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働き方改革の旗手ともなるべき厚生労働省で、若手職員が子連れでパパ友会を実施したという。皆年休を取得したうえでの開催という、前例のない取り組みだ。

■厚労省「超イクメン部」の活動とは

男性の育児参加を促すため、厚労省の若手職員らが子供を連れて厚労省に集まった。有給休暇を取り、子供とともにパパ会を行ったほか、職場に子どもを紹介したりした。現在約27%の厚労省の男性職員の育児休業取得率を、100%にすることを目指し、民間企業のモデルになりたい考え。
日本テレビ系(NNN)「厚労省「超イクメン部」職員が子連れでパパ会」2017/1/19

イクメン部の中心は子育て世代の20~30代の若手職員という。先に厚労大臣も「イクボス宣言」をしたばかりといい、労働行政を担う厚生労働省が全省をあげてイクメン推進、ひいては働き方改革の一翼を担う、という意思を示した出来事であると言えよう。

■超イクメン部への非難の声へ勝手に応えてみる
しかし、案の定というべきか、本件に関して批判的な意見が散見される。「公務員の削減が必要(パパ会やるなんて暇な証拠、という意味か?)」「(男性の育休取得が)民間に浸透してから公務員も実施にすればよい」などだ。その他、感情にまかせたような公務員バッシング的な論調も目立つが、これらの意見は正しいのだろうか。条件反射的な意見にアンサーをするのも気が引けるが、以下論じてみたい。

国家公務員一般職と特別職を併せた現員は平成28年度でおよそ58万人。平成12年度の113万人に比して実に55万人減少している(人事院HP「国家公務員の数と種類」)。しかしながら、その業務は併せて半減することなく、ニーズの多様化等によりむしろ増加しているというのが実感であろう。我々国民の厳しい目にも、常にさらされているのだ(だからこそ、本件のようにいちいちバッシングを受けるのだ)。

先に「「公務員は労働基準法の適用外だから働かせ放題」は正しいのか?」という記事中でも紹介した通り、国家公務員における本府省庁の年平均残業時間は364時間とされている(人事院「平成27年度国家公務員給与実態調査」)。しかしながら、労働組合のアンケート調査によればさらに年間80時間程度の乖離があり、調査の数字以上の、いわゆる不払い残業が指摘されているのである。

厚労省超イクメン部のメンバーとて、決してヒマなわけではないはずだ。当然、イクメン部の活動に充てた時間分だけ彼らの業務はたまっていくだろう。場合によっては、そのまま残業時間に跳ね返ることになるかもしれない。

上述のバッシングとて、想定されたはずだ。正直なところ、外部だけでなく部内でも、コンセンサスを得られない局面もあるだろう。それでもパパ友会の実施を決行したということは、単なるパフォーマンスではなく、労働行政に携わる者としての使命感に他ならないのではないだろうか。


■官が民をリードすべき時とは
また、国家公務員の給与等については民間情勢適用の原則に従うのは当然であるが、政策的に、民間に浸透しない施策や制度を、先行して導入するのも、官僚の仕事なのである。

例えば育児休業制度の実施や総労働時間削減を目指した週休二日制の導入など、国を挙げて取り組むべき政策は公務員が率先して取り組んだ。もちろん現在とて、実質育休なんて取れない職場や諸々の事情で週休2日が実現できない職場はあるが、官が民をリードした先行事例といえよう。もちろん当時も「公務員はお気楽でいいな」といった批判の声はあったろうが、今現在「育休がなければよかった」とか「週休2日制がわが国経済を低迷させた」等という議論にはならないはずだ。

残念ながら、男性の育休促進はまだまだ道半ばだ。先に首相が発言した「男性国家公務員の産休取得」についても、配偶者の出産に伴う短期の休暇取得を指すのであって、長期の休業を想定した育児休業取得という意味ではない。働き方を是正する役割を担う厚労省内でパパ友会が開かれるのは、単純なPR以上の意味があるのだ。

■本件は、嫉妬を超えた議論が必要だ
勿論、公務員におけるお手盛りの処遇改善は許されるべきではない。しかし、条件反射的に、公務員のやることなすことを批判した先に何が残るというのか、立ち止まって考えてみるべきだろう。

先の電通における新入社員の自殺問題では多くの国民の怒りの声が聞こえた。その声が大きなうねりとなり、(一抹の不公平感は拭えないものの)不払い残業やブラックな働き方は、見直しを迫られているといえよう。しかし、ブラックな労働環境に怒っておきながら、一方でイクメン推進を標榜する厚労省イクメン部を叩く、というのは何ともトンチンカンではないか。「パパ友会なんてしてないで必死に働け」「俺は子供の寝顔しか見られないのだ」などという論調は、悪い方に相手を引きずり下ろす論理であり、突き詰めていけば、ブラックな働き方を強制することにはなるまいか。

人は、自分より恵まれている人を見ると、相手のレベルを下げて自身の欲求を満たそうとしてしまいがちだ。例えば自分より若くて美しい同僚がいれば、陰で意地悪な噂話をして憂さを晴らしたりする。自分より能力のある優秀な若手がいれば、声を荒げてパワハラ的な指導で屈服させようとする。

これらはいずれも、相手を攻撃し弱らせたうえで自身の自尊感を保とうとする行為だ。しかし、賢明な方はお分かりのとおり、相手のレベルが下がって相対的に自身が上位に立っているようにみえるかもしれないが、自身のレベルは現状にとどまり続けたまま、ということになる。非常に空しい行為ではなかろうか。

厚労省超イクメン部のパパ友会に対して、「公務員が調子に乗りやがって」という感情が1%でもあるとすれば、冷静な議論はできないはずだ。彼らが目指すべきものは何なのか。彼らが一石を投じた先に、我々や次世代が、一層働きやすくなる道筋が見えるのではないか。その可能性について、冷静に考えてみたい。それが、堂々と顔をニュースにさらしながら活動している彼らへの、最低限のマナーであると、筆者は考えている。

【参考記事】
■「絶対にクビにならないから、公務員になろう!」は正しいのか? (後藤和也 産業カウンセラー/キャリアコンサルタント)
http://sharescafe.net/50168898-20161207.html
■キャリアコンサルタントが自身のキャリアを描けない、という笑えない話。(後藤和也 産業カウンセラー/キャリアコンサルタント)
http://sharescafe.net/49875267-20161028.html
■電通新入社員自殺、「死ぬくらいなら辞めればよかった」が絶対に誤りである理由。 (後藤和也 産業カウンセラー/ キャリアコンサルタント)
http://sharescafe.net/49739049-20161010.html
■公務員の給与引き上げは正しい。 (後藤和也 産業カウンセラー/キャリアコンサルタント)
http://sharescafe.net/49293753-20160812.html
■サザエさんの視聴率が急降下した本当の理由とは。 (後藤和也 産業カウンセラー/キャリアコンサルタント)
http://sharescafe.net/49055679-20160711.html

後藤和也 産業カウンセラー キャリアコンサルタント


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