pl-2014278960510

■副業・兼業のガイドラインが出る
安倍内閣は、これまで進めてきた「働き方改革」の一環として、社員の副業・兼業を企業が容認するよう今年度中にガイドラインを作成するとのことです。やっと「副業・兼業の緩和」が端緒についたということでしょうか。

これは、女性、高齢者、非正規労働者などの就労機会を押し広めていき、いま問題となっている長時間労働をなくし、有給休暇の取得促進を図る動きが出てきたということです。

もともと、副業や兼業は法律で禁じられているものではありません。これまで多くの企業の就業規則では副業・兼業は禁止項目となっていました。就業規則で禁じられているということは、すなわち法のもとに禁じているのだと社員は思っていただけです。労働基準法にもそんな条項はありませんし、民法にだってありません。

■自分が変われば先行きも変わる
とはいえ、社員の中には副業や兼業をこれまでも内密にやっていた人もいて、どうやって隠れてやるか、バレた時にはどう釈明するかの対策を考えていなくてはなりませんでした。いくら法律的には問題がないといっても、会社の規定に反するわけですから、解雇宣告などいざという時の対策は必須だったのです。

解雇となったら裁判では敗けるわけがないと信じていても、そのための経済的、時間的、心身の労力的負担は決して小さくありません。そこまでして勝ったとして、居づらい思いをしてまでその後何年も会社に残るのかという問題があります。昇進や出世は望めないでしょうし、会社の飼い殺しにあうだけです。結局、副業・兼業など、バレたら辞めるくらいの覚悟でやる道しかなかったわけです。

実際には、これから副業・兼業を受け入れるための企業向け指針ができたからといって、どの企業もすぐに方向転換するとは限りません。法的な枠組みが決まれば働く側も安心できますが、法律での規定はまだ無理と思われます。そこで考えていきたいのは、会社側の変化よりも、働く自分側の変化のことです。指針によっても会社の体質がすぐに変わらないのであれば、自分がすぐに変わればいいのです。世の中の潮流が変わっていく時には、どれだけすばやく自分の働き方を変えられるかで自分の先行きも変わっていきます。

■自分自身が選別されるために
まず、副業や兼業というと、どのようなものを考えるか。現在の収入が不足して家計が逼迫している状況であれば、とにかく収入を補足するために短期のアルバイトやパートなどが考えられます。しかし、ライフプランを長期に見た場合、スキルを活かした副業・兼業を考えたほうがいいでしょう。肝心なのは、いま倒産やリストラで転職せざるを得なくなった時、あるいは独立することも含めて、自分にどれだけ市場価値があるのか、ほんとうに自分が会社や顧客に選別されるのか、ということを認識することです。

そこで資格を目指す人がいます。資格取得は副業や独立に有効な手段となりますが、それのみに頼るのは禁物です。例えば、何の資格も経験も持たない人がここに9人いるとします。この中に税理士の資格を持つAさんが1人加わったとします。単純に考えれば、会社が財務や税務を任せる社員として雇用するのに、この10人の中でAさんのみが客観的に見て選別されやすいことは容易にわかります。

では、9人全員が税理士の資格を持ち、そこに同じ資格を持つAさんが混ざったとして、この10人の中からAさんが選別される確率はどれだけあるでしょうか。同じ資格者という水平レベルに立たされた時、たった1人が選別されるためにはその人の経験や能力、営業力や企画力、年齢、体力、性格、人間性、そして学歴や性別であったり、容貌であったりするかもしれません。つまり、資格を持っているだけでは、市場でいともたやすく淘汰されてしまうのです。

■若年世代は準備期間、定年世代こそ副業・独立を
次に、副業・兼業を年代から見てみます。20~30代のほうが40~50代よりも副業や兼業に向いているかというと、そうとも限りません。肉体的労働で副収入を得るには、確かに若くて体力があったほうがいいかもしれません。またネット副業やWeb起業など若い世代が活躍できる土壌ができていますが、成功するのはまだ一部の人です。むしろ30代までは準備期間と割り切って、専門知識を増やし、スキルを磨き、経験を積み重ねることに専念すべきです。この流れで資格は生きてくるでしょう。キャリアが付けば社内での立場も上がり、人脈もできます。独立はそれからでも遅くないはずです。

