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12月7日、大手IT企業のDeNAが運営するウェブサイト・meryが閉鎖され、経営陣が謝罪会見を行った。テレビ・新聞等でもすでに報じられていて目にした人も多いだろうが、経緯を知らない人には一体何のことか意味が分からないかもしれない。

DeNAが運営する医療情報サイト・WELQ(ウェルク)に根拠の乏しい医療関連のコンテンツが大量に掲載されていると問題になり、さらに掲載されている記事は他のサイトから盗用されたものが大量にあるのではないか?という疑惑まで加わり、多数の批判を浴びた。

同様の手法で運用されていた他のサイトも次々と記事の削除・閉鎖が相次ぎ、12月7日に女性向け情報サイトのmeryが閉鎖されたことでDeNAが運営する9つのサイトで構成される「キュレーションプラットフォーム」は全て閉鎖された。その後は第三者委員会による検証を行う事が公表され、謝罪会見も行われた。創業者で現会長の南場智子氏、社長の守安功氏、そしてもう一人の執行役員・経営企画本部長の3人が顔をそろえた。

この問題はこれまでネットの一部で盛り上がっていたような感もあるが、上場企業が謝罪会見を行ったことでテレビの情報番組でも朝から繰り返しニュースとして報じられている。

プロ野球球団を持つまでに成長したIT企業の雄に何が起きたのか、その経緯と謝罪会見から読み取れる問題を解説してみたい。

■問題は「死にたい騒動」から始まった。
ことの発端はインターネットで「死にたい」と検索をすると上位に表示されるページの存在だ。SEOと呼ばれる検索結果の上位に表示されるように検索エンジンへの最適化が行われ、記事の内容も含めて人の死を商売につなげるなんて不謹慎にもほどがあると問題になった。そのサイトが医療系サイトのWELQだった。

WELQはいわゆる「キュレーションメディア」と呼ばれる、他のサイトのコンテンツを収集・編集・紹介する事で成り立つサイトだ。WELQは2015年6月にスタートすると同社が運営するmeryを今年6月には追い抜き、極めて短期間で急激にアクセス数を伸ばした(スマホからの「welq(ウェルク)」の利用者が急増し631万人に ~ニールセン、特化型キュレーションメディアの利用状況を発表~ ニールセン 2016/07/26)

しかし、この「死にたい」騒動を皮切りに、様々な病名で検索の上位表示されるWELQとは一体どんなサイトなのか、医療サイトでありながら医者が書いているようには見えない、内容が明らかにおかしい、他のサイトから盗用の指摘まである、しかも運営元が上場企業でプロ野球球団を保有しているDeNAである……。

様々な問題を指摘する声に企業倫理を問う声も加わり、一気に炎上した。そこから記事の大量削除、WELQの閉鎖、第三者委員会設置のお知らせ、他サイトも含めた全サイトの閉鎖、謝罪会見……と極めて短期間で事態は進行した。

12月7日行われた3時間におよぶ謝罪会見でDeNA経営陣は全面的に非を認めたが、そこに至るまでの経緯と謝罪会見の内容はズサンの一言だ。WELQに関する問題はすでに多数報じられているため、謝罪会見を経営責任の観点から3つ解説してみたい。

■1・医療サイトに医療の専門家を設置していなかった。
会見で社長は当初「ライトなヘルスケア」領域のサイトを立ち上げようとしたため、監修をつける必要性を感じていなかったという。

医療関連記事の正確性について言えば、「WELQ」(ウェルク)に(医療記事の)監修がついていない。当初、筋力トレーニングやコスメ(化粧品)など医療情報と隣接する「ライトなヘルスケア」の領域で立ち上げようと昨年の8月に決めて、11月に始まった。
私もたとえば「腰が痛い」というキーワードで検索して、原因が「長時間、座っている」などと(書かれたウェルク内の記事で理由が)挙げられても、私自身に「何が医療情報なのか」という知識がないこともあって、当初は問題だと思っていなかった。

出典:社長「後追いで監修をつければいいと思っていた」 会見詳報(4) 毎日新聞 2016/12/7


社長はその後外部からの指摘で監修をつけた方が良いと考えたというが、医療の素人が「ライト」と「ヘビー」をどうやって判断するのか。ライトな領域に絞るのであれば、境目を判断する専門家が必要となる。しかしそれをやらなかった結果何が起きたか。

