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年間約3500万円もかかるがん治療薬……そんな超高価格で話題となっていたオプジーボ(小野薬品工業、一般名:ニボルマブ)。この薬の価格を2017年2月から50%引き下げるべき、という厚労省の提案が先日11月16日に開かれた中央社会保険医療協議会にて了承された。規定の2018年4月の薬価改定を待たずに異例の対応である。

■年間費用3500万円の抗がん剤に集まった批判
オプジーボは、2014年9月に悪性黒色腫(メラノーマ=皮膚がんの一種)への適応を承認、2015年12月には肺がんのうち約8割を占めるとされる非小細胞肺がんへの効能が追加承認、さらには2016年8月には腎臓がんへの効能も追加承認されている。

厚労省による2011年の調査では日本におけるメラノーマの患者数は約4000人程度でそのうちの対象患者を470人と少なく見積ることで、当初は100mg当たり約73万円と高額な薬価設定をされたのだが、後に肺がんへの適応を受けたことで対象患者数は一気に10万人強にまで増加した。

試算によると、体重60kgの患者が1年間、オプジーボを使うと年3500万円の費用がかかる。早期がんなどを除き、実際のオプジーボの対象となる患者を5万人程度と仮定しても、1年間投与すれば3500万円×5万人で、1兆7500億円となる計算で国の医療費への負担が大きくなりすぎるとの批判が続出した。

また日本で100mg当たり約73万円のオプジーボが、アメリカでは約30万円、イギリスでは約14万円という販売価格で流通していることも露呈したため、批判はさらに拍車がかかった。

■本来は2年毎に行われる薬価改定
薬の価格は、2年に1度の薬価改定の際、薬価調査を行った上で「市場拡大再算定」というルールを使い、予想を大きく上回って売れた薬の価格を見直している。

小野薬品工業が発表していた、今年度のオプジーボの予想販売額は1260億円であったが、今回厚労省は追加承認された適応や流通経費なども考慮して検討した結果、1516億円と推測。

値下げ幅は薬の販売額が急増した場合の薬価改定のルールに基づき、販売額が年間1000億〜1500億円で最大25%、1500億円以上で最大50%引き下げる仕組みの後者を採用した形だ。

■製薬業界団体は反発
「現行ルールを大きく逸脱したものであり、今後二度とあってはならない」。業界団体の日本製薬団体連合会と日本製薬工業協会は同日、連名で決定を非難するコメントを出した。

その背景には、新薬の研究開発費が増加する中、急な変更は企業の投資回収に影響しかねないとの懸念があるからだ。
(11月16日 毎日新聞)

新薬開発には巨額の研究開発費がかかる割に、発売に到る確率は極めて低いことが知られている。今回の決定に業界が「新薬の研究開発意欲をそぐことにつながる恐れがある」との懸念を示したのは当然だ。

■「緊急的」薬価改定が暗示する静かな衝撃
日本医師会の横倉義武会長は16日の記者会見で、「国民皆保険を維持するために、緊急的な対応としてやむを得なかった。今後多くの高額薬剤が出てくると思うが、従来の薬価の決め方がふさわしいかどうか見直すべきであり、必要な患者に必要な薬が、適宜使用できるような医療体制を」と述べている。

適応がメラノーマのみだった時点と比べてオプジーボの市場規模が短期間のうちに、しかも桁違いに跳ね上がったことを鑑みると、国民の税金や保険料で賄われている薬の値段を見直すのは、当然の流れであるように映る。

日本には国民皆保険制度の他にも、高額医療費を患者の負担が重くなりすぎないようにする「高額療養費制度」というものがあり、年収が約770万円未満の患者の自己負担額の上限は年間100万円程度で済む。ということはオプジーボのような超高額の薬は、その使用量が増えるほど、国の財政を大きく圧迫することになる。

当然ながら国は今回の事例を深く検証して様々な条件に対応できるよう、引き続き薬価算定ルールの見直しについて積極的な姿勢で臨むことが予想される。

また保険財政が深刻に逼迫している現状が故に、2年毎の改定という医療業界の常識を打ち破って緊急値下げが決められた事実は遠くない将来、薬価だけでなく原則出来高払いで運用されている診療報酬や調剤報酬の一部減額なども、改定のタイミングを無視して俎上に上げられる可能性を暗示しているように思えた。

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山浦卓 薬剤師・医学博士

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