では、退職者及びその予備軍の人はどうか? 長年、終身雇用と年功序列に慣らされてきた人が、急に自分の働き方を変えるのは難しいことです。とりわけ、まもなく退職金をもらって再雇用になる人、あるいは現に再雇用になっている人はそうでしょう。しかし、そういう人こそ副業・兼業を始めてほしいと思うのです。

40代、50代、あるいは定年前後の人のほうが、いろいろな意味で総合的なキャリアを持ち合わせているものです。ある程度の資産はあるし、住宅ローンも計画的に完済し、教育費負担がなくなった人もいるでしょう。折しも長時間残業の減少が課題になっているので、この時期から副業・兼業を始め、独立を目指すなり、さらには心機一転の天職に就くのもいいのではないかと思います。

定年後の雇用では決して満足のいく仕事ができるとは限りません。であれば、リスクを大きく取らない方法として、40~50代から独立する準備を始める方法もあるわけです。副業・兼業がうまくいけば、定年時期を早めることも可能です。退職金、公的年金は生活費の基盤としておけば、リスクを最小限にした小さな起業が可能です。

■「働き方」の改革は「生き方」に通じる
これからは、長時間労働や有給休暇未消化の会社は敬遠されていきます。逆に、残業分の空いた時間や有給休暇の時間をどのように活かすかが、個人として選別される要因となります。長時間残業で稼いでいた残業代がなくなったらどうしようかと戸惑っている場合ではありません。政府の「働き方改革」によっても、会社はすぐには変われないでしょう。だから、今のうちに自分が変わるのです。副業すると本業と合わせての労働時間が増えると危惧する人がいるかもしれません。では、いずれ残業全面廃止となった時、その空いた時間の働き方、生き方をその人は考えているのでしょうか?

付け加えておくと、副業・兼業の緩和あるいは解禁といっても、すべての人が副業し、独立すべきだなどとは考える必要はありません。副業・兼業ができるということは、それに充てられる時間に何をしても会社からは文句を言われなくなるということです。その時間に、自分のライフワークを充ててもいいわけです。学究や創作、育児、奉仕活動などに充てることは、本来の生き方の趣旨に合うのではないでしょうか。

「働き方」というのは、「生き方」であるというふうに考えれば違った見方もできるし、これからの時代をよく生きられるのではないでしょうか。そのためにも、企業側がどこまでガイドラインに沿って、副業・兼業を容認できるかにかかってくるでしょう。

【参考記事】
■どれだけ稼げても、長時間残業は割に合わない (野口俊晴 ファイナンシャル・プランナー)
http://sharescafe.net/49837469-20161026.html
■転職貧乏で老後を枯れさせないために個人型DCを勧める理由 (野口俊晴 ファイナンシャル・プランナー)
http://sharescafe.net/49061150-20160714.html
■定年退職者に待っている「同一労働・賃下げ」の格差 (野口俊晴 ファイナンシャル・プランナー) 
http://sharescafe.net/48662599-20160524.html
■老後資金づくりでハマる心理的な罠 (野口俊晴 ファイナンシャル・プランナー) 
http://sharescafe.net/45918282-20150814.html
■年俸制の契約社員でも未払残業代を堂々と取り戻せる法 (野口俊晴 ファイナンシャル・プランナー)
http://sharescafe.net/42292529-20141208.html

野口俊晴 ファイナンシャル・プランナー TFICS(ティーフィクス)代表 

この執筆者の記事一覧

このエントリーをはてなブックマークに追加


シェアーズカフェ・オンラインからのお知らせ
シェアーズカフェ・オンラインは2014年から国内最大のポータルサイト・Yahoo!ニュースに掲載記事を配信しています
シェアーズカフェ・オンラインは士業・専門家の書き手を募集しています。
シェアーズカフェ・オンラインは士業・専門家向けに執筆指導を行っています。
シェアーズカフェ・オンラインを運営するシェアーズカフェは住宅・保険・投資・家計管理・年金など、個人向けの相談・レッスンを提供しています。編集長で「保険を売らないFP」の中嶋が対応します。