(問題が表面化した後で)ウェルクの中で『がん』と検索し、いくつかの記事が出てきたときには(当初はライトな健康情報のサイトを目指していたのに)『いつからこのような重い情報を出すようになったのか』とがくぜんとした

出典:南場会長、ウェルク問題「報道で知りがくぜん」 毎日新聞 2016/12/07

ガンという死につながる重い病気に関する情報がいつのまにか経営者も知らぬ前に掲載されていた……これは結果であって原因ではない。原因は上記の通り、専門家を置かず「ライト」の境目を設定せずに医療サイトを運営していた事にある。

さらに言えば「医療」ではなく「健康」や「美容」といった範囲であっても責任を持った情報発信を行うためには専門家の助言が必要だ。つまり問題は「素人が記事を書いていた事」ではなく、「素人が記事を書いても問題ないと経営者が誤解していた事」だ。

■2・経営者が現場の把握をできない。
当初、WELQが閉鎖され、他のサイトも閉鎖された際にmeryだけは閉鎖されなかった。理由は子会社で運営されていて問題はないと報告を受けていたと守安社長は会見に先立って行われたインタビューで答えている(DeNA守安氏「認識が甘かった」 WELQに端を発したキュレーションメディアの大騒動 テッククランチ 2016/12/1)。

しかし、その後は全体の8割と大量の記事を削除したのち、結局meryも閉鎖することとなる。

メリー以外の媒体を停止する時には、他サイト記事の転載を推奨していると思われかねないマニュアルが問題だった。しかしメリーについては、そのような運営は行っていないと確認できたので公開を続けた。しかし、削除する記事が一部あると聞いていたところ、実際には8割くらいの記事が非公開になったと、後で分かった。

出典:南場会長「会社を作り直す気持ちで」 会見詳報(3) 毎日新聞 2016/12/07

その後は取締役会で全てのサイトを閉鎖して第三者委員会を作ってキッチリ立て直した方が良いという結論に達したという。

子会社から正確な情報が上がって来ていない状況は企業ガバナンス上極めて深刻な状況にある。

■3・DeNAが運営していたサイトはメディアなのか?プラットフォームなのか?
社内で用いられていたマニュアルについて問われると、社長は口を濁している。

--他サイトからの転載を推奨するマニュアルは、現場レベルで整備できるものではないが、会社のどのレベルまで存在を知っていたのか。

守安社長 マニュアルが作られた経緯は、現時点で把握できていない。(マニュアルを)入手はしているが、媒体ごとに内容がかなり違い、速いスピードで改訂されている。第三者委員会で調査する必要がある。

出典:社長「後追いで監修をつければいいと思っていた」 会見詳報(4) 毎日新聞 2016/12/7

これは本当に知らないのであれば2のガバナンスの問題と同様と言えるが、マニュアルの存在は「WELQがメディアなのかプラットフォームなのか?」という問題にもつながる。メディアは新聞や雑誌、テレビなどのように、掲載される情報と掲載される場所が一体化している、つまりサイト運営者は掲載内容に責任がある。マニュアルがキッチリと作られて組織として記事を作成していたのであればメディアということになる。

そんな話は当たり前じゃないかと思われるかもしれないが、プラットフォームの場合は異なる。プラットフォームは外部の雑誌社・新聞社などから記事の提供を受けてそれを載せているだけという立場であり、記事の中身に問題があっても雑誌社や新聞社が責任を取るべき問題であり、サイト運営者には問題はない、というスタンスを取ることも不可能ではない。

DeNAのウェブサイトを見ると、自社運営サイトの表記を「キュレーションプラットフォーム」で統一しており、「メディア」という文言は入っていない。各種報道では「キュレーションメディアプラットフォーム」と表記しているケースも多数あるが、これはDeNA側の表記とは異なる。

そんなの偶然だろう、と思われるかもしれないが、DeNAがキュレーション事業を開始するきっかけとなったiemoとmery(ペロリ)を買収した際のプレスリリースでも以下のようなタイトルでメディアという表記は使っていない(DeNA公式サイト プレスリリースより 2014/10/01)。

「DeNAがキュレーションプラットフォーム事業を開始~キュレーションプラットフォーム運営会社2社を買収、リアル巨大産業の構造変革を目指す~」

■キュレーションとは何か?
そして謝罪会見では以下のようなやり取りも見られた。

--キュレーション事業を成長分野と位置づけていたが、その位置づけは今後、どうなるのか。

守安社長 「何をもってキュレーションメディアと呼ぶか?」から考えなければならないが、スマートフォン上におけるバーティカル(特化型)メディアへのニーズは、非常に高いと思う。

出典:「メルカリ」や「スマニュー」を作ることを目指したが……会見詳報(2) 毎日新聞 2016/12/07

自社の成長分野と位置付けている事業について問われて、社長自身がその定義を明確に答える事が出来ず、はぐらかすような回答になっている。これは極めていい加減な態度だと言わざるを得ない。

先ほどから「編集部」だったり「ライター」という言葉が出ていたり、今日配布された資料で合計10の「メディア」という表現がされているんですが、パレットというのはキュレーションプラットフォームという表現をされていたと思います。改めて、プラットフォーム、いわゆるCGM的なサービスなのか、メディアなのかというのをどう判断されているのか教えてください。

守安 プラットフォーム自体にいろいろな概念がありますので、プラットフォームというところに大きな意味があるわけではないのですが、記事の作り方として、いろいろな作り方のものが混ざっていたと。

出典:DeNA南場氏「経営者として非常に不覚だった」WELQの記事内容とネット上の医療情報について回答 - ログミー 2016/12/07

メディアかプラットフォームか?と問われて、これも明確な回答を避けている。会見では繰り返しメディアという言葉を使いながら、やはりメディアとして全ての責任は自社にあり、経営者である自分達に責任がある、と明言する事は避けている印象を強く受ける。第三者委員会を設置してこれから検証するのだろうが、それは責任の所在まで第三者委員会に判断をゆだねるという事なのだろうか。

会見ではプラットフォームだからサイト側に責任は無く書き手が悪いというわけではないとも説明はしているが、なんとも歯切れが悪い。

■WELQの記事は誰が書いていた?
WELQの記事は一般ユーザーや社内のアルバイトやインターンも書いているが、9割がクラウドソーシング、つまりネットで外部のライターに委託して書かせた記事である、この状況をメディアと呼ぶかプラットフォームと呼ぶべきか、とやはり明確な回答を避けている。この話がメディアとしての責任につながるからではないか。

マニュアルを用いて記事の9割が外部ライターに委託して書かせたものであれば、実態としてメディア以外の何物でもない。

それでも一般の人でも書けるような仕組みが用意されていたのは一体なぜか。素人が好き勝手に書いた記事の質が高いわけも無くサイトの品質を落とすだけだ。トラブル発生の原因になりかねない。しかし、それでもそういった機能をサイトに搭載していた理由はプロバイダー責任制限法の適用で、記事内容の責任から逃れるためという疑念を持たざるを得ない。

■問題が起きても免責される法律とは?
例えば無料ブログで著作権を侵害した記事を誰かが書いたとする。その場合、ブログ運営会社に責任は発生するか? この場合、現状では責任は発生しない事になっている。これはプロバイダー責任制限法といって、掲示板やブログなどを運営する事業者は利用者が自社のサービスを利用して犯罪を犯しても免責される。

なぜそんな法律があるのかというと、運営者に責任を問える状況になればこういったサービスは事業者にとってあまりに危険で運営が出来なくなるからだ。

つまり、誰もが好き勝手に記事をかける仕組みを準備しておけば、このサイトは掲示板や無料ブログと同じでメディアではありません、なので記事内容に問題があってもサイト運営者が責任を負う事はありません、全ての責任は書き手にあります……と免責される可能性も十分あるということだ。

記者会見ではこの点について突っ込みを入れた記者は居ないため真相はわからない。また、社長は会見冒頭で以下のように説明もしており、現時点では記事内容に責任が無いというスタンスはとってはいないが、当初の意図については分からないままだ。

守安社長 当社のサービスはインターネット上のメディアです。いかなる形であれ「メディア」という事業を行うにあたり、情報の受け手に正しい情報を適切に届けることは何よりも大切にしなければいけないことです。

出典:南場会長「創業者としておわび」 会見詳報(1) 毎日新聞 2016/12/07

■著作権についてあまりに認識の甘い経営陣。
3つの問題点を挙げたが、これは3時間に及ぶ謝罪会見の一部であり、他にもまだ問題点は多数散見される。

結局、全サイト閉鎖に至った状況を見る限り、キュレーションサイトの運営がそもそもまともな事業だったのか?という根本的な問題にたどり着く。それは50億円もかけてiemoとmeryを買収したにもかかわらず、トラブルへと発展させた経営責任にも直結する話だ。

これは事業が失敗したからでは無く、買収の時点で自社の法務部門からの指摘があり法的な問題を抱えていたことを承知の上で買収したことはテッククランチのインタビューや会見でも明言している。買収が行われた2014年には「バイラルメディア」という名称でコンテンツを盗用するサイトの問題がすでに顕在化しており、ウェブメディアの運営を考える上で気付かなかったとは到底言い訳ができる状況ではない。

キュレーションサイトは他サイトのコンテンツを何かしらの形で利用することが前提のメディアであり、WELQで発生した品質と盗用の問題は別々の話ではなく一体化している問題でもある。買収の時点で著作権の問題をクリアする目途は立っていたのか、極めて疑問が残る(クリアできると考えていたという発言はあるが、どのようにクリアしようと考えていたのか、具体的な内容は明かされていない)。

そして他社のコンテンツを勝手に盗用して切り貼りすることで一体どんな価値を生み出して誰の役に立っていたのか? 検索上位に表示されて広告収入で儲かるというだけで、顧客や読者に何か提供できるものはあったのか。

サイト運営者にはバズニュースというウェブメディアの運営者で過去に著作権で問題を起こしてサイトを閉鎖した人物を採用していることも明らかにされている。この人事も南場氏も含んだ経営会議の判断で行われたという。

もちろん、一度問題を起こした人を雇ったらいけないわけではないが、経営陣には著作権について甘い認識が共通していることも見て取れる。他社サイトのコンテンツの利用方法については弁護士に確認とか過去の判例をチェックといった話が全く出てきていないからだ。少なくとも現時点でキュレーションという手法でサイトを再開する目途は全く立っていない。

■第三者委員会は経営責任を追及すべき。
第三者委員会の設置目的は「今回の問題にかかる詳細な事実関係の調査および原因の究明(直接的な原因のみならず、企業風土、コンプライアンスおよび組織運営体制の課題といった背景となる要因等を含む)」とされている(第三者調査委員会の設置および当社キュレーションプラットフォームサービス全記事非公開化に関するお知らせ DeNA公式サイト 2016/12/05)

企業風土や背景となる要因といった文言を見ると根本的な部分まで調査するようにも読み取れるが、そのような漠然としたものではなく、買収に関する経営判断の可否、さらに言えば経営責任の追及も含めて調査を行うべきだ。事前に法的なリスクが社内で指摘されていたのなら当然だろう。時間とお金を無駄に費やした責任については株主からの追及も免れない。

守安社長は記者から執筆コストについて問われた際、私自身は記事を書いた事が無いと答えている。今回の問題を当初から追及していたライターやウェブコンサルタントはいずれも執筆を生業にしていたり、自身でブログを書いて事業展開に活かすなど、記事を書くことに命を懸けている人達でもある。

自分もこうして記事を書き、編集長としてウェブメディアを運営している。これまで散々記事を盗用されているから記事や写真を勝手に盗まれた人の怒りはよく分かる。自分は余りに悪質な事例について過去にNPO法人を著作権侵害で刑事告訴をしたこともある。手間をかけて記事を書くことは命を削っているも同然の行為だからだ。コンテンツに込められた想いを理解出来ない経営者にメディアやコンテンツに携わる資格はない。

また、今回はたまたまDeNAが問題になっただけで同様の問題を抱えているサイトが他にも多数あること、記事の盗用はネット上で横行しており、それは企業が運営するサイトでも決して珍しく無いことも明記しておきたい。
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中嶋よしふみ シェアーズカフェ・オンライン編集長 ファイナンシャルプランナー

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