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■電通に労働局の強制捜査
 11月7日に東京労働局が電通の強制捜査に入りました。新入社員の過労自殺より始まった長時間労働の実態は、今後もさらに明らかになっていくことと思われます。

先月の立ち入り調査と今回の強制捜査に入ったのは、東京労働局です。労働局は労働基準監督署の上部組織に当たる部署で、主に労働基準法の法令違反について指導を行う監督署に対して、労働法全般について判例での判断も含めた行政指導が行える労働局が動くことで、監督署の管轄外であるセクハラや、関連する裁判判例に基づいた行政指導も十分にありえる状況となっています。

■そもそも36協定違反なのに
 電通は10月18日に36協定の上限を70時間から65時間に引き下げる対策を発表しました。そもそも36協定とは、労働基準法で週40時間・1日8時間を上限としている労働時間を協定した時間までは超えてもいいという内容を労使で話し合って決めるものです。この協定の範囲内であれば、労働時間について労働基準法違反になることを免れることができます。

 この上限を5時間短縮するというのは少し的外れの対応ではないでしょうか。そもそも今回の事件において、残業時間は100時間を超えていたことが判明しています。36協定のおかげで月当たり70時間までの残業に限り認められていた企業で、100時間の残業を行うことはできません。これを超えた残業をしたということは、36協定を提出していても労働基準法違反です。70時間さえも守れない社内体質が最大の問題であるのに、上限の70時間を65時間にしたところで、労働時間短縮の効果があるとはとても考えられません。

■異常な残業時間の36協定は認められるのか
 事実上「36協定を結ぶことで、無制限の残業をさせることができる」といったことも多方面から指摘されて、国も制度見直しを検討しています。しかし実態は無制限の協定などできません。

 残業だらけの企業で、36協定を500時間で締結していたら、法律違反にならないでしょうか。法律上の理論であれば労働基準法上はこれで合法となります。しかし36協定は労働基準監督署に提出して初めて効果が発生します。月500時間の36協定書を提出すれば、監督署は36協定を受理したとしても、異常な長時間労働企業として即座に実態調査に入り、改善指導するでしょう。なぜなら500時間の残業は、労働基準法では合法だとしても、労働安全衛生法の安全配慮義務違反になるからです。労働安全衛生法も労働基準監督署の管轄ですから、実態が500時間も残業させていると知って放置するわけにはいかないでしょう。

 さらに長時間労働の企業として企業名を公表される場合もあります。私のよく行く監督署でこんな36協定を提出すれば、「もう少し労働時間短縮の検討はできないのか」とその場で注意を受けるでしょう。「もう一度事業主さんと検討してください」とやんわりと受理してもらえない可能性さえありえます(厳密に言えば受理の拒否はできないことになっていますが)。

■安易な対策は対策にならない
 労働時間の短縮を名目でうたっても、文書作成や書類作成は家でもできるし、頭の中は仕事で24時間まわっている場合だってあります。就業時間中に終わらない仕事を与えていて、残業時間だけ規制すれば、仕事の持ち帰りや締め切りに間に合わないストレスが増大し、実態としては何も変わらない恐れすらあります。裁判上では自宅の持ち帰り仕事の時間が労働時間であると認められたケースもあります。安易な対策は対策にならないのです。

 また業務の効率は人によって差があります。業務内容によっては大きな差になる場合があります。遅い人を罵倒しても早くはなりません。全員が早く処理ができるようなるための工夫を企業は行わなければならない。全体のスキルアップと同時に業務の簡素化や標準化、作業の分担、業務のアウトソーシング、人員の増加、システム化等の様々なアプローチで全体の効率アップを目指すことで時間外労働を抑えて、実務能力を向上させることが、最終的には企業の成長につながっていくでしょう。


【参考記事】
■残業代は払うもの?(原田 雄一朗 社会保険労務士)
http://cop099.blog.fc2.com/blog-entry-81.html
■電通への強制捜査、その真意を読み解く4つのポイントとは? (社会保険労務士 榊 裕葵)
http://sharescafe.net/49772847-20161015.html
■残業は「犯罪」である。 ~電通の過労自殺から考える、長時間労働が蔓延する理由~(榊 裕葵 社会保険労務士)
http://sharescafe.net/49804278-20161019.html

原田 雄一朗  社会保険労務士


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