読書


年末年始に読書をする機会が増える方も多いでしょう。新たな決意をしたくて、人には言えない心の悩みを解消したくて、自己啓発本などを手にする方も多いかもしれません。

しかし、その方はもしかしたら1年前も似たような本を読んだかもしれません。その1年前にも、ほとんど同じようなことが書かれている本を読んでいるかもしれません。お恥ずかしい話ですが、若かりし頃の私がまさにその典型でした。

そこで、年末年始を迎えるこのタイミングであらためて「読書」というものの本質について考えてみたいと思います。もちろん私の専門である数学的な視点も入れて。ただし、ここから先の「読書」とは実用書や小説ではなく、いわゆるビジネス書棚にあるような自己啓発本を対象とします。

■自己啓発本の内容は数学的にも正しい
まず前提として、そのような本に書かれていることのほとんどは正しいと考えます。もちろん数学的に説明できます。たとえば、「まずは第一歩を踏み出そう。それを続ける仕組みを持とう。そうすれば成功する」という主張があったとします。

この一文はいわゆる「ドミノ倒し」と同じ構造をしています。1番目のドミノが倒れるということは、2番目のドミノが倒れる。2番目が倒れるということは、3番目が倒れる。したがって、すべてのドミノを不備なく整然と置いていれば、「1番目のドミノが倒れる=すべてのドミノが倒れる」と結論づけて構わないでしょう。

実はこの論理は数学でも証明問題などで頻繁に使われる論述法であり、数学的帰納法と呼ばれます。要するに、「まずは第一歩を踏み出そう。それを続ける仕組みを持とう。そうすれば成功する」は数学的も正しいといえるのです。

■なぜ確率で考えないのか
もっと根本的なことを言えば、先ほどの例に限らず、少し数学的に考えればビジネスパーソンが成功する近道は明確です。成功した人がした行動を真似すればよいのです。

世の中に成功する絶対の方法はない。でも世の中には成功した人とそうでない人がいる。ならば前者がした行動を真似てやってみる。そのほうが確率は高い。中学生でもわかる数学の論理です。少し数学的に考えれば、私たちがするべきことなど明らかなのです。

数学という学問は1%の矛盾も許されません。ゆえに数学で「正しい」と証明されたものは絶対に正しい。例外はありません。ですから、数学で示された通りにやればいいのです。

■人間は、数学的にできていない
ところが現実はどうか。人間は、そのように数学的にできていません。
多くの方は単に「気分」が欲しくて本を購入し、読書をしています。たとえば「変われそうな気分」「できそうな気分」「モチベーションが上がったような気分」 そういったものです。

「そんなことはない、自分を変えるためだ」という反論もあるでしょう。しかし、読書することで人は変われると仮定するならば、日本のすべてのビジネスパーソンは簡単に「素晴らしい人」になれるということになります。

でも実際はそうではありません。そういう気分になっただけで終わっています。つまり仮定に対して矛盾が生じる。ゆえに仮定は誤り。極めてシンプルな数学的論述ですが、私の主張は正しいと証明されました。人は実際には行動せず、そんな気分が欲しいときにそんな気分をお金で買っているだけということです。

■「読書」とは何なのか
気分を提供することも本の立派な価値だという考え方もあるかもしれません。しかし、この記事において定義した「読書」においては、その考え方は間違っています。

なぜなら、仮に「気分の提供が価値」だとすると、読書は食事や映画鑑賞などと同じ「消費」(場合によっては「浪費」)ということになります。ビジネスパーソンは「消費」を目的に読書するための本を買い求めるでしょうか。それはおそらく「投資」のはずです。

常識あるビジネスパーソンなら、単にマイナスで終わるのではなく、いったんマイナスにはなるけれどそれをプラスに換えて回収するという発想を持つはず。損益分岐点を掴むような単純な話。少し数学的に考えれば誰でもわかること。読書の本質は「消費」ではなく「投資」なのです。

■どうせ“やらない”なら読書などしなくていい
そろそろ結論に向かいます。私もビジネス書を何冊も執筆しているひとりですから、多くのビジネスパーソンに「正しい読書」をして欲しいと願っています。

しかし、単に気分をお金で買うくらいなら、どうせ“やらない”なら、そもそも読書などする必要はないとも考えます。そんな読書は時間的にも経済的にも極めて非効率的な行為です。そんな時間があるのなら、忘年会や自分の趣味などで“ちゃんと浪費”したほうがよほど自分の人生にとってプラスかもしれません。

数学的に考えて生きていない人は、いくら年末年始に自己啓発本を読んだところで何も変わりません。年末年始を迎える前のこのタイミングで、あらためて自分にとって読書とは何なのかを再定義したうえで書店に足を運ばれてはどうでしょうか。

余談ですが、私の友人はあるビジネス書に書かれていた「スマートフォンの電卓アプリではなく自分の電卓を買って使うようにしなさい」を即実践し、何かあればすぐに電卓を叩こうとする行動習慣が身についたそうです。そんな小さなことと思われるかもしれませんが、その小さな一歩目ができない人は自分の人生を何ひとつ変えられない人です。私は「ドミノ倒し」にチャレンジしたこの友人を、とても素晴らしいと思います。


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深沢真太郎 ビジネス数学の専門家/教育コンサルタント

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