1078663


トランプ新大統領がどのような政策を打ち出すのかが今一つ見えて来ませんが、この段階で敢えて大胆に予測するなら、日本経済にはプラスだろうと期待されます。今回は、そう考える根拠について記してみましょう。


■米国は輸入関税と積極財政で国内に雇用を取り戻す
トランプ新大統領は、中国やメキシコからの輸入を目の敵にしており、これを制限することで国内の雇用を取り戻す事を目指しているようです。加えて積極財政政策を採ろうとしているようです。

そうなると、米国の景気は拡大します。しかも移民は制限するわけですから、労働力不足による賃金上昇がインフレ圧力となります。そうなれば、金融政策は当然に引き締め気味となるでしょう。仮に金融政策が引き締められなくても、長期金利は上昇するでしょう。

一方で、日本は長短金利が当分の間ゼロ近傍で推移するでしょうから、日米金利差の拡大によりドル高圧力がかかるでしょう。これまでの所、トランプ新大統領が露骨な円高圧力をかけてくる可能性は大きくないと感じられるため、方向としてはドル高を予想して良いように思います。円高政策を採る可能性も皆無ではありませんが、トランプ新大統領のこれまでの言動からすれば、「ポピュリズムに相応しい、誰が見てもわかりやすい政策」が選択される可能性の方が高そうでしょう。記者会見でドル高批判をしたとされていますが、主なターゲットは人民元安であって、限られた情報から判断する限り、円安是正はトランプ氏の優先事項ではなさそうです。

米国の景気が拡大して、しかもドル高ですから、日本の対米輸出は自然体ならば大幅に増えるでしょう。これをトランプ新大統領がどのように防ぐのか。対日輸入関税は、それほど効かないかも知れません(後述)。

仮に対米輸出が増えなかったとしても、ドル高円安になれば、米国以外への輸出が増えると期待されますから、日本にとって恩恵であることは間違いないでしょう。アベノミクスによる円安ドル高で輸出数量が増えなかったことを考えると、過大な期待は禁物ですが。

■米中貿易戦争で日本は漁夫の利を得そう
米国が、中国からの輸入を削減すべく、高率な関税を課するとします。中国の対米輸出が減り、中国の景気が悪化すると日本の対中輸出が減ると心配している人がいますが、心配無用です。米国が中国から輸入していたものは、他の途上国から輸入するか、米国内で作る事になるので、他の途上国か米国の景気が上向き、そこが日本からの輸入を増やすからです。一部は米国が中国からの輸入を日本からの輸入に振り替える部分があるかも知れませんが、これは余り期待しない方が良いでしょう。

中国に進出している日系企業の子会社が、対米輸出が落ち込んで困るという人がいます。それはそうでしょうが、中国にある日系企業は中国の会社であって、売上が落ち込んでも中国人が失業するだけです。親会社である日本企業にとっては海外子会社からの配当が減りますから、株式投資家にとっては問題かも知れませんが、マクロ的な日本の景気への影響は軽微でしょう。

一方で、中国が米国に対して報復関税を課すとします。そうなると、中国が米国から輸入していたものの一部は、日本から輸入される事になるでしょう。中国が米国から輸入しているものは、「高い技術力を要するので、中国国内では生産できず、どこかの先進国から輸入せざるを得ない」ものばかりです。そうでなければ、人件費の安い中国国内で作るはずだからです。

■日本は対米摩擦の免疫あり
トランプ新大統領が「大衆にわかり易い政策」を採るとすれば、対日輸入関税も一つの選択肢でしょう。大衆には、過去に対日輸入に苦しめられた記憶が残っているからです。しかし、あまり効果があるとは思われません。日本は、中国やメキシコと異なり、対米貿易摩擦に悩まされて来た長い歴史があるため、免疫力が付いています。米国内に多くの工場が作られていますし、日本からの対米輸出品は「輸入関税をかけると米国が困る品目」も多くなっています。

加えて、仮に20%の対日輸入関税が課されたとしても、大統領選挙前の1ドル100円が120円に上がれば、日本の輸出企業が円建ての手取りを変えずにドル建て輸出価格を20%引き下げることが出来ますから、何の問題も起きないわけです。

■トランプ新大統領による日本経済へリスクは中東の混乱かも
米中が、経済戦争にとどまらず、台湾や南シナ海などを巡って軍事的な緊張が高まる可能性はありますが、本稿はそこには触れないことにしましょう。そうなると、リスクは意外と中東の混乱かも知れません。

過去の米国は、原油を輸入していましたから、中東地域の安定に強い関心を持っていました。しかしシェール・オイルの開発により米国が原油を自給できるようになると、中東に関与するインセンティブは大きく削がれます。

一方で、原油価格は低位安定しそうです。シェール・オイルの掘削技術が進歩して、安価にシェール・オイルが掘れるようになれば、原油価格には上限が設定されてしまいます。そうなると、原油輸出代金でバラマキを行なってきた中東の王族が、財政悪化でバラマキを続けられなくなり、国内が混乱しかねません。そうした間隙を突いて、ISのような組織が勢力を伸ばしたり、最悪革命が起きる可能性さえもあります。

過去の米国は、「世界の警察官」という自負心を強く持っていましたから、(失敗した例もありましたが)中東の平和にも積極的に関与してきました。それに世界のエネルギー消費は依存してきたのです。しかし、トランプ新大統領は米国第一主義ですから、(さすがに日欧の同盟国は守るでしょうが)中東地域には関心を持たない可能性があります。そうなれば、原油が自給できる米国はともかくとして、原油のほとんどを中東からの輸入に頼っている日本経済には大打撃となりかねません。中東情勢に要注目です。


【参考記事】
■少子高齢化による労働力不足で日本経済は黄金時代へ(塚崎公義 大学教授)
http://sharescafe.net/49220219-20160809.html
■労働力不足でインフレの時代が来る (塚崎公義 大学教授)
http://sharescafe.net/49018387-20160708.html
■老後の生活は1億円必用だが、普通のサラリーマンは何とかなる (塚崎公義 大学教授)
http://sharescafe.net/49185650-20160728.html
■国債暴落シミュレーション:Xデーのパニック(塚崎公義 大学教授)
http://ameblo.jp/kimiyoshi-tsukasaki/entry-12199602230.html
■とってもやさしい経済学 (塚崎公義 大学教授)
http://ameblo.jp/kimiyoshi-tsukasaki/entry-12221168188.html

塚崎公義 久留米大学商学部教授



この執筆者の記事一覧
このエントリーをはてなブックマークに追加


関連コンテンツ
シェアーズカフェからのお知らせ
シェアーズカフェでは住宅・保険・投資・家計管理など、個人のお金に関するレッスン・相談・アドバイスを提供しています。SCOL編集長でFPの中嶋が直接指導します。
シェアーズカフェ・オンライン編集長の中嶋が士業・企業・専門家向けの執筆指導・ウェブコンサルティングを提供します。




執筆者プロフィール