎されることもあります。第2話では、節約術が書籍化された人気ブロガーに、自分なりの節約術のアドバイスまで行ったことで感謝され、自宅に会いに出かけるまでの関係になります。さらに悦子を有頂天にしたのは、ブロガーからの「あとがきに、校閲の方への謝辞を入れたい」という言葉でした。

その直後、事態は暗転します。その著書の付録である家計簿の表紙にスペルミスがあったのです。これを主人公が見逃したことで、刷り上がった5000冊の家計簿すべてに訂正シールを貼らなければならなくなってしまいました。出版記念のイベントに間に合わせるために、校閲部のメンバーを総動員させ、徹夜で作業をすることになってしまうのです。

■地味な裏方仕事の誇り
申し訳なさに、いつもの強気の姿勢はどこへやら、身を小さくして作業する悦子。そんな彼女に、メンバーは、「誰もが経験していること」と温かい言葉をかけます。有頂天になっていた悦子に対し、「浮かれるな」と注意した先輩は、過去に校閲ミスで大作家を怒らせてしまい、いまだにその作家は自社で書いてくれていないことを告白します。

ここで初めて、先輩のアドバイスが、自分を心から案じてくれた言葉であったことを悦子は知ります。同時に、校閲部のメンバーが、自分のミスは、会社の評判に関わるという誇りと責任感をもって、身を律して仕事に臨んでいることを理解します。

別の回ですが、以前は編集担当であった校閲部長が、悦子に対して地味な校閲の仕事への誇りについて語るシーンがありました。

「どんな緻密な作業をしても、間違いがなければ私たちの作業はすべてなかったことになり、誰にも褒められることもない。でも、そんな仕事を誇りをもってやる。ここにいる誰も、自分の仕事が無駄だなんて思っていません」

本の制作における校閲に限らず、仕事というもののほとんどは、実は表に出ない作業が大半を占めています。何事もないのが当たり前で、間違えれば責任を問われ、うまくいっても褒められるわけではないことも多々あります。

しかし、そういった裏方の仕事があるからこそ、世の中が回っていることも事実です。このドラマでは、校閲という仕事を通じて、裏方の仕事の価値に光を当ててくれているように思えます。

■華やかな仕事にも影がある
裏方仕事の誇りと重要性を描く一方で、このドラマでは華やかな仕事の影の部分にも触れています。

主人公、悦子の高校の後輩、森尾登代子は、悦子の憧れのファッション誌「Lassy」の編集部勤務。学生時代に読者モデルを務めた縁で編集部員として入社したという設定です。

読者モデルから看板雑誌の編集者と、人が羨むようなキャリアでありながら、森尾自身の気持ちは晴れません。上司からは矢継ぎ早に命令を出され、それに奔走させられる毎日。編集長さえ口出しできないカリスマ・スタイリストからは撮影の小物探しを命じられますが、非常にあいまいな指示であるため、夜遅くまで町中を走り回ることになります。

そんなふうに頑張っているにも関わらず、編集長からは「読者モデルあがりで、なんとなく入社しただけ」「今のままでは、ここに居場所はない」と厳しい評価を言い渡されています。

後から入社した先輩の悦子は、希望部署の配属ではないのに、まっすぐに仕事に取組み、やりたいことをはっきり言って充実の毎日を送っているように見える。森尾はそんな悦子の姿にイラつきさえ覚えています。はたから見れば、人気ある部署にいて自分の方がもっと充実した仕事をしていてよいはずなのに、なぜかそう思えない…。

彼女が、そうした屈折した状態から抜け出すきっかけは、仕事への取り組み姿勢を変えたことでした。

カリスマ・スタイリストに、用意した小道具をけなされ、自分の奔走が無駄だったと落ち込みます。しかし、そのスタイリスト自身も下積み時代に、無駄かもしれないと思いながらも用意した小道具が、思わぬ脚光を浴びて立ち直った話を聞き、再度、小道具を徹夜で準備しなおすのです。翌日、それがスタイリストの目に留まり撮影に採用され、編集長からも「よくがんばりました」と褒められます。

森尾は、それまで仕事に対してずっと受け身でした。誰かの指示があれば、その通りの動くものの、自分がどうしたいのか主張しないばかりか、何をしたいかさえ考えたこともなかったように見受けられます。

そんな彼女が、初めて能動的に行動したのが、この小道具作りです。件のスタイリストが浮上するきっかけとなったパッチワークをモチーフにしながら、自分のアイデアでトランクを作ったのです。

森尾が初めて上司から認められた理由は、そのトランクの出来がよかったということもあるでしょうが、それ以上に「自分はこんな小道具を使った写真にしたい」という熱意が評価されたからであるように、私には思えたのでした。

■なぜ、いま「仕事の本質」が共感を呼ぶのか?
働くということは、実は理不尽なことの連続です。特に今の時代、正規社員と非正規社員の待遇差や、就職氷河期にあたってしまったか否か等、自分の努力だけではどうしようもない働く環境に対するフラストレーションをため込んでいる人も少なくないでしょう。

それに拍車をかけるのが、SNSなどの情報です。他の人の充実した働きぶり、生活ぶりをみると、まるで自分だけが取り残され報われていないような気持に陥ります。

しかし、一見うらやましいような華やかな仕事でも、その陰には辛いことがあります。逆に、縁の下の力持ちでも、誇りに思える部分もあるのです。そして、誇りに思える部分は、他人と比べるのではなく、自分の仕事にしっかり向き合うことで初めて見えてくることを「校閲ガール」は教えてくれます。

「校閲ガール」制作側は、「これは、夢を叶えた人にも、まだ叶えていない人にもエールを送るお仕事ドラマです。」と、述べています。もし、あなたが仕事上で思うようにならず壁にぶつかっているのであれば、このエールを受け取ってみるのも、一つの解決策かもしれません。

ただし、主人公が志望の出版社を7回も中途採用枠で受け続け、夢を叶えようとする設定にはご注意を。現実には、面接の前に、ほぼ書類審査で落とされますので…。

【参考記事】
■「営業部長 吉良奈津子」はなぜスタートダッシュに失敗したか?
http://sharescafe.net/48746494-20160603.html
■英国首相選ではなぜ「子供を持つ母親」が不戦敗したのか?
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■近鉄車掌飛び降り問題を、「怒り」の視点から考えてみた。
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■「女性活躍推進法」は女性を追いつめる両刃の剣?
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朝生容子 キャリアコンサルタント・産業カウンセラー


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