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イクメンという言葉が認知されるようになってから久しい。先日も首相自らが「国家公務員における男性の産休取得を100%に」と発言した。

■イクメン推進は、もはや政策である

安倍総理大臣は「妻が出産する公務員には、全員、妻の産休中に数日間の休暇、つまり『男の産休』を取得してもらいたいと思います」と語った。(中略)子どもが生まれた直後から夫も育児に取り組めるよう、育児休暇に加えて妻の出産直後の休暇を取得することを推奨する考えを強調した。
AbemaTIMES「安倍首相「妻が出産する国家公務員は全員、産休を」」2016/12/15

上記はあくまで男性の「産休」であり、長期の休業を想定した「育休」ではないことに留意すべきであるが、働き方改革を標榜する政権だけあり、かなり踏み込んだ発言だと言えるだろう。

■時短勤務、絶賛継続中。
さて、筆者は組織に属するビジネスマンである。育休取得経験こそないものの、2児の父として、いわゆる時短勤務を足かけ2年、現在も継続中だ。具体的には、毎朝30分、上司同僚より遅く出勤し、その間子供たちの朝の準備と保育園への送りを担当している(保育園へのお迎えは夕方1時間時短をしている配偶者が担当)。

「たった30分でイクメン面するな!」と批判の声や「そもそも朝の30分なんてエンジンかかってない時間帯でしょ」というつっこみも想定される(実際に筆者も当初そのように考え、仕事への影響はほぼ皆無では無いかと楽観していた)。

また、働く環境はひとそれぞれであり、業務の内容や進め方もまちまちだ。業務の裁量の有無や個人で完結する業務・チームで行う業務等、状況も様々であろう。筆者一個人の経験に基づく議論はややもすれば独りよがりなものとなってしまうところではある。

しかし、そもそも男性ビジネスマンの時短勤務はマイノリティである。政策的に育休や時短勤務の取得率を向上させるべき国家公務員でさえ、時短勤務を取得した男性国家公務員はたったの13人に過ぎない(人事院「仕事と家庭の両立支援関係制度の利用状況調査(平成27年度)の結果について」)※当該数は本調査中、男性国家公務員が「育児短時間勤務」を利用した数を計上)。

いわんや一部先駆的な企業を除けば、民間企業の状況は、さらに厳しいものであるだろう。そのような状況下で、リーディングケースと言っては僭越だが、現座用数少ない男性の制度利用者として、その時々の心理状況や気付きについては、ビジネスパーソン間の共有知となり得るのではないかと考えたため、以下に論じるものである。

■(1)労働生産性向上は必須だった。
先に、「たったの1日30分であれば業務への影響など皆無であろう」と考えた、と述べた。しかしそれは間違いであった。

当たり前の話であるが、週休2日を前提とすれば、月の勤務日は20日前後となる。1日30分に20日を掛ければ、1月に勤務を欠く時間は、およそ10時間(600分)となる。1日8時間労働とすれば、丸1日と2時間分業務が滞るのだ。筆者は1日30分という比較的短時間であるが、例えば1日6時間労働に短縮している場合などは、さらに業務時間が大幅減となる。

まさに今話題の「労働生産性」の議論となる。業務時間は減となるが、(代替要員の確保や業務分担の見直し等が無い限り)業務量は減らないからだ。さらには、子供が小さい場合はやれ熱が出たやらケガをしたやらで、頻繁に業務を抜ける必要も出てくる。業務の正確さは維持したままスピードを上げ、即断即決を心掛ける等(しかも誤りがあると時間をロスするため誤ってはならない)、乾いたぞうきんを絞り上げるような努力が欠かせない、というのが実感だ。

■(2)周囲への感謝は忘れてはいけなかった。
また、完全なる思い上がりであったが、「たったの朝の30分、段取り良くこなせば同僚・上司にもご迷惑はかけまい」という思いがあった。

しかし、ささいなことであるが不在時の着電や緊急時の調整、チームで処理すべき業務発生時の不在など、朝のフレッシュな時間での対応は思いのほかおおいものである。社会人として当たり前のことではあるが、いかなるイレギュラーな業務発生時も全体が滞らないような連携や、そもそも諸々へ対応してくれる周囲の人への感謝の念は忘れてはならないということに気付かされた次第である。

月並みな表現となるが、いかに制度が法令や会社の規則に則ったものだとしても、周囲へ礼を尽くす姿勢や気持ちは持ち合わせたいものである。周囲との良好なコミュニケーションは、社内の人間関係や自身のメンタルヘルスを向上させるものだからだ。

■(3)朝の時短だけでは済まなかった。
子どもが小さいほど業務を抜けねばならない、と述べたが、ここ数年来、おそらくかつてないほど医者(小児科)のお世話になっている。「37.5度の涙」というドラマでも描かれたことであるが、保育園では子供が一定以上発熱した場合、保護者に引き取りに来てもらうことになっているからだ。

正確な言い方をすれば時短ではなく「子の看護休暇」という対応となるが、保育園までのお迎えの移動時間や小児科での待ち時間を考えれば、短くて半日を費やすこととなり、感染症となればそもそも保育園に預けられないため、1日の休暇を余儀なくされてしまう。

とにかく「明日自分が出勤できるとは限らない」という認識のもと、その日の業務は当該日中に完結させ、逐一周囲の人間と連絡を密にするなど、小まめな引継ぎを繰り返すほかないのである。

■(4)自身の働き方は、パートナーのニーズに合致したものか?よく考えるべきだった。
さて、現在も時短勤務を継続中の立場から最後に強調してお伝えしたいことがある。それは、時短勤務の利用、ひいては自身の働き方がパートナーのニーズに合致したものかどうか、よく確認してほしい、ということだ。

イクメンが政策的にももてはやされる昨今、あたかも仕事をバリバリこなし、残業も発生させず、育児や家事も妻とフィフティーフィフティーで行う男性こそが素晴らしい、という極端な認知がされがちである。

しかしながら、夫婦のあり方や働き方は、本来当該夫婦間の合意に基づくものであり、他人やましてや国家が「こうあるべき」と強制するものではない。

例えば、「妻が家事・育児全般を担うかわりに夫が寝食を忘れる勢いで出世街道をひた走る」とか「稼ぎのいい妻がキャリアを広げていき、夫はいわゆるゆるキャリ志向で働く」といった夫婦の姿も(労基法等法令に違反しないという前提で述べれば)、夫婦間で話し合い、納得しての結論であれば、だれも頭ごなしに否定できるものではないはずだ。

すなわち、筆者は個人の事情で時短勤務を選択しているだけの話であって、それが素晴らしいあり方なのだ、と主張するつもりはないのだ。ただ現状、それが筆者夫婦のニーズに合致するものであるだけの話にすぎない。

「キャリア」という言葉を「(職業を取り巻く)人生」そのものと広義に捉えるならば、時短勤務を含めた働き方はまさに「あなたは人生において、どのようにありたいと望むのですか」という問いとなる。「子を授かる」という、人生においてそう何度もあるわけではない出来事を契機ととらえ、是非一度夫婦で働き方論議を交わしてみてはいかがだろうか。

【参考記事】
■「絶対にクビにならないから、公務員になろう!」は正しいのか? (後藤和也 産業カウンセラー/キャリアコンサルタント)
http://sharescafe.net/50168898-20161207.html
■キャリアコンサルタントが自身のキャリアを描けない、という笑えない話。(後藤和也 産業カウンセラー/キャリアコンサルタント)
http://sharescafe.net/49875267-20161028.html
■電通新入社員自殺、「死ぬくらいなら辞めればよかった」が絶対に誤りである理由。 (後藤和也 産業カウンセラー/ キャリアコンサルタント)
http://sharescafe.net/49739049-20161010.html
■公務員の給与引き上げは正しい。 (後藤和也 産業カウンセラー/キャリアコンサルタント)
http://sharescafe.net/49293753-20160812.html
■サザエさんの視聴率が急降下した本当の理由とは。 (後藤和也 産業カウンセラー/キャリアコンサルタント)
http://sharescafe.net/49055679-20160711.html

後藤和也 産業カウンセラー キャリアコンサルタント

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