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AKB48「紅白選抜」の上位48名が発表された。

■年齢制限で出演できないメンバーがいた
ただし、AKB48の出演が夜8時以降になることが確実であるため、中学生メンバーである矢吹奈子さん(15)と田中美久さん(15)は、ステージに立つことができず、高校生以上の他のメンバーが繰り上げ出場になるということである。

なぜそのような事態になったかというと、労働基準法上の規制によるものである。

労働基準法では、「満15歳に達した日以後の最初の3月31日が終了するまで」の年少者を就労させることを原則として禁止している。この点、芸能活動などの場合は、例外的に就労が許されているものの、午後8時から午前5時までは深夜労働に当たるとして芸能活動であっても就労が禁止されているため、矢吹さんと田中さんはステージに立つことができないという結論になってしまったのだ。

■労働基準法を形式的に適用する必要があるのか
だが、この結論は現行法の解釈に基づくとやむを得ないにせよ、実質的に考えて、誰も得をしない結論なのではないかと思えてやまない。

投票で紅白選抜に選ばれながら、ステージに立つことができない矢吹さんや田中さん本人は残念な気持ちで一杯だろうし、彼女らに投票したファンも、その姿をステージで見ることができず同様に残念な気持ちであろう。

もちろん、現行法のルールはルールなので、順守するべきものである。だが、立法論としては、今回のようなケースに対し、果たして労働基準法を形式的に適用する必要があるのだろうか、ということを問題提起してみたい。

すなわち、労働基準法の歴史を紐解くと、その前身は工場法である。明治時代には、貧しい農家の少女が製糸工場などに働きに出され、長時間労働や、休みも月に数日だけというような過酷な労働環境で働かされていたことが社会問題となり、労働者保護のために工場法が制定された。戦後、その労働者保護の考えを受け継ぎ、発展させたのが労働基準法である。

そうであるから、労働基準法による年少者の深夜労働の禁止の考え方は、毎日深夜まで年少者を勤務させ、過酷な労働にさらすことを防がなければならない、という観点に基づくものである。

■田中さんや矢吹さんにリスクはあるのか
この点、12月31日の紅白歌合戦という1日限定で、午後9時とか午後10時くらいに、田中さんと矢吹さんがステージに立つことを考えた場合、実質的に彼女たちの安全や健康が害されるリスクがあるのかどうかということである。

統計的に考えてみても、内閣府が発表した「平成25年版 子ども・若者白書」によると、平成23年度の中学生の平均就寝時間は午後10時55分ということである。それを踏まえ、例えば午後10時に出演が終わったのち、会場である渋谷のNHKホールから速やかに移動して周辺のホテルに泊まれば、睡眠や休息に関しても大きな問題はないのではなかろうか。

しかも、午後9時とか午後10時に紅白歌合戦に出演するというのは、1日だけに限った話なのであるから、疲労の蓄積を招く恐れも小さい。

■立法論としての方向性
ここで繰り返しになるが、現在施行されている労働基準法を守る必要はあるので、今回の紅白歌合戦に田中さんと矢吹さんが出演できないことはやむを得ない。

しかし、立法論としては、①本人の同意があること、②午後8時以降の労働が恒常的なものではないこと、③労働終了後に速やかに宿泊場所を提供する等の配慮がなされること、の条件を満たせば、15歳未満のアイドルや子役に対して、午後8時以降の労働を解禁しても問題はないのではないだろうか。

少年少女を過酷な労働から守るという労働基準法の使命は不変であるものの、一方で、実質的に有害でない場合に関してまで厳格に法律の原則を適用して、アイドルや子役から晴れの舞台を奪う必要が本当にあるのかということを立法者には考えて頂きたいところである。

■個人事業主と考えることは難しい
なお、矢吹さんと田中さんが現行法のもとで今回の紅白に出演するためには、彼女らを労働基準法上の労働者ではなく、個人事業主と解釈するという方法も考えられる。

この点、過去に光GENJIの当時14歳のメンバーが午後8時以降のテレビ番組に出演したことが問題となり、労働基準監督署が芸能事務所へ調査に入ったりもしたのだが、「他人では代替できない人気を誇ること」や、「芸能事務所と本人の契約の実態」を踏まえ、光GENJIのメンバーは個人事業主であるため、たとえ14歳であっても午後8時以降のテレビ番組に出演することは問題ないという結論になった。

しかし、別のあるタレントが15歳に達してはいたが、最初の3月31日が終了する前の段階で深夜のラジオ番組に出演した際には、労働基準監督署は、「個人事業主ではなく労働者である」と判断して、書類送検に踏み切っている。すなわち、一握りのトップアイドル以外は、少なくとも午後8時以降の労働に関する論点においては「労働者」と考えたほうが良いということである。

AKB48グループにおいては、長期的に安定した人気と実績を持つ、柏木由紀さんや渡辺麻友さんなど、一部の中心メンバー以外は、「労働者」という解釈になる可能性が高いであろう。

そうすると、田中さんや矢吹さんを個人事業主とみなして、強引に紅白に出演させることは難しいと考えられる。

■結び
今回紅白の舞台で歌えないことが、矢吹さんと田中さんにとっては非常に残念なことであることは間違いない。しかし、今回の一件が、年少の芸能人の働き方について、一石を投じるきっかけになってほしいと私は考えている。

《参考記事》
■AKB48選抜総選挙のスピーチからビジネスマンが学ぶべき言葉 榊 裕葵
http://sharescafe.net/45082578-20150608.html
■独立するなら学びたい、AKB48のキャリアウーマン岩佐美咲の仕事術 榊 裕葵
http://sharescafe.net/47686063-20160201.html
■日テレ内定取り消しの笹崎さんに必要なのは「指原力」だ。 榊 裕葵
http://sharescafe.net/41885958-20141114.html
■高橋みなみさんが社長になったら三菱自動車が立ち直るかもしれないと思った理由 榊 裕葵
http://sharescafe.net/49044734-20160711.html
■社員を1人でも雇ったら就業規則を作成すべき理由 榊 裕葵
http://aoi-hrc.com/blog/shuugyoukisoku-sakusei/

榊裕葵 ポライト社会保険労務士法人 マネージング・パートナー
特定社会保険労務士・CFP


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