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12月10日、日本卓球協会は「Tリーグ」という新たなトップリーグの創設を承認しました。

日本卓球協会は10日、東京都内で理事会を開き、新たなトップリーグの創設を承認した。日本リーグの実業団に加えて新たにつくられるクラブチーム、大学生チームまで門戸を開く。来年3月にもリーグを統括する社団法人を設立、2018年秋の開幕を目指して具体的な準備を進める。(「卓球新リーグ承認 『Tリーグ』来春にも新法人 」 日本経済新聞電子版 2016/12/11付)


今夏のリオ五輪での躍進や、ジュニア世代の台頭など、近年の卓球界は明るい話題が豊富です。記事によると、この勢いに乗って、当初はサッカーのJリーグのような、クラブチームだけで構成する完全プロ化を目指していたようです。しかし日本リーグ側が難色を示したため、現在の実業団・学生チームで構成されるリーグにクラブチームが新規参入する、プロアマ混在の形に落ち着いたとのことです。

この背景には、関係者の中に「本当にプロ化してやっていけるのか?」という根本的な不安があったのではないかと思います。

私は、卓球プロリーグ化はやり方によっては上手く行くのではないかと思っています。今回はその理由を説明してみます。

■卓球チームの“売上高”の目安は?
新リーグで参入が予想されるクラブチームの運営形態は、サッカーのJリーグやバスケットボールのBリーグに近いものになると思われます。そこで、Jリーグの鹿島アントラーズの経営数値を参考に、卓球チームの経営を数字から考えてみましょう。

鹿島アントラーズのホームページで確認できる2015年度のクラブ収支状況によると、営業収入は約43億1,000万円となっています。これを同じくホームページで確認できるチームスタッフ・選手の総数52人で割ると、“1人当たり売上高”は約8,200万円となります。

卓球1チームの構成を監督1人、コーチ1人、選手6人の8名体制と仮定し、上記の8,200万円を掛けると、1チームの年間営業収入の目安は6億5,600万円と計算できます。

次に、この営業収入をどうやって集めるかですが、鹿島アントラーズの場合、広告料収入が43%の18億6,000万円、入場料収入が18%の7億9,000万円となっています。

これをそのまま卓球チームに当てはめると、広告料収入の目安が2億8,000万円、入場料収入の目安は1億2,000万円となります。

■本当にお金は集まるか?
次に、この金額を集めることが現実的かどうかを検証します。

まず広告料収入ですが、現在の日本リーグに所属する企業を見てみると、協和発酵キリン、リコー、シチズンといった大手企業が名を連ねています。例えばシチズンの有価証券報告書で昨年度の広告宣伝費を確認すると、215億円を計上しています。3億円足らずの金額なら、捻出するのはそう難しくなさそうです。

また入場料収入ですが、キャパ3,000人規模の体育館をホームコートにするとして、入場率50%、チケット単価3,000円と仮定すれば、1試合当たりの収入は450万円となります。1億2,000万円を450万円で割ると26.666…となり、目安収入を得るためには27試合が必要であると概算できます。

単純計算で27試合をホームアンドアウェー方式で行えば倍の54試合となります。実際は総当たりを公平に行うために調整が必要でしょうが、現在のJリーグとほぼ同じ、ちょうど週2回、半年のスケジュールでリーグ戦を組めます。

客数、客単価、回転率(試合数)の観点から考えて、決して無理な数字ではないと考えます。

■有望な営業先は地方テレビ局?
鹿島アントラーズの収入状況を見ると、その他の収入源として、「アカデミー関連収入」「Jリーグ分配金」といった項目が上がっています。

卓球のプロチーム経営においても、下部組織や卓球教室の運営などで収益を上げることは必要でしょう。それと同時に、リーグの統括団体がリーグ全体の利益を考えて収益源を確保し、各チームに分配することも大事です。例えばテレビ放映権の管理です。

そこで、個人的には、地方テレビ局に営業をかけるのが面白いと考えています。テレビ業界は、2019年にもテレビ・ネット同時配信が解禁になると一部で報じられており、そうなれば地方テレビ局の経営は一層厳しくなると言われています。キー局の番組がネットで見られれば、キー局の中継局にすぎない地方局を見る必要性が薄れるからです。

そこで、地方局も自主制作番組を増やす必要が出てくるわけですが、その有力コンテンツとして卓球中継を売り込むのです。

地方テレビ局にすれば、卓球は選手の動作域が狭く、固定カメラ1台でほぼ試合の流れを追え、複雑なルール説明もいらない、比較的中継難易度の低いスポーツです。また、福原愛選手や石川佳純選手といった、並の芸能人より人気のあるスター選手が出てくれれば、スポンサー探しも楽でしょう。

統括団体側としても、地域密着の運営を推進するパートナーとして、地元の放送局ほどふさわしい存在はありません。部数減で同じく経営が厳しい地方新聞社なども巻き込んで、囲碁や将棋のようにタイトル戦のスポンサーになってもらうのもアイデアでしょう。

■最大の武器は固定費の低さ。
このように見ていくと、「卓球プロリーグ」はやり方次第で十分採算の取れるビジネスだと考えられます。

会計的に言うと、この採算性の秘密は人件費、すなわち固定費の低さにあります。サッカーのトップチームは30人前後、プロ野球の支配下登録は70人、バスケットボールも交代要員を含めれば11人ほどの選手が1チームに必要です。それに比べ、卓球は監督・コーチを入れても7~8人いれば団体戦を行えます。それだけ人件費は少なくて済むのです。

私が若い頃は、卓球と言えばマイナースポーツの代表のような扱いでした。それが、よくぞここまで実力とイメージを向上させたものだと感心します。これまでの道程を戦略的に歩んできた卓球界なら、プロリーグ化を成功に導ける可能性はあると思います。その意味で、今回の新リーグ構想はやや中途半端な印象を拭えません。個人的には、もっと攻めてもいいんじゃないかな? と思っています。

【参考記事】
■富士フイルムの事業転換は、本当に"華麗な転身”なのか。 (多田稔 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/49986760-20161112.html
■伊藤忠商事が中国で病院経営に乗り出した理由。 (多田稔 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/49594165-20160920.html
■マイナス金利下でもローソンが銀行をやる理由。 (多田稔 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/49724245-20161008.html
■シン・ゴジラでビルを破壊された三菱地所のBCPを勝手に考える。 (多田稔 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/49222132-20160802.html
■ロイヤルホストが24時間営業をやめる本当の理由。 (多田稔 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/50052834-20161121.html

多田稔 中小企業診断士 多田稔中小企業診断士事務所代表





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