サッカーボール

2016年12月25日(日)深夜に放送された番組『あなたの夢、何ですか? KAZU×大谷翔平』(テレビ朝日)で、三浦知良選手(横浜FC)が大谷翔平選手(北海道日本ハムファイターズ)に向けてブラジル留学時代のエピソードを語った一幕があった。来オフ以降に米メジャー挑戦が有力視されている大谷選手へ贈ったキングカズの話は、今年話題の『GRIT(グリット)力』に通じる話であった。

■「なんだかいつの間にか成長してた」
まずは三浦知良選手の話を再現しよう。

「向こう(ブラジル)に甲子園みたいなものがあるんですよ。プロの登竜門みたいな。で、1年目、僕がまだ17のときに出て、もう打ちのめされたんです、最初。ぜんっぜん通用しなくて。向こうってその年代でもダメだったらプロと同じように叩かれるんですよ。あの日本人は必要ない、とか。くじけましたね。」

(変わったキッカケは?という大谷選手の質問に対して)
「変わったキッカケは・・・やっぱり、やっていくうちに・・・その、また一年後にその大会があるじゃないですか。今度、一年前よりも自分が成長してたんですよ、なんだかいつの間にか。その前の年は全然通用しなくて不安もあったんですけど、そこで大活躍したんですよ。それがキッカケでしたね。その1試合目ですごく活躍できて。プロの応援団が、ジュニアにも応援に来るんですよ。その人たちがKAZUコールをやってくれたり、いいプレーに対して。それで自分の中でも変わってきましたね。これはいけるかもしれない。」

この三浦選手の話のなかで、注目したいワードがひとつある。「いつの間にか」だ。

このワードから連想したのが、今年、本がベストセラーとなり、TEDでのプレゼン動画が再生回数9,791,085回(2016年12月29日現在)という大注目を浴びたという「やり抜く力=GRIT(グリット)」である。

■「GRIT」と留学
「GRIT」が何であるかは既にご存じの方も多いことだろう。成功するための重要な要素として提唱された「GRIT」とは、情熱を持ち、そして目的を達成するために長い時間、継続的に粘り強く努力することによって最後までやり遂げる力のことである。

「GRIT」については今年、留学業界仲間との間で、熱い話題になったことがある。留学の成功にも、必要なのは才能よりも、情熱と粘り強さであるという主張に我々はうなずけることが多い。

「留学を成功させたい」と多くの人が口にするが、成否の答えは留学直後には出ないものだ。留学をきっかけにさまざまな武器を手に入れて、帰国後も武器を活かして進化し続けることでしか、留学の成功はありえない。

MBAをとっただけで高い報酬が約束されているわけではないし、語学力を高めただけで願った好待遇が受けられるわけではない。留学で得られるのはキッカケである。

多くの場合、キッカケはひとつではなく、複数だ。「資格」「語学力」などのほか「転んでもタダで起きない精神力」「宗教観の違う人たちとの付き合い方」「意見を持つ習慣」などもあるだろう。

今年、多くの留学帰国者に帰国後の話を聞く機会があったが、誰もが「これからも能力を伸ばし続けるつもり」だと語った。アロマセラピーの国際資格を取得した人は、日本でも関連分野を学んで資格をとり、今後も頻繁に海外に渡って最新技術を得ていくつもりらしい。ビール好きが高じてヨーロッパをビール行脚して帰国した人は、自身の店を開業するために、次は経営を学びながらお金を貯めるそうだ。

■留学帰国から一年余りたったお笑い芸人・渡辺直美さん
ちょうど一年前の記事「渡辺直美さんのニューヨーク留学から考える『留学の成果』とは?」で、渡辺さんが留学を通じてわかったこととして「自分の良さとかやりたいことは口に出さないとわかってもらえない。」と語ったエピソードを紹介している。そして、その気づきが今後の渡辺さんの芸能人生に活きてくるのではないかと書いた。

「口に出さないとわかってもらえない。」と悟った渡辺さんはさっそく当時のインタビューで「海外でライブ中心に活動を広げたい」と口に出している。そして今年の渡辺さんといえば、自身を冠したワールドツアー『Naomi Watanabe WORLD TOUR』をニューヨーク、ロサンゼルス、台湾の3都市で開催。各都市でのチケットはあっという間に完売し、大成功を収めたことが報じられている。まだ留学帰国後一年余であるが、彼女は「口に出さないとわかってもらえない」という武器を活かして、これからもどんどんと成果につなげていくのだろう。

■カズはブラジルに行かなかったらキングカズだっただろうか
「タラレバ」が愚問であることは間違いない。しかし、つい思ってしまう。もし15歳で三浦選手がブラジル留学をしていなかったら今の三浦選手はあったのだろうかと。

三浦選手の言葉を集めた本「カズ語録」(PHP文庫)によれば、ブラジル留学した三浦選手が心がけていたことは「昨日うまくいかなかったからといって、今日はかならずうまくやろうなどと思わないことです。肝心なのは、こまごまとした不満を持たないこと」だと言う。そんな毎日を続けるうちに「よいところで、よいタイミングで、よい人に出会うことができた。それが大きかった。」と振り返るに至り、それを今はブラジルで選手として成長した要因として挙げている。

ネットの書き込みなどを見ると、留学に行ったけれどあまり意味がなかった、遊んで終わってしまった、といった投稿を見かけることがある。そんな人は、今からでも遅くない。留学中に得た交流や発見、挫折感、後悔、などを思い出してみてはどうだろうか。それがキッカケとなって新しい挑戦につながり、三浦選手のように「いつの間にか」何かに変わる日が来るかもしれない。

《参考記事》
■渡辺直美さんのニューヨーク留学から考える『留学の成果』とは?(若松千枝加 留学ジャーナリスト)
http://sharescafe.net/47311795-20151224.html
■ピース綾部さんにアメリカで遠慮なく失敗してきてほしい理由(若松千枝加 留学ジャーナリスト)
http://sharescafe.net/49869595-20161027.html
■トランプ政権誕生で懸念されるアメリカ留学への影響(若松千枝加 留学ジャーナリスト)
http://sharescafe.net/49969325-20161110.html
■アクティブラーニングは中高英語教育をどう変える?(若松千枝加 留学ジャーナリスト)
http://www.ryugakupress.com/2016/10/11/activelearning/
■政府「留学生30万人計画」目標まで残り11万5千人、どう達成するか(若松千枝加 留学ジャーナリスト)
http://www.ryugakupress.com/2015/09/18/300000/

若松千枝加 留学ジャーナリスト